5-102 闇の世界1








「――はぁっ!?」




サヤは今までみていた悪夢から目覚めると、呼吸も心臓の鼓動も普通よりも速く動いてた。



気が付くと、サヤは薄汚い場所にいた。

ゆっくりと地面に手を付けて身体を起こすと、身体が重く身体に重りでも付けたいるような感覚だった。

辺りを見るとジメジメとした枯草が腐り、その下で足の数が多い虫が蠢いているのが見えた。



「……ひ、ひぃっ!?」



腕がもぞもぞとする感触は、気持ちの悪い虫がサヤの身体の上を我が物顔で動き回っていた。

サヤは気持ちが悪くなって、その虫を急いで払い除けた。




「……な、なんなのよ。ここは!?」




サヤは周りを見渡すと、ここは洞窟の中のようだった。

然程遠くない場所に出口が見え、サヤは覚束ない足取りでその場所まで向かっていった。




「――!?」



出口から見た景色は、サヤの想像していなかったものだった。


この洞窟は鋭い傾斜の崖の途中にあり、その高さは落ちればまず助かりはしない程だった。

上を見上げれば崖の終わりが見えるが、その先がどうなっているか知ることは出来なかった。

サヤはぬるぬるとした壁に体重をかけながら、ゆっくりと出口から数歩遠ざかる。




「なんで、アタシこんなところにいるのよ!?一体どうなってるの!!」



サヤは一度、濡れた地面の上に腰を下ろし、いままでの自分の記憶をたどった。


最後の記憶は、自分が働いていた店の中。

ガソリンを撒き散らし、皆を道連れにして自殺をしようとしていた。

そして、その行動は成功した……はずだった。


ユウタともみ合って、突き飛ばされた勢いでハルナとぶつかった。

その時運悪く静電気が起きて、視界は一気に炎に包まれていった。



その証拠として身に付けている服はあの時のままだが、服には焼け焦げた跡があり身を隠す役目は成していない。

しかし不思議なことに、身に付けている服とは裏腹に身体には炎によって焼かれた跡がどこにも見られなかった。



サヤはそのままの場所で、じっと時間を過ごした。

夜になり朝が来ても、まだその場所にずっと腰を下ろしていた。

奥に行けばあの気持ちの悪い虫が、自分の身体に何かをしそうな気がしていた。

そして、ここにいれば誰かが自分を見つけて助けてくれるかもしれない……そう思っていた。



だが、その思いは都合の良い自分勝手な物だと思い知らされた。



数日間この場所にとどまっていたが、人が気付いてくれるどころか人間や生き物の気配がない。

鳥のようなものが飛んでいるのは見えたが、サヤに近付いてくることはなかった。

唯一助かったのは、喉も乾かずお腹も減らないということだった。




元いた世界の基準で考えると、一週間が経過した頃。

サヤはこのままではいけないと、できることから行動を起こすことにした。



サヤはもう一度、崖の状況を確認する。

足場や取っ手になりそうな突起状の石が、崖のいたるところに見えた。

だが、その突起が安全で丈夫な状態だとは限らない。

上に登るにも下に降りるにも、それらを伝っていかなければ難しいだろうと判断した。

とりあえずそのことは後回しにして、他の行動を考えるようにした。



「この奥……いったいどうなってんの?」



入口近くからは、一番奥まで光が届かずに確認することは出来なかった。

サヤは少しずつ奥へと足を進めていった。



光が届かない暗闇の中で、目を瞑りじっとしている。

暗闇に慣れるには、数十秒目を閉じた方が早くなれるとどこかで聞いたことがあった。


目を閉じてじっとしていると、神経が集中していくのがわかる。

その足の裏に蠢くものを感じるが、足に上ってくる感触がないためそのままにしておいた。


サヤは再び目を開けると、うっすらと洞窟の中の状況が見えた。

入口から届く光が少しだけでも、この視覚の補助をしてくれているのだと感じた。



そのまま奥に進むと、天井が低くなり腰を屈めなければ先に進むことは出来なかった。

そして、その終点と思われる場所にサヤはたどり着いた。



「……?」



見えないながらも手探りで壁を触っていくと、そこに小さな穴があるのが分かった。

覗いても光がないためその奥は見えない、頬をその穴に近付ければ少しひんやりとした風が流れてくる気がした。



「……よし」



その穴に何があるのかわからないが、このまま何も状況が変わらないよりはマシと考えた。

サヤは腕の布をまくり、その穴の中に手を入れてみた。











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