5-68 クリエ救出
モイスの口から発せられた言葉に、この場にいる全ての者の意識がモイスに集まる。
『――むぅっ!?』
様々な感情が混ざった意識が向けられたことにより不快な感覚を覚えるが、キャスメルたち人間の心情を慮ればそれは不敬なことではないとモイスは理解する。
「も、モイス様。先ほどのお話は一体……どういうことでしょうか?」
『わかった、話して聞かせよう。ワシが見てきたことの話を……その前に、まずはそ奴のことを離してやれ』
カルディはモイスの言葉に我に返る、ずっとキャスメルの頬を両手で挟んだままの状態だった。
キャスメルは両側からの頬の外圧から解放され、一緒に動きを止められていた手を自由にした。
カルディからの熱を手の甲に感じながら、身体をモイスの方へ向け言葉の続きを待った。
モイスはこの場の空気が落ち着いたことを感じ、準備が整ったと判断して先ほどの話の続きを口にする。
『ワシは先ほどまで、クリエなる存在を助けるために行動しておったのだ……』
モイスは今までステイビルたちと行動を共にしており、フレイガルの町に入ったことを告げた。
そこで、モイスは自分が仕掛けていた罠に魔物が引っ掛かったことに気付いた。
その罠とは、グラキース山で身を隠していた場所に侵入者がいた場合に発動する罠だった。
そのことに気付いたモイスは、エレーナの水の精霊に一言告げてステイビルたちの傍から離れたという。
姿を隠しながらグラキースに到着した際に、キャスメルたちの姿を発見したという。
その際に集団の中の一人が、別な空間に引き寄せられたことを感じた。
――それがクリエだった。
モイスは自分と同じスキルを持つ相手に心当たりがあり、被害が拡大する前にとモイスはクリエを救出に向かった。
その先には、”あの”敵が待っていることと知っていたとしても。
モイスは、この問題が自分の不注意が招いた状況であることに責任を感じていた。
だからこそ、自分と同じ能力を持つ者を自らの手で始末しなければならないと思っていた。
それが自分には可能だと思っていた。
モイスは、読みが甘かったことに気付かされる。
自分の能力を奪ったサヤは、この能力を既に自分と同じように……考えたくなかったがそれ以上に使いこなしていた。
入り込んだ空間の大きさはモイスが用意できる範囲よりも広く、その精密さからモイスが持つ能力以上の空間を創り出していた。
そのことに驚いている暇はなかった、その空間の中で待ち受けていたのはヴァスティーユだった。
モイスは空間の中を逃げ回ると同時に、クリエの存在を探索した。
モイスの中にはクリエの情報はあるが、それがどこにいるかまでは判らなかった。
その情報は、この空間の創造者によって隠蔽されていた。
自分が持っていた能力の権限を、ここまで使いこなしているサヤという人間に恐怖を感じた。
この空間の中にいる存在は、創造者の権限によって消失させることも可能だ。
自分やその権限を与えた存在にはその効力を働かせないこともできるのだが、いま自分に持たせている効果も消してしまう力も持っている可能性があるなら……。
モイスは無限とも思わせるような暗闇の空間の中を、ヴァスティーユの攻撃を避けながら探し回る。
その攻撃も、何か空間の中に閉じ込めようとしているようだった。
その空間の中に閉じ込められてしまえば、どのようなことが起こるかわからない。
モイスは、この空間の中で使えるスキルを駆使しながら飛び回った。
しかし、それも長くは続かなった。
モイスは、箱の中のに閉じ込められてしまった。
「やっと、捕まえた……トカゲ。あんたがくるとは思わなかったけどね」
そこに現れたのは、この空間の創造者のサヤだった。
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