4-129 偶然
クリミオはここまで到着するまでに、あっという間の時間が流れていた。
時間は普通に経過していたが、これから起こることを頭の中で考えているとその時間が存在していなかったように過ぎていった。しかも、その掛けた時間だけの成果は得られてはいない。
「おかえりなさいませ、皆さま……あら、かわいらしいお客様ですね?」
「ただいま、メイさん。ほら、クリアちゃん、ご挨拶は?」
「こ……こんにちは」
クリアは恥ずかしそうに、ハルナの後ろに隠れる。
その様子をみて、メイはにっこりとクリアに微笑む。
「いらっしゃいませ、チェリー家のお屋敷へようこそおこしくださいました」
後ろにいたエレーナが、メイに話しかける。
「ステイビル王子は、いまいらっしゃるのですか?」
「はい。パイン様とお話ししておりまして……確か、いまご休憩をとられておられているかと」
「そうですか、じゃあちょうどいいわね。行きましょう!」
「ちょっ!?……ちょっと待ってください!?あの、本当に行っていいんですかね?その……俺みたいなやつが……」
クリミオたちは、ここに来る途中に何度も”本当に行っていいのか?”と、エレーナがイライラしてしまう程繰り返し聞いていた。
「さっきも言った通り、大丈夫ですよ」
「そうそう。失礼なことさえしなければ、腕を切り落とされることはないわ」
「――え?」
失礼をすると腕が切り落とされてしまう……その言葉を聞き、クリミオは進んでいた足が止まりその背中に他の者がぶつかる。
「おい、エレン……ステイビル王子に変な印象を付けるのはやめろ」
アルベルトに注意されたエレーナは、肩をすくめペロっと舌を出してハルナに戯けてみせた。
その様子を見て、さっきの驚きは悪ふざけだとクリミオは理解したが、早くなった拍動は収まらなかった。
その一方で、王子に対してそういうことが言える人物……王選に選ばれた精霊使いとはこの国の中で王子と同じくらいの地位なのではないかという思考に辿り着く。
すると、急に気軽に話しかけていた二人が遠くの存在に感じ、心配性なクリミオの身体が緊張で強張っていく。
「……どうかされましたか?」
抜け出せない思考の渦から抜け出せたのは、この家のメイドであるメイに声をかけられたからだった。
「いや……なんでも……ない……です」
クリミオの途切れ途切れの声に、メイは不思議そうな顔で見つめる。
そしてもう一度、クリミオに対して同じ言葉を投げかける。
「あの……どうかされましたか?」
次の質問は、客人が驚きの表情で自分の顔を見つめることに対しての言葉だった。
客人の口はうっすらと開いて不規則に動き、言葉にならない息だけが漏れている。
「……ル……」
「……え?」
「……べ……ル……」
「……!?」
クリミオは数日前のことを思い出す、グラムたちが司令本部に入ってきた時のことを。
自分がべラルドに近付いた目的を話した際に、グラムから聞いたメイという名の女性のことを。
メイも胸の奥に引っ掛かる何かに、ゆっくりとたどり着きそうな雰囲気がある。
「……ミオ……クリミオ?」
「そうです……ベル……クリミオです……あぁ、生きて……よかった」
そういうとクリミオの目からは涙が零れ、足の力が抜けてその場に膝をついた。
ハルナは、後ろが付いてこないことに不思議に思い振り返る。
そこには、メイとクリミオが泣きながら抱き合っている姿が目に入った。
良く事情が飲み込めないハルナは、エレーナを呼び止める。
「え?……あぁ、もしかして……本人だったの……」
何のことかさっぱりわからないハルナは、エレーナに説明を求める。
グラムとの司令本部を襲撃した際の一連の話は報告したが、クリミオがベルという女性を探しているという話はしなかった。
その内容は、直接ソイランドの町の現状に関わってくる話ではないため、アルベルトに報告する際には省いて報告していた。
エレーナは簡単にハルナに、二人の関係を説明をする。
そのことを聞くと、ハルナの目にも喜びの涙が流れていた。
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