4-130 メイの言葉
この部屋の中には、初めに使ってたステイビルとパインをはじめ、町の外から戻ってきたブンデルとサナも含めたハルナたちの他に、メリルとメイとクリミオたちがいた。
そして、この場の視線は全てメイとクリミオに注がれていた。
「……それで、お前が探していた者は、チェリー家のメイドだったというのだな?」
クリミオはステイビルの問いかけに、その通りであることを返答する。
ステイビルはクリミオの顔から一度視線を外し、その隣に座っているこの屋敷に来てからずっと世話をしてくれている見慣れた顔に目を移す。
クリミオはなぜか、必要以上にステイビルのことを恐れている様子がうかがえる。
後で聞けは、エレーナが何か余計なことを言ってそれがずっと残っているようだった。
メイ……本当の名はベルという名前のようだが、ステイビルにとっては然程の問題ではない。
この国に住まう者たちが、できる限りの幸せを手に入れてもらうことがステイビルの最大の理想だった。
そこから判断すれば、生きてこの場にいることが幸せを感じるための最低限のラインだろう。
先のことは、本人の状態や意欲に関わることのためそれに応じた手助けをすればいいと考えていた。
結局のところ、本人に生きる気力がなければどんな支援も無意味なものとなってしまうことを知っている。
ステイビルは、メイとクリミオの接点とそれぞれがどのような生き方をしてきたのかを聞いた。
その問い掛けに二人は、廃墟やその外で住まう者たちの身に降りかかるの一般的な出来事を話した。
二人が話す内容を付け合わせても、メイがベルという女性であることは間違いないと判断した。
しかし、その話を聞いたからと言って何も変わることはない。
二人は別に何かの罪を犯したわけではなく、それぞれが精一杯生きてきただけだった。
生きるために犯した罪もあったが、ステイビルは一旦そこは目をつぶった。
誰も傷付かない世の中などなく、ある程度の損害は仕方がないとステイビルは考えていた。
その話を聞いたパインの表情も、決して悪いものではなかった。
メイをここに誘ったのは自分自身であり、その前の話もある程度は聞いていたためメイに対する評価が変わることはなかった。
「ところでハルナ様。その子、もしかして……」
メイは、ハルナの膝の上で抱き着いている少女のことを話題に振った。
「そうです、あの廃墟の中で暮らしていた子なんです。クリミオさんにお願いしてチェイルさんと一緒につれてきてもらったのです」
「……ここでその子の面倒を見て欲しい……そういうことですか?」
ハルナも厚かましいお願いだとわかっていた。
だが、この小さな子をこれ以上あのような環境に住まわせることに、ハルナは我慢が出来なった。
当然クリア以外にも、幼い子供たちがあの場所で生活をしているのは知っており、クリアだけ助けるというのは不公平であることは理解をしている。
そのことをエレーナに話すと、”それでも手の届く範囲からやればいい”と言って賛同してくれたことがハルナは嬉しかった。
ハルナは、メイの言葉のとおりであることを告げる。
「……とはいえ、私にはそのような決定権はございません。主にお伺いしませんと……」
「メイ……あなたはどうしたいのですか?」
「――え?」
メイは同じ部屋にいたパインの言葉に驚く。
今まで支持を受けるだけだった主から、自分の意見を聞かれたのは今までにもなくこれが初めてのことだった。
その意図を感じ取ったクリミオが、この機を逃さないようにと自分の考えを口にした。
「ぱ……パイン様。良ければ、この子をこちらで……!」
だがそれは、パイン自身の手で制される。
パインは、メイ自身の言葉から聞きたかったようだ。
メイはこの屋敷に来ることになったあの日から、自分の意見を一度も言ったことがない。
言われたことは全てこなす、良いメイドであるし資質は十分にある。
だが、パインは常に思っていたことがある。
――メイの本当の言葉が聞きたい
と
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