4-51 次の段階へ
そう語るコージーの手は、握られた拳が震えている。
コージー自身も、いまのソイランドの状況がいい状況ではないと常々思っている。
しかし、今はこちらから何も手が出せない状況と判断している。
ポートフ家と力を合わせればコージーたちにも抵抗する力はあるかもしれない……だが、その大きな理由がない限りはこちら側が反乱軍として扱われる可能性が高い。
そうなれば戦力を削ったとしても、王国への援助を要請しコージーたちを制圧しにかかることは想像に難くない。
話を聞くと、コージーは積極的に情報を集め対応しているように見えるが、ポートフ家のサライという人物が協力的でないようにも感じられた。
「……でも、ポートフ家の方はこの状況をどう思われているのですか?」
我慢が出来なくなったエレーナが、感情を抑えつつ静かに口を開く。
その声の色を感じ取ったコージーは自分の感情が高ぶっていたことに気付き、ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「御見苦しい声を出してしまい、申し訳ありませんでした……いまのご質問ですが、サライ様はこの現状のままで様子をみられるとのことでした」
「え?……それはどうして!?」
「それは……ポートフ家に仕えられている方々の身を案じてのことです」
ポートフ家は、この荒れ地に住まうため越してきた移住者に対しできる限りの支援を行ってきた……自分の私財を投じてまでも。
次第にポートフ家はこのソイランドの中で、移住者のサポートを行うという重要な役割を王国から担うことなる。
それが荒れ地で人々が生活をしていくためのシステムであると、ポートフ家はそれを今までずっと続けてきたことが国から認められていた。
「……その者たちを守り続けるためにも、サライ様は今の体制に反発することなくその中で上手く生きていくことを望まれたのです」
その話しは、エレーナにもわからない話しではなかった。
自分の生まれたラヴィーネは、四つの町の中でも恵まれた町だった。
水もあり森の近くでその恩恵を受けることも多い、さらには”始まりの場所”を管轄する町でもあり国からも優遇されている町だった。
だからこそ、ラヴィーネに大臣として就いた家は他の家に妬まれることも多かった。
”そんな者たちにラヴィーネの住人のことを任せるわけには行かない――”
そういう思いもあり、町の運営にエレーナ母親の傍で力を注いでいた。
サライという人物の考えの深層には、そういった考えからきていることはエレーナには理解できた。
しかしながら、このままではソイランドは何も変わらない……
そんな気持ちも理解する別な場所で、気持ちが消化できないままでいた。
――ポン
そんなエレーナの肩に触れる者がいた。
アルベルトは、自分のことを見るエレーナに周りを見るように合図する。
すると、ステイビルやハルナの顔にも同じような表情を浮かべているのが見えた。
エレーナは、みんな一緒の気持ちになってくれていたことを嬉しく思った。
(――うんうん、やっぱりこのメンバーよね!!!)
そして、気持ちを取り直し自分たちができること……自分たちしかできないことを頭の中に探し始めた。
「……なるほどな。キャスメルらしい判断だ」
ステイビルはそうつぶやき、キャスメルが下した判断に対して理解を示した。
「となると、このことを変えることが出来るのは、今の状況では我々しかいない……のかもな」
その言葉に対し、ハルナもエレーナも頷いて賛同の姿勢を見せる。
ステイビルはその反応に満足をし、いつ切り出そうかタイミングを見計らっていた質問をここで出した。
「コージー、一つ聞きたいんだが……メリルについて何か知っていることはないか?」
「メリル様……ですか?メリル様は、王選の精霊使いの選抜以降姿をお見掛けしておりませんが……」
「何か、知っている情報はないか?噂レベルの話でもいいのだ……」
コージーはその話題になると、表情に陰りを見せる。
自分の頭の中で言葉が出たり入ったりを繰り返し、最終的には出そうとしていた言葉を深く呑み込んだ。
「それならば、一度サライ様にお会いされた方がいいでしょう……ここまで来て隠す必要はないでしょうから」
「隠す?……何かあったのか!?」
「そのことを私の口からお伝えすることはできません……その責任も持てませんので、直接サライ様からお聞きいただいた方がよろしいかと思います」
コージーはその場に立ち上がり、この場を一旦終わらせようとした。
「では、また明日の夜……こちらにお越しいただけますか?昼間は警備兵の監視もございますので」
「それならすまないが、グラム殿はここに匿っては貰えないか?私の身の回りも既に監視されていることだろうが……」
「……既に王子も監視対象とされている可能性もございますね。ではみなさま、この敷地にある警備兵の詰め所に身を隠していただくのはいかがでしょうか。ただ、詰め所ですので王子がいらっしゃられるようなところではないんですが……」
「あぁ、そんなことは構わない。ありがたく使わせてもらうことにしよう」
ステイビルたちは、ビトーに連れられて警備隊の詰め所の一番良い部屋に案内された。
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