4-50 キャスメルの跡





「いま、この町……ソイランドは、ある男の支配下にあると言ってもいいでしょう」



「あの男……?もしかして、その男の名は……まさか”ベルラド”というやつなのか?」



「王子……”べラルド”です。私はあの男がパインさんの後ろにいると私は踏んでおります」




コージーはステイビルの間違いを失礼の無いように訂正し、それよりももっと重い話題をあげることでその空気を流していった。

コージーは今までの取引先との会話や、実際にパインや警備兵と行った取引の際に生じた会話から今のソイランドの状況を生み出したものがべラルドではないかという推測に到達していた。


そのことを聞いたグラムは、テーブルから身を乗り出しコージーに食い下がるように問いかけた。




「コージーさん……何故妻が……パインが、あの男とつるんでいるのでしょうか?何か弱みでも!?」



コージーはチェリー家のことは話に聞いていた、パインが大臣に就任する前のことなども含めて。

それらはただのチェリー家で起きた話しであり、それ以上のことは知ることはできなかった。

グラムがどんな思いで廃墟の中に身を隠し、何を目的としていたのか。

ハッキリと本人から事情を聞くまでは、あくまでも推測の域を抜け出すことはできない。

コージーはこの判断基準を今まで大切にしてきた、だからこそここまで商人として成功を治めることが出来たのだった。





「グラムさん……流石にそこまでは私にもわかりません……一介の商人が、政治や警備隊の組織の中のことまでわかるはずがありません。相手も何らかの情報統制を敷いているはずです、情報は時として物よりも高価なことがあるのですから。ですから、いまの状況を事実の外側から集めて検討していった結果、そういう推測に辿り着いただけなのです」





グラムは仲間が増えた安心感からか、個人の欲を優先させてしまったことを恥じる。

しかし、そのことを責める者はこの場には誰もいない。

今まで、ほぼ一人で見えない敵と戦っていたのだから。

今までのグラムは、仲間がいたとしても自分の実力と同等なものは一人もいなかった。

それらの者たちの身の安全を守りながら、指示を与え相手に悟られないように気を使い続けてきた。

ここで気が緩み、自分の家族のことを心配したとしても誰もグラムのことを責める者はこの場にはいない。




「それにしても、コージー殿はその……べラルドというやつには何もされていないのですか?」




それだけ情報を一介の商人が情報を集めていると知られれば、べラルドもコージーのことを放置しておくことはしないだろう。

自分の政策に逆らう者としてマークされ、何らかの嫌がらせを受けていたのではないかとステイビルは推測した。

その問いに対しては、コージーは一つ微笑み問題がないと告げる。




「ステイビル王子、わたしのことはコージーと呼んでいただけれ幸いです。……先ほどの件ですが、最初は怪しまれておりました。ですが、敵対する意思はないという態度で接してきました。そのせいでいポートフ家の方には、ご迷惑をお掛けすることもありましたが、べラルドには”今のところ”信頼をされておりますので、ご安心を」




「そ、それです!?クリエさんは、この町に寄っていると聞きました!コージーさんはお会いしなかったんですか?」





ハルナは突然、夜中に似合わない大き目な声でコージーに語り掛ける。

その発言の後、胸に抱いていたクリアが自分の大きな声で起きてしまっていないかを確認する。


自己紹介もしていない、女性から急に大声で問い詰められたコージーは目を丸くしてハルナの顔を見る。

その様子を見て、ステイビルがハルナのフォローをする。






「すまない……この者は私を助けてくれているハルナという者だ。クリエやカルディと同じ精霊使いで、仲も良かった者だ。この者もクリエが心配なのだ、許してくれ」






ステイビルから説明を受けて、コージーは我に返り状況を納得した。

その後、ステイビルこのタイミングで一通りこの場に居る者たちをコージーに紹介した。






「いえ、王子……少し驚いただけです。申し訳ございません……先程のおハルナ様のお言葉ですが、クリエ様とはソイランドにお戻りになられた際にお会いしております。娘のカルディとは仲が良かったので」



「ということは、キャスメルもいたのだな?キャスメルはパイン殿にもお会いしていると聞いたが?」



「はい、その際にはキャスメル王子もはいらっしゃいました」



ステイビルたちは、競い合っているキャスメルたちの情報は王国経由では入ってこない。

情報規制がされているのだろう……そこで、キャスメルがいまどのような形で旅をしているのか気になった。




「他に……キャスメルの傍には誰かいたのか?」



「いま、キャスメル様は、クリエ様とフレイガルのルーシー様。そのお二人のお付きの方としてアリルビートとシュクルス様がおられました」



話しを聞くと、アリルビートはコージーが設立した施設警備団から国の警備兵と進んで行った優秀な剣士だった。

今では、アルベルトと同じ王宮騎士団の一人のためクリエのやキャスメルの警備として立派な戦力となっていた。

西の王国での活躍を思い出すと、コージーの説明に対し一緒にいた者たちは納得している。




「そして、その場にはポートフ家からサライ様と一緒でした。サライ様は、クリエ様の御父上です」


「クリエの父親か……それで何を話したのだ?」



「やはり、キャスメル様もこの町の状況を危惧されておりました。そして、クリエ様は何とかしようと言ってくれましたが、それをキャスメル様が制されたのです」


「キャスメルが……止めた?」



「はい、我々はソイランドの住人でございます。この町の中暮らす者は、ある程度のルールに従って生きていかなければなりません。いくら王子と言えども、この町を任されているのはパイン様であり、その後ろにいるべラルドという男です。従業員を抱えた我々には、これが精いっぱいなのです」



コージーは、眉間に皺を寄せながら何かを我慢するように自分の気持ちを説明した。








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