4-112 処分
「ここまで来たのなら、この状況を説明していただかないとね……ソフィーネ」
「それは……あなたの方じゃない?メイヤ」
ソフィーネがメイヤに向けている目は、完全に強敵と対峙した時の視線を送っている。
そんな視線は、ソフィーネがハルナの付き添いとして一緒に旅をしてきた中で一度も見たことがなかった。
ハルナも、それよりも付き合いの長いソフィーネも信じたくはなかったが、メイヤはハルナたちの敵の可能性があった。
メリルの目は依然として、敵としてみなしている視線を向けていた。
それと対照的にハルナは、目の前に起きている事を信じたくないという目で状況を見守っている。
(ハルナ様は、お優しいですね……そこは敵に付け込まれることがあるということを今度ご忠告して差し上げなければ……さて)
などという考えもほどほどに、メイヤはソフィーネの言葉に対して返答することに意識を集中した。
「私の方……?一体、何を言っているのかしら?それよりも、この建物内にいたのを始末したのはあなたでしょ?ソフィーネ」
ソフィーネは一瞬、イラっとした空気を漂わせた。
メイヤの相変わらずの上から見下ろすような物言い。いま追い詰めているのは自分のはずなのだが、それも意に介さないような余裕のある態度を見せる。
そこからくる発言か、こちらからの質問もそこそこに自分に主導権があるようにこちらに質問を返してくることにソフィーネは苛立つ。
「ソフィーネ様、相手の挑発に乗ってはいけません。まずは、事実を確認することが先決です」
「えぇ、わかっております……メリル様。ご心配おかけして申し訳ありませんでした」
メイヤは今のやり取りを使って、ソフィーネをさらに挑発しようとしたが、メリルからの印象が悪くなると判断しその行動は中止した。
「もう一度だけ黙って聞いてあげるわ……私たちに今こうなっている状況を説明する必要があるのは、メイヤの方じゃない?」
メイヤはふぅっと一息ついて、ソフィーネの問いに答える。
「私がここに来た目的は……あなたの救出よ、ソフィーネ。本当は放っておいても黙って帰ってくると思っていたけど、ハルナ様とメリル様のご要望に応じてあそこから馬車を走らせてきたの……正直、あなたが無事でホッとしているのよ」
メイヤはソフィーネの質問に対し、嘘偽りのない言葉で答えた。その答えは、最初から最後の言葉まで、どれをとってもメイヤの本心だった。
少し恥ずかしい気持ちもあるが、ここは誠実に答えなければ信頼を得られないと判断しての応答だった。
だが、ソフィーネもメイヤと同じ諜報員。
相手を騙すために、やさしい言葉を使うという手はありふれた手段だ。
メイヤの言葉をそのまま信用するには、今まで生き抜いてきた諜報員としての経験が警鐘を鳴らす。
「それで、ソフィーネ……あなたは何が」
「メイヤさん!今あなたの発言は許されていません!身勝手な発言は慎んでください!!」
そうメイヤに告げたのはメリルだった。
ソフィーネもハルナも、メイヤのことを知っている。
だからこそ、非情になり切れないこともあるだろうと、メリルはこの場の汚れ役を買って出た。
メリルも本当は、迷っていた。
だが、相手は優秀な諜報員で、三人で掛かっても倒せるかどうかわからないような実力者。
それは捕らわれていた時に、自分の身を守ってくれた時のもその実力は見せてもらっていた。
しかしいまは、高い可能性でメイヤが敵であると認識している。
常に最悪を考えていなければ、家族や知人……自分の身さえも守ることはできない。
ソイランドで生きていくには、そのように考えなければすべてを奪われてしまう町だった。
メイヤは、メリルの言葉を素直に聞き入れ、言葉を途中で飲み込んだ。
「さっきの話だけどね……そう、あれは私が全部”処分”したわ」
この発言には、ハルナの行動があった。
ハルナは、そっとソフィーネの袖をつかんだ。その手からは、布越しにハルナの心配が伝わってくる。
二人の仲が表向きは良くないことは知っているが、ラヴィーネからモイスティアに向かう途中のあの二人の息の合った戦い方が今でも忘れられない。
あのときはエレーナから仲違いされていた時期だったため、二人のコンビネーションが羨ましくも思えた。
そんな二人が争っている姿を、ハルナは見たくなかった。
だから、この状況を早く改善されることをハルナは強く願っていた。
「……私からもうひとつお伺いしてもいいかしら?」
メイヤは、メリルに発言の許可を求めた。
メリルは後ろを振り返り、ハルナとソフィーネの顔を見る。
ハルナが頷いたため、メリルはメイヤに発言の許可を出した。
「……どうぞ」
メイヤは発言の許可の礼で頭を下げ、視線をメリルから奥にいるソフィーネに移す。
「ソフィーネ、あなた誰かに変なこと吹き込まれたりしなかった?」
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