5-53 救出と再会







ハルナたちは周囲を警戒しながら、西の王国へ向かい歩みを進めていく。

その道中、魔物との交戦は避けることはできなかった。


幸いにして、出会う魔物は数匹単位のためステイビルたちでも容易に討伐が可能だった。




徐々に王都に近付くにつれ、魔物との遭遇頻度は上がっていった。

そのことから、ステイビルは魔物は王都の中にこそ目的があるのではないかと推測した。

であれば、マギーの宿は当面は安全になるはずだが、これはまた調査を進める中で判断する必要がある。



王都の入口まで半分を過ぎた頃、道端に何かを見つけた。

近寄ると、それは傷を負って倒れている東の王国から派遣した第一隊の精霊使いだった。



近くに魔物が潜んでいることも考慮し、アルベルトがその者に駆け寄った。

遠くからはエレーナが援護するために、氷の球体を浮かべている。


アルベルトはうつ伏せになっている、ボロボロのフードを纏った人物を裏返した。

意識はないが、鼻孔に手を当てると呼吸をしていることが確認できた。

外見を見ても、命に関わるようなダメージは見たらない。



周囲に問題がないことを確認すると、ステイビルたちもアルベルトの傍に近寄っていった。


アルベルトの腕に抱かれている精霊使いに対して、ステイビルはその顔の頬を軽く刺激し声をかけた。





「おい、大丈夫か……しっかりしろ!?」



「うぅ……ん」




その呼びかけに反応して、倒れていた精霊使いはうっすらと目を開けた。

その視界に、まずアルベルトの顔が入ってくる。

見知らぬ顔の男……しかも好みの男性に抱えられて、話しかけられた精霊使いは状況が理解できないでいた。




「これは……夢?」



うつろな頭の中で、現実と妄想の中をさまよっている精霊使いに別なとこから掛けられた声に現実が知らされる。




「否……これは夢などではない。お前たちの身に一体何が起きた?……わかるか?」



精霊使いは眼球だけを動かし、その声の主を探した。

すると、そこにはいつも遠くから見ていた人物の姿がそこにはあった。



「す……ステイビル王子!?ど、ど、ど、どうしてここに!?」



驚きに身体を起こそうとするが、身体に痛みが走り起き上がることはできない。

腕の中でアルベルトもその動きを感じ、いまはこのままの状態になるようにと身体を動かさないようにした。




「うむ、そのままでよい。それよりも、お前たちが第一隊の者だな?」



「は……はい、そうです。王の命令を受け、第一陣として西の王国の応援に向かっていった一人です」




この者が言うには、第一隊は東の王国からディバイド山脈の尾根を進み、魔物たちから姿を隠すように移動をしていた。

西の奥国に入ると、急な崖を降りていくことになるため、その手前で街道に出ることになったが、その際に魔物数体と遭遇したという。

騎士団五名と精霊使い四名で交戦し、残り一匹まで追い詰めたが魔物の援軍が合流し撤退することになった。

その際に纏まって移動しては的にされると判断し、リーダーと各精霊使いに対し騎士を一人付けた形で分かれて移動することになった。


そこで魔物も一体ずつ追っていく形になり、山の中を散り散りに走った。

この精霊使いは、騎士が足止めをすると言って精霊使いだけ逃がしてくれたのだという。

誰かがの後続の味方に情報を伝達するという役目を果たすために、この精霊使いは必死に逃げた。

そして力尽きて、この場所で倒れていたようだった。



魔物は誰も入れさせないように、守りを固めているようだと精霊使いは告げる。

そしてステイビルは、この場から一刻も離れた方がよいと判断しその命令を出そうとしたその時。



「ステイビル王子!」



森の中からステイビルを呼び止める声がした。



「……?」




ステイビルたちは森の方を見ると、一体のコボルトが姿を現した。

しかもそのコボルトは見覚えのある一体だった。





「お久しぶりでございます、ステイビル様……それにハルナ様、エレーナ様も」



「あなたは!」



その姿は、この一帯を纏めているコボルトの兄弟の一人だった。










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