4-25 おかあさま
「ねぇ、ヴェスティーユ……あなたの言っているお母様ってもしかして……”小夜ちゃん”のこと?」
ハルナの言葉に、ステイビルも同じ結論に達していた。
「……フふッ……クククく……アははははぁっ!!!」
ヴェスティーユは、内から沸き上がってくる笑いを堪えることも出来ず大声で笑う。
「やっと気づいたんだね……っていうより、これだけヒントを出してあげてて気付かないっていう方がおかしいよね!?鈍いアンタたちでもやっとわかってくれたんだ、感謝するよその飾りじゃなかった賢いオツムにねっ!!」
大きな声を張り上げたヴェスティーユから、黒い瘴気が噴出した衝撃波がハルナたちに襲い掛かる。
ヴェスティーユを中心とした周囲の家具などはその衝撃によって吹き飛ばされていく。
ハルナは飛んでくる者たちを風で、ステイビルは剣で弾きその身には影響はなかった。
そして、ステイビルはハルナの前に出て手にした剣でハルナを守ろうとする。
ヴェスティーユの止めどなくあふれていた笑いに、息切れしたかのような終わりが見えてきた。
「ははははぁ……!はぁ、ここにはもう用は無いね。うまくこの男の餌に引っ掛かってくれたわけだし、そろそろ帰らせてもらうわ!」
この場から姿を消すことに何の問題もないかのように、ヴェスティーユは準備を始める。
そんなヴェスティーユの姿に、苛立ちを感じたステイビルが剣に付いた埃を払うように剣を振りヴェスティーユに向かい構える。
「――待て!逃がさん!!」
ステイビルは剣を胸元で横に構え、しっかりとつかんだ剣の柄を身体に密着させてそのまま床を蹴り、身体ごと突き刺しに掛かった。
ヴェスティーユは、ユウタの身体の半分程度の身体でユウタの首を掴み持ち上げ、襲い掛かるステイビルと自分の身体の間にユウタの身体を割り込ませて盾にした。
「――ひぃっ!助、たすたす……!!」
ステイビルは、ユウタの鼻先で刺突させた切っ先を止めた。
その動きを見てヴェスティーユはユウタの身体を引き、反対の手で作っていた瘴気の塊をステイビルに押し付ける。
「あぶない!!!!」
ハルナも準備をしていた闇を浄化させる光の力を含ませた空気の塊を背後からヴェスティーユの手にぶつけた。
――バン!!!
破裂音と共にヴェスティーユとステイビルは、爆発を起こした場所を中心として身体がエネルギーが破裂した衝撃波で吹き飛ばされた。
ハルナはステイビルの身体を、風のクッションで衝撃を和らげその身を守った。
「ぐえっ!!!」
反対側の壁からは、押しつぶされたような声が聞こえた。
後ろに引いたユウタの身体が、ヴェスティーユと壁の間に挟まってクッションの代わりになりダメージはなかったようだ。
それと同時に、建物の外から交戦している音が聞こえた。
「……エレーナ!!」
ハルナが下の階にいるエレーナの名を呼んだ。
「何の用意もなくここに来ているはずないでしょ?逃げるための時間稼ぎの意味もあったけど、魔物たちで運よくあなた達をここで始末出来たらと思って連れて来たのよ!」
「よくも……!?」
ステイビルが体勢を整え、ヴェスティーユに向かおうとしたその時。
「あ、それとね。この男に付いていたあの坊や、探してたやつらに差し出しといたから。お別れを言う手間が省けたでしょ?」
「ヴェスティーユ……お前!」
ユウタは、ヴェスティーユに向かって掴みかかろうとしたが、少ない髪の毛を掴まれてその動きを封じられた。
「あんたは、私たちに今のところ必要だからね……そろそろ回収させてもらうわ」
そういうとヴェスティーユは、すぐ隣の建物が見える狭い隙間に窓から飛び降りようとした。
「ちょっと、待ちなさいよ!!」
ハルナは圧縮弾を数発放ち、ヴェスティーユを追わせた。
外からは放った弾と同じ数の破裂音が響き、それ以降何も音が聞こえなくなった。
しかし、下の階では戦闘音が継続して聞こえるため、ステイビルは逃げた窓を見つめるハルナにエレーナたちの援護に行くように指示をした。
ステイビルの言葉に従いハルナは、先に向かうステイビルの後を追って下の階に援護に向かった。
闇の力とまともにやり合えるのはアルベルトの持つ刀だけだったため、闇を打ち消す力を持つフウカと契約をしているハルナが参戦により戦況は一気に好転した。
最終的にこの場にいたアンデット――特に野生の動物からその姿を変えたものが多かった――は、フウカの光によって蒸発させられていった。
この場の安全を確認し、チェイルが危険な状態であることを思い出した。
最初にチェイルを襲った時、ソフィーネは既にその者たちのアジトを洗い出していた。
ステイビルたちは廃墟からその場所へと向かい、このもやもやしたものを晴らすべくその者たちからチェイルを奪い返した。
その騒動によって、ステイビルたちがこの町に訪れていることが町を治める者にバレてしまった。
しかし、いつまでも隠し通せるものでもないとステイビルは諦めて町を治める大臣の誘いを承諾し屋敷への招待に応じることになった。
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