3-284 モイスの決断
「モイスさんが、このことを王に説明していただけませんか?」
「は、ハルナ!?なんて失礼なことを!!……モイス様、申し訳ありません!!」
モイスに対して無礼な行動をとるハルナに対し、ステイビルはハルナの肩に手を置きモイスに詫びて今の発言を急いで取り消すように告げる。
モイスは長い首の高い位置から、ハルナのことを見下ろす。
反対からは、ハルナはモイスのことを見上げ、視線は外さない。
その緊張感から、周囲の者達は息を止めてその様子を見守る。
「ハルナ……」
緊迫した空間の中で、声を出せたのはステイビルだけだった。
その音で、凍りついた緊張がゆっくりと流れ始める。
『……うむ、よい。ハルナのその願い聞き届けようぞ』
「「――えぇっ!?」」
ステイビルとエレーナから、驚きの声が漏れる。
今までその姿をほとんど見せず、秘密を保ってきた大竜神がハルナの一言で常識を覆す決断を下したことに驚いた。
(もしかして、ハルナはモイスと同じもしくはそれよりも上の能力を持っているんじゃないかしら……!?)
エレーナの頭の中にそんな思いも浮かぶが、今までの戦いなどを見てもそれは考えられないと、浮かんだ考えを頭から消した。
「よ、よろしいのですか?モイス様……」
ステイビルは、モイスの肯定の返答に恐る恐る確認をする。
その言葉に対して、モイスは問題ないと返答した。
『うむ……ワシもそろそろ、外の世界がみてみたいと思っていたところなのだ。け…決して今思いついたわけではないぞ?』
「外の世界……?ま、まさか外界にお出になられるのですか!?」
モイスの決断に一番驚いたのは、ナンブルだった。
ナンブルはナイールの身体のために共に、大精霊ガブリエルの傍に仕えていた。
ガブリエルは、自身の性格からか自分の世界に閉じこもっていることが好きなため、決して外に出でようとはしなかった。
一度ほど、他の大精霊と交流をしているところを見掛けたが、それ以外には自分の許した以外の者とは交流することも自ら出かけることもなかった。
そのため、他の神々もガブリエルと同じように外界と接したりしないものだと思っていた。
しかし、モイスはこの状況を説明するために外に出ると言った。
『そうだ……エルフよ。ワシはハルナに付いて行き、今のこの世界をこの目で見ることに決めた!……ハルナ、よいな?』
モイスからの問いかけに対しハルナは自分からお願いしたため立場があべこべになっている気がしなくもなかったが、否定する気もなかったため承諾した。
「それで、どのようにして王国に向かわれるのですか?そのお身体ですと、少々目立ちすぎてしまわれると思うのですが……」
『それに関しては、問題ないぞ。この身体は有って無いようなものなのだ……見ておれ』
モイスの身体は光に包まれ、凝縮していくように小さくなっていく。
最終的にはヤモリの形になり、ハルナの足元にその姿を現した。
『どうだ!これなら、お主たちと一緒にいても怪しまれることはあるまい……ハルナ手を出すがいい』
ハルナはしゃがんで、モイスの前に手を差し出す。
モイスはハルナの掌に乗り、そのまま抱えあげ目の高さに持ち上げた。
「あ、このサイズ……以前にも見ましたね。大きい姿もかっこいいのですが、このくらいだと可愛いく見えますね」
『このワシのことを可愛いだと!?……まぁよい。そう呼べるのもお前だけだ』
ハルナはモイスに言われて後ろに振り向くと、その言葉に表情が固まっているステイビルとナンブルの姿が見えた。
「それじゃ、一旦ふもとに戻りましょうか?」
サナは、自分考えを告げた結果が大きな出来事になっていることに動揺しつつ、動き出した話を進めるために次に行う行動を提案した。
「そうだな、とにかく本来の目的は……完全ではないが一応は達成した。一旦はふもとの村に戻ろう」
「それでどうすれば、外に出られるんですか?」
ブンデルが、ステイビルに話しかけるとその問題をハルナの方に丸投げをした。
「え、私?……判らないですよ。モイスさん、どうすればここから出られるんですか?」
ハルナは肩の上に乗ったモイスに振り向いて話しかける。
モイスの変った姿はハルナの鼻先にあり、鼻息がモイスの顔先に罹っている。
『少し待つがいい……』
そういうとモイスは動きを止めて、何か探っている様子を見せる。
しばらくして、意識が目の前のヤモリの中に戻ってくる。
『……まだ、いるようだな』
「……レッサーデーモンですか?」
モイスは、エレーナの質問にその答えが正しいと告げる。
「このメンバーなら倒せなくはないだろうが、あの魔物はこの場所を探している偵察隊のような役割でしょう。ここで先頭になれば、探そうとしている者にこの場所を教えてしまうことになる……そうなればモイス様にとって良いことではないのでは……」
ステイビルは、腕を組みながらこの状況を打開する方法を考える。
そしてモイスは、またしてもある決断を下した。
『よし……ここにはもう、用は無い。迎え撃って出るとしようか』
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