4-24 あの日のこと2





ユウタが夜の街で働き始めて、五年の年月が過ぎていった。



その間、ユウタは褒められることが嬉しくバーテンダーとしていろいろにな大会に出ては優勝し、自分がフユミに教えてもらった技術を楽しんでいた。


そこから更に、ユウタの心の中に慢心が芽生えた。





『この店はいつか自分で持っている――』




確かに、女性客からも受けがよく最近では自分の腕の噂を聞きいて訪れる客も増えてきた。

そのため今まで誰ともかかわることなく、たった一人でゲーム機の中の世界だけで過ごしてきたユウタにとっては調子に乗ってしまうのも仕方がないこであった。





しかし、そんな態度に気付いたフユミは、”私たちは助けてもらっているのだから、変な気を起こすのは止めなさい――”と義弟のユウタに言って聞かせた。

ユウタはフユミの言葉を素直に受け入れた。


ユウタも放置されて育てられていたため、初めて心から家族と呼べる義姉に対してはいうことを聞くようにしていた。

……本心は隠しつつ。






時間は更に進んで行く。



店の主人である椿が、引退すると言い出した。

ユウタはここで自分の出番だと思っていたが、自分の娘に任せることに決まった。


従業員たちも椿の決定に反論はなかった……一人の腹の中をを除いては。



新しい経営者は、一人この店に従業員を増やすことを決めた。

その新しい従業員とは、実の娘”小夜”だった。



フユミは他の店ともかけ持ちをしていたので、主にユウタが小夜の面倒を見ることになった。



話しを聞くと小夜もいろいろと訳あって、夜の仕事で社会性を養ってもらうことが目的だったという。




(小夜と仲良くなればいずれはこの店を……)



そう考えたユウタは、小夜にこの店のことや夜の街に付いて自分が覚えたことをいろいろと教えた。

その時に、小夜に対し教育以上の感情を注いでユウタは接した。


”作戦”が上手くいき、小夜は次第にユウタに気持ちを寄せていく。

そのことにユウタは”成功”した実感を感じ、付かず離れずの丁度良い距離を保とうとしていた。

だが、ここで一つ思惑が狂った。


小夜が思いのほか、押しが強いということだった。



店の中でも、小夜はユウタに対し自分のことをアピールし始めた。

目の前に客がいるにも拘わらずに……



有名になったユウタを取り巻く女性たちも、その姿を見て次第にユウタへの熱が冷めて離れていく。

そして、店の客はユウタの熱で入り込んでいた女性たちが追い出した古い客の大多数が戻らないまま数か月経過していった。


このことを不思議に感じた経営者である小夜の母親は、とある客から自分の店の悪い噂を聞く。

店に行かなくなった原因が、自分の娘にあるということを。



丁度その時、元経営者である椿からもう一人自分の親族を働かせてほしいと提案された。

その人物はハルナだった、小夜の母親もハルナのことを知らないわけではないため元経営者の指示に従った。

それに、できれば幼馴染のハルナの姿を見て『小夜が何かに気付いてくれれば……』という願いも込められていた。


しかし、その母親の願いは娘に届くことはなかった。




小夜とハルナが一緒に働き始めてほんの数か月が過ぎた。

その短い期間でも、人気の差が生まれる……ハルナは小夜よりも人気があったのだった。


その人気は、客だけでなくユウタやフユミ……他の手伝いに来てくれている女性たちにも人気があった。



それをよく思わないのは……当然小夜だった。

自分に親切にしてくれていたユウタの態度も、今はほとんどハルナの方へ向けられていた。

二人はゲームが趣味のようで、小夜が入れない話題で盛り上がっている姿も度々見掛けた。



ハルナが来てから、さらに小夜の態度は悪くなっていく。

客にねだり、自分を売り込む言動がエスカレートしていった。

それでも以前より客足の減少が見られなかったのは、ハルナの人気のおかげだった。





その姿と見た母親は、最終的に小夜を店から出さないことを決めた。


ユウタはその決定に、ホッとした。

小夜はその前から、自分の家に居座ろうとしていたのだった。




実はユウタは、何度か小夜を家に泊めていた。

女性経験の少ないユウタが、その状況に”我慢”が効くはずがない。




しかし、小夜の本当の性格がわかり、いまハルナという次の目的が出来た以上ユウタの中で小夜は面倒な対象となっていた。

身体を交わらせたことも本人たちの了承であり、未だにそのことはバレていないのは小夜がそのことを黙っているつもりだと解釈していた。



『自分には責任がない』と――



そして、小夜は夜の街を転々とし、その身を悪環境の中に身を落としていくことになった。



小夜は、この店で起きたことを忘れてはいなかった。

憎むべき相手は”二人”いる。


その思いが小夜の中で日々増幅し、ついにその恨みが爆発することになった。







「……というわけなのさ。あんたたちがこの世界に来たのは、この男のせいなんだよ!!」




話しを聞き終えた後、ハルナの心臓の鼓動は先ほど意識の外へと通り抜けていったある推測が再び意識の中に浮上してきたことにより早くなる。




「ねぇ、ヴェスティーユ……あなたの言っているお母様ってもしかして……」











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