4-148 チェリー家の屋敷で6
真夜中、目が覚める。
といっても、ずっと睡眠と覚醒の間を行ったり来たりしていたため、起きていた状態と変わらなかった。
この部屋は、ハルナとソフィーネが布が張られた間仕切りで仕切られた二つのベットが並ぶ寝室だった。
ハルナはゆっくりと身体を起し、眠っていると思われるソフィーネを起さない様にベットを降りる。
起きた気配を感じて、フウカが後ろから姿を見せる。
そして声を出してソフィーネを起してしまう前に、ハルナは人差し指を口元に当てて静かにするように合図を送った。
フウカもハルナと同じポーズをとり、声に出さずに了解の意を示した。
そのままフウカはハルナの肩に乗り、ハルナと一緒に部屋の外へ出ていった。
この屋敷の中庭には枯山水のような、砂と岩と緑で作られた庭園がある。
ハルナはこの屋敷にいる間、その場所がお気に入りだった。
元の世界のような庭園があることが、嬉しかったのかもしれない。
この場所が気に入っていることをパインに告げると、嬉しそうにこの庭ことを語ってくれたこともこの庭を好きになった理由の一つだ。
自分が素敵だと思った場所が、作りて側の思いが込められた場所と知りその良さが一段と増した。
ハルナはどうせ眠れないならと、お気に入りの空間で静かに過ごした方が有意義な時間を過ごせると温もりが残るベットを後にした。
温かい場所とはいえ、肌着の上に薄い布一枚のネグリジェ姿では肌寒く感じる。
一枚ブランケットを持ってきて正解だった。
ハルナはブランケットを羽織り、内側から前を閉じて廊下を進んで行く。
――カチャ
こんな夜遅く、その途中にある扉が一つ開いた。
オイルのランプが一定の距離で壁に設置されているが、ちょうど灯りと灯りの狭間にはっきりと見えない。
(この扉の人物は確か……)
ハルナは驚かせない様に気を付けて、少し距離を置いて人影が出てくるのを待つ。
そして、静かに表れた人影に声を掛ける。
「あ……アル……え!?」
最後の声が驚きの声に変わったことと、急に声を掛けられたことで人影は驚いて後ずさりした。
灯りの範囲の中にいるハルナを見つけて、安心して音量を落として声を掛けてくる。
「なんだ……ハルナか……びっくりしたじゃないの!もう!!」
「驚いたのはこっちよ……!なんでエレーナが……」
ハルナは、あることに気付き言葉を詰まらせた。
近寄ってくるエレーナから、男性の……アルベルトの匂いが香水の影に隠れてハルナの嗅覚に届く。
ハルナは向こうの世界でも、鼻がよくほかの人が気付かない香りでも嗅ぎ分けることができていた。
そこからたどり着いた推測は、エレーナからアルベルトの部屋に迫っていったということ。
言いかけた口が開いたまま、ハルナはエレーナの顔を見る。
エレーナは特に恥ずかしい様子は見せないが、バツが悪いといった顔を見せている。
「な……何よ!言いたいことがあるなら言いなさいよ……!わ、私だってそういう気分になる時だって……あ、あるんだから」
エレーナのこの言い方から、一度や二度の経験ではなさそうに思えた。
しかし、今までグラキース山やソイランドにいる間は、そういうことができる状況にはない。
きっとラヴィーネに戻ったときや王都に滞在した時に、二人はこっそりと会っていたのだろう。
決してそれが羨ましく思うわけでもなく、エレーナの欲求の深さに関心をしていた。
大学の時の友人から、『彼がすごく求めてくる』と言われたことを思い出した。
その時、友人は困った様子はなかったが身体が持たないと言っていた。
その逆の立場に、ハルナはアルベルトに少しだけ同情した。
「う……ん。いや、なんでもない……とにかく無理しないでね」
「ちょっとその意味がよくわからないんだけど!?……あんたは、なんでこんな夜中に起きてるのよ……まさか覗きに来たとか?」
「……そ、そんなわけないでしょ!?」
「しっ!」
少し大きな声を出してしまい、エレーナに声を落とすように注意されるハルナ。
眠れなかったことを伝え、せっかくだから夜の庭に出て落ち着かせようとしていたところだと理由を告げた。
その言葉を聞いたエレーナは、にやりといやらしい笑いを浮かべてハルナに言葉を返す。
「ふーん……案外、あんたも……」
「あるわけないでしょ?エレーナとは違います」
「あ、なんか腹が立つ言い方ね?……まぁ、その気になったら王子にでも声をかけてみたら?」
「だからなんで、ステイビル王子なのよ……私なんか相手にしてくれないでしょ?向こうは王子なんだから」
「実際はどうかわからないわよ?……まぁ、ハルナも風邪ひかないようにしなさいね。私はそろそろ部屋に戻るわ」
「もう……おやすみ!」
背を向けて歩き出すエレーナからも、”おやすみ!”と声が聞こえてランプの灯りの奥に消えていった。
ハルナは、再び中庭に向けて廊下を歩きだす。
――カチャ
またこんな夜中に扉が開く音がした。
今度はステイビルの部屋のドアが開いた。
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