4-113 ソフィーネ1








「ソフィーネ、あなた誰かに変なこと吹き込まれたりしなかった?」




(やっぱり……ね)



メイヤはソフィーネの反応を見て、自分の推測が正しかったことを確信する。

それは、ソフィーネの表情が動かないことだった。




マイヤが、ソフィーネをとある名もなき村の中から探し出してから数年が経過した。

その頃メイヤとマイヤは、ソフィーネに対しては直々に指導を行っていた。

もちろん優秀な人材としての扱いのため、二人が直接ソフィーネの教育を担当した。

ソフィーネの基礎体力や戦闘技術が、他の者たちより――それも、先に訓練をしていた者たちより能力が高いため二人が個別にソフィーネの教育を行っていた。

そこで分かってきたことは、身体能力の高さから格闘やサバイバルの技術は、乾いた大地に水を浴びるようにソフィーネは吸収していく。

国の諜報員として重要な情報を扱うために、感情をコントロールすることが重要となる。

その訓練の際、ソフィーネは身体機能をただのトレーニングのように軽々とこなしていく姿とはまるで反対のソフィーネを見ることになる。

”天は二物を与えない……”

この世界でも似たような言葉があるが、その言葉がピタリと当てはまった。ソフィーネは、感情コントロールには難があった。

普通の者たちには、誰かに嘘を付くことは何も気にすることなく行える。

もちろん、それが任務のためであることは前提となっている。


ソフィーネはそれでも嘘を付くことが苦手で、どんな小さなことでも嘘はつけなかった。

その行為に対して拒否反応を示し、表情や態度などの外表にそれを出してしまう。

マイヤはその反応を不思議に思い、そこまで拒否する理由をソフィーネに聞いたことがある。


その原因は、ソフィーネの生い立ちにあった。



ソフィーネが生まれた場所は、王国の領地ではあるが多数存在する村の一つに過ぎない。

農業や山の恵みで暮らしており、特別な特産物があるわけではなかった。

生産量も少ないため税の徴収は少なくて済んだが、三十人程の人が生きていくには物資が少なく過ぎた。

申請があれば王国からもわずかながらの補助は与えられるが、その補助を受けるには自分たちが行った努力の結果を示さなければならなかった。

万が一、不正を行い補助を受けた場合には、それ相応の罰が与えられることになっている。

与えられた罰は、補助した物資や資金を一.四倍の数量で返還しなければならない。

それもできない場合は、王国警備兵として徴兵され根性を数年かけて叩き直される。

だが、それも王国としてはその者たちがまっとうに生きていくために力をつけてほしいと願った罰だ。


この村の者は、その罰すら受けたくない程、自堕落な生活を送っていた。

働くことは嫌だが、楽に生活はしたい……どうすればその生き方が実現できるのか。

その方面だけには、力を注ぐような生き方をしていた。




ソフィーネには三つ下の妹がいる、妹の名は”ミーチェ”というった。

幼いころからミーチェは、ソフィーネから一時も離れずに傍にいた。

ソフィーネもその状況を苦に思うことはなく、その期待に応えるべく妹に愛情を注ぐ。

そう……二人の親以上に。



二人の親は、ソフィーネと妹の育児を放棄している。

生きていれば自分たちの仕事をさせ、生きていなくとも生活費が浮く。

二人の実娘に対して、そんな程度の認識の親だった。



ソフィーネはそのため、親を親とも思わないように育っていく。

それはソフィーネだけではなく、周りにいる子も似たような状況だった。



そういう生活をしていたソフィーネは、細い体格の割には周囲の同年代の誰よりも強い存在だった。

ソフィーネは頭の回転が早く、同年代の子が考え付かないようなことも大人並みの判断ができていた。

ある大人から言わせれば、”背伸びをしている”ようにも見えたかもしれない。

だが、ソフィーネのその考えはこの村の住む大人以上の判断が行えていた。


やがてソフィーネは、子供たちの間で憧れの存在となる。

近くの集落の者たちと争っても、ソフィーネの頭脳と運動能力で叶うものはいない程に成長していった。



そんな中、ある事件が起きた。




ミーチェが突然、村から姿を消した。









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