5-51 援軍
(これが……死……か)
痛みは感じていない、魔物に傷を付けられていたがそれ以上の集中力で応戦していたため痛みは感じなかった。
ボーキンは安心して眠るために、目を凝らして魔物たちがこの場を去っていくことを確認しようとした。
だが、なかなか視界は戻らず強い光を見たときに起こる白い世界に覆われたままになっていた。
今までの魔物たちが、キィキィと鳴く音も聞こえなくなりボーキンはいよいよと思い始める。
しかし、ボーキンの意識がなくなり始めるよりも早く、白い世界が次第に薄れていった。
(……!?)
ボーキンは、目の前を疑う。
残りの魔物六匹が、光に覆われたあとにはその痕跡もなく姿を消していた。
そして、自分の身体も傷付いてはいるが生死にかかわる影響がないことに気付く。
「……あ、間に合ってよかったです!」
宿の外から、聞いたことのない女性の声が聞こえた。
ボーキンは自分の膝に手をかけて、ゆっくりと立ち上がった。
「あ……あなたは……?」
ボーキンも長い人生の中であまり見かけたことのない種族、ドワーフの女性がそこに立っていた。
「ま、まさかあなたが……助けて下さったのですか?」
「いいえ、私ではありませんよ。魔物の相手をしてくれたのは……」
目の前のドワーフは、言葉の途中で空を見上げる。
ボーキンもつられて上を見ると、そこには見たことのない生き物がそこに浮かんでいた。
その姿は、伝説の生き物の姿と一致をする。。
「ま、ま、ま、まさか……!?」
その生き物はサナの視線に気付いたのか、誇らしげに空から降りてきた。
「大丈夫でしたか?」
『うむ……あのくらいのモノなど大した問題ではないわ!!』
地表に近くなると、その姿は小さくなりサナの肩に乗ってみせた。
「あ、こちら。火の大竜神……シュナイド様です」
驚きのあまり、ボーキンは膝から崩れ落ちた。
「……間に合ったようだな!」
サナの後ろから、聞き覚えのある声がした。
「よかったですね!……あー宿が」
「これは仕方がないわ……でも助かってよかったですね。ボーキンさん」
「ステイビル王子!!ハルナさん、エレーナさんも!!」
ブンデル、ソフィーネ、アルベルトと続き、最後にエルメトが姿を見せた。
エルメトが助けを呼んでくれたのだろうが、それにしては早すぎると感じている。
だが、その辺りのことは後回しでも構わないとボーキンは判断した。
エレーナが、マギーや他の者たちの心配をしてくれているので、裏の山の洞窟に身を隠したと説明をし救助に向かった。
ボーキンは傷を負っているが、問題ないとエルメトと一緒に隠した草木を払って退けていく。
そして問題なく、中から出てきたスィレンたちの無事が確認できた。
「は……ハルナ!」
マギーは恐ろしかったのだろう、ハルナの顔を見ると安心した表情になった。
ハルナの手を取り、自分の身とハルナの身が安全なことに感謝をした。
そして、いったん状況を整理するためにステイビルは宿屋の一階に集まってもらった。
そこには逃げてきた兄妹も呼ばれていたが、兄の方はスィレンに傷の手当てをしてもらっていたが意識が朦朧としていた。
「サナ……お願いできますか?」
「はい」
ステイビルはサナに、魔法を使ってもらうようにお願いをする。
ステイビルは一日三回のうちをこのタイミングで使っていいと判断したのだった。
サナは出血の多い背中に手を当てて、魔法の詠唱を始める。
そしてヒールが唱えられると、光が発せられ傷が塞がっていった。
だが、失った血液までは戻らないため、まだ意識は薄れている。
「はい、じゃあ次は私たちね」
そう告げて、エレーナがサナの横に並ぶ。
「ヴィーネ、お願いね」
「任せて!」
エレーナから出てきた精霊は少年の中に入り込んで行った。
そして、エレーナの身体から元素が抜けていき、ヴィーネの中に流れ込んで行く。
その元素は体内で水に変わり、少なくなった血液を満たしていく。
次第に血色がよくなり、身体を起すこともできるようになった。
その様子を見ていた西の王国の住人たちは、今まで見たことのない現象に言葉も出ない。
しかし今はその説明をしている暇はないため、ステイビルは話を先に進める。
「それでは、何があったのか聞かせてもらえるか?」
ステイビルは、ボーキンにそう告げた。
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