4-93 砂漠の施設7
「いま、俺たちはチンピラ共と争っている。町を安定させるために協力する関係だったが、あいつら裏切ったんだ!」
その言葉にメイヤは反応をみせず、メリルの四肢につけられた鎖の鍵の解錠作業を続けている。
このままでは引き留めることも、仲間を助けることもできず終わりそうだった。
男の中の感情の器が、焦りで満たされ心拍数も上がっていく。
(もしかして……最初の入りがマズかったのか!?)
今現時点で、裏の奴らと争っていることは間違ってはいない。
どちらが裏切ったかといえば警備兵……いや、べラルドのほうだ。
だがきっとこの女はメリルを救出するだけで、ソイランドの事情は知らないだろう。
このまま、メリルを餌に戦力として何とか警備兵側に引き込みたいと男は考える。
そう考えている間に、メイヤは左足の鎖を解除し終えて最後の鎖に手をかける。
「なぁ、頼む……警備兵がやられてしまうと町の秩序が乱れてしまう!そ、それにだ……メリル様も無事に戻すことができなくなる!頼む、その強さを町の安寧のために貸してほしい!!」
べラルドが言うには、相手に自分の言うことを信じさせるには、嘘の中にほんの僅かでも真実を混ぜることが肝だといった。全てが嘘ならばその言葉の重さは軽くなるが、少しだけでも真実を混ぜることによりその内容に重みが出て信頼を得ることができる。
この話しは嘘と真実が五分五分といった割合になっているが、相手が信用してくれるように情けを混ぜて同情を求めるような手段をとった。
もし、ことが片付けばべラルドにうまく処理してもらえばいい。
べラルドは決してメリルを手放すことはしないだろう、そのためどんな手を使ってでもメリルを外に連れ出させることを阻止するだろう。
だからこそ、今ここでメリルをこの場から連れ去られるわけにはいかない。連れ去られてしまえば、どうなるか想像するのも恐ろしい。
例えこの身に何が起きようとも……この場にメリルを引き止めなければならないと判断する。
男はこれでダメなら、腕の一本と引き換えにすることも考えていた。
メリルを連れ去られてしまえば、自分のこれからの将来は意味のないものになってしまうだろう。
それならば、腕の一本と引き換えにして命令を守るほうがべラルドにもいい印象を残せる。
しかし、どこかで腕と引き換えにする状況にはならないだろうという楽観的な思いもあった。
……カシャ
最後の一つの鎖の鍵が外れる音がした。
その音とともに、メリルはようやく自由を取り戻した。
メイヤは一枚メリルに布を渡し、監禁されていた場所から渡されたものとこの一枚で上下に分けて身を隠した。
「それで……」
男は、諦めかけていたメイヤからの言葉に反応し背筋を伸ばす。
「……それで、その者たちはどこにいるのですか?相手の数は?」
まさか信用してもらえるとは思わず、メイヤの言葉を返すまでに数秒の時間を使ってしまった。
だが、相手は自分の言葉を待っている、先程の話しを信じてくれたのだと判断した。
そう思いつつも、男の胸には何かに刺されたような痛みが走る。
この感覚は好きではなかった、他の者なら自分の嘘が信用されたと喜ぶだろう。
嘘をつくことを好まないものにとっては、嘘をつく度に胸の奥にある自分の正義がひび割れ傷付いていく。
「あぁ、場所は案内しよう。数はおおよそ十数名程だ」
「案内してくださる前に約束を」
「……なんだ?何でも言ってくれ!」
「この用事が終わったら、私がメリル様をお引き取りさせていただきますわね。もし、あなたの言っていることに”嘘”があれば責任を取っていただきます……いいですね?」
「わ……わかった。もちろんだ!」
「では、その間メリル様の安全はお任せしますね?」
メイヤはにっこりと笑い、警備兵たちが争っている場所を案内してもらった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます