5-100 魔神からの提案








『ふむ……丁度良い。お前に聞きたいことがある』




そう告げるとオスロガルムは片手を挙げ、後ろについてきた魔物たちに何もせずその場に待機しておくように命じる。

その様子を見たステイビルは、オスロガルム言葉に対して反応を見せた。




「……聞きたいことだと?」




オスロガルムは、ステイビルの背中に背負っている盾に一度焦点を合わせ、再びステイビルの顔に戻した。



『その盾は、あの剣と同じくお前たちにとって特別な物なのだろう?剣と盾、それぞれに何らかの意味があるのだろうが……今はどうでもいい』


この場にいるメンバーを見回し、西の王国の際にいた者たちが数名いないことに気付いた。

だが、まずはこの場の話を進めるために初めに用意した疑問をステイビルに投げかけた。



『あの剣はいま、サヤが持っているのだろう?それよりもなぜ、彼奴がその剣を手にすることができた?……奪われたのなら、お前たちは抵抗しているはず。それに、あの時いた、今ここに居ない者たちはその際に殺されたのか?……どうやってサヤはあの剣を手にした?』




「それは……」





ステイビルはそう切り出し、あの時は仲間が人質を取られそれを引き換えに剣を差し出したと簡単に説明した。

そのことを聞いたオスロガルムは、ステイビルの話を疑うこともなく腕を組んで考えを巡らせていた。





『ほぉ……アイツ人質をとったか。お前たちの仲間となれば、その身を拘束することも容易ではないだろう。ますますワシに何か隠しているようだな……それで、お前たちの仲間が変わったことはそれと何か関係があるのか?あの者は……ハルナといったか?あの者もサヤと同じく他の世界から来たと聞くが……』



「ハルナはいま……任務から”外れている”のだ。傷を負ってな……」





なるべくこちらの事情を話さない様にと、誤魔化すようにオスロガルムの言葉に返す。

きっとこの言葉も疑われており、嘘とバレている感じながらステイビルは次の対応を待った。

だが、その心配も不思議なくらいに無駄に終わってしまった。





『そうか……』



「……?」






オスロガルムはその一言で、ステイビルの思惑を無にしてみせた。

ステイビルはそこから追及され、状況の確認をされるものだと思っていたが、オスロガルムはそれ以上ステイビルの言葉を不思議と追求することはなかった。

この場面でこちらから迂闊に言葉をかけては、状況を悪くなってしまうだろうということは今までの勘から感じ取り黙ったままでいた

その間も緊張した時間が経過し、ステイビルの背中には冷たい汗が流れる。

そして、何かあった際にはすぐに攻撃と防御ができるようにも頭の中でシミュレーションしていた。



結局その心配も杞憂に終わり、オスロガルムは何もしかけてはこなかった。

その態度は今まで魔物に見たことのない、本当に交渉をしたいという相手の態度に似ていた。

そのことからもステイビルは今までの魔物たちと違う行動に対し、最大限の警戒心を保ちつつ接していた。



そして、その相手の行動がさらに変化を遂げる。

オスロガルムは、ステイビルたちに対して両手を広げこう告げた。





『お前たち……このワシと組まぬか?』










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