5-69 強制退出









「やっと、捕まえた……トカゲ。だけどまさか、あんたがくるとは思わなかったけどね」



サヤが現れると、この空間に色がついて行く。

モイスも初めて目にするその光景に声が出ない……そこは大きな球場だったにだが、見たことのない者たちにはそれがなにか当然判らない。


現れたサヤは掌の上に同じような箱型の空間を乗せており、その中身が探していたクリエの存在であるとモイスは判断した。



ヴァスティーユはサヤの姿を見ると、胸に手を当てて頭を下げこの場に迎え入れる姿勢をとる。



「ヴァスティーユ……なに愚図愚図やってるんだい?こんなやつ、すぐに捕まえなきゃダメだろ?あんたは何のためにここにいると思ってるんだ!?」



「す、すみません……お母様」



ヴァスティーユはサヤに対して怯えているが、その態度を表に出していない。

そのことがわかると、もっと機嫌を悪くしてしまいひどい目に会ってしまうからだ。

その状況をヴァスティーユは、諦めに似た感情で受け止めている。


モイスはその関係性を不思議に感じたが、今それを追求する場面ではないとサヤに集中をする。


サヤはクリエの存在が入った箱をヴァスティーユに向ける、ヴァスティーユはそれを頭を下げたまま両手で受け取った。

そしてサヤはモイスを閉じ込めてある箱の空間に手を触れて、モイスの顔を見つめる。


無防備に近付くサヤに対し、モイスは元素の少ないこの空間の中で自分の身体を構成する元素を使用してサヤに氷のブレスを吹きかける。

だが、その攻撃は囲まれた空間の外に出ることはなく、サヤには全くダメージがない。

その行為に対し、サヤは無駄なことするモイスにイラっとしたがこれからのことを考えグッと感情を抑え込んだ。



「ふん、まぁいいさ……さて、トカゲちゃん。あんたに協力してもらいたいことがあるんだ」



『なぬ?協力……だと』



「そう。あんたは西の王国に国宝の剣があったのは知っているだろ?……あれ、ここに持ってきてくれない?」



『なぜ?何のために……ぐっ!?』


モイスは自分の身体が、サヤの力によって消されていることに気付いた。

別にこの世界から消滅してしまうことには何のためらいはない……が、こんな風に消えてしまうのは今まで大竜神とあがめられてきた自分のプライドが許さなかった。

しかし、いまはこんな状態で何ひとつ反撃する手段もない。

できることと言えば、なるべく情報を引き出すことだと判断しモイスは言葉をつなげることを止めた。



「あんたは黙って聞けばいいんだよ、トカゲ!!……それにあれはあんた達じゃ使えないだろうし……っと。あんた達は余計なこと知らなくてもいいんだ……よぉっ!?」




サヤは青空が広がる天空を見上げ、左右に顔を向ける。

そして、何を感付いたのか一つ舌打ちをして独り言を話し始めた。




「え?もう来ちゃったわけ?んっとに、もう。ハルナ……もう少しねばってほしかったんだけどね」



サヤは再び、モイスの顔を見る。先ほどまでと違うのは、少しだけ焦りの色が見えていた。



「わかったよ、トカゲちゃん……交換条件だ。あの剣をもってきてくれたら、こいつは返してやる!……あいつが来るから、まずは逃げるんだね!絶対に、あいつに剣をとられるんじゃないよ!!」



『ま、待ってくれ!あいつとは……一体!?』




サヤは、モイスがもう承諾してくれるものと思っていたが、さらに関係のないことを口にしたためイライラ度が急激に増した。





「んもぉ。あいつだよ!……魔神、オスロガルムがここに向かっているんだよ!いいかい!?絶対に剣をとられるんじゃないよ!!」



『ま……まて……なぜハルナが……!?』




モイスの言葉を無視して、サヤは空間からモイスは外の世界へとはじき出された。


するとそこには、険悪な雰囲気を漂わせているキャスメルたちがいた。















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