3-283 ハルナの上限




「え!?……それって……私……これ以上、強くなれない……ってこと?」





ハルナは、サナの仮説の話を聞いて愕然とした。


まだ、あのヴァスティーユとの戦いも終わっていないし、ダークエルフの件も片付いていない。

あの二人が、組んでいるのか、それぞれ別な存在かもわからない。


それらに対応するには、もっと強くならなければならないとハルナは感じていた。

それに、自分はこの世界とは違う場所から来た存在。

エレーナがいうには、“自分は何か特別な力を持っているのではないか”という。

とすれば、これからの戦いで自分の特別な力で守っていかなければならないと思っていた。


その自分がこれ以上、能力的に成長できないとなると……この世界のことが何もわからないハルナは、自分の価値がなくなってしまうのではないかと足の力が抜けていく。



「ま、待って!?まだ……そう決まったわけじゃないのよ、ね?ハルナ、落ち着いて」






エレーナはハルナの近くに寄り、両肩を支えてハルナを庇った。






「ハルナさん……既に相当お強いと思うんですが……」





そう告げたのは、エレーナの後ろにいたアルベルトだった。

そのフォローに似た言葉に、エレーナもウンウンと頷いて”もっと褒めてあげて!”と目が訴えている。

だが、ハルナ自身はまだ絶望の淵から這い上がれていなかった。




「ハルナさんはこの世界にこられて、数年も経っていません。ですが、この世界にこられてからすぐに精霊とも契約をされ、厳しい精霊使いの施設でもそんなに苦労もなく修了されていると聞いております。そうであれば、ハルナさんが今お持ちの能力はかなり高いものをお持ちではないかと推測します」





エレーナはハルナの肩の上に置いていた手を離し、腕を組んで何か思い当たることがあり、記憶を掘り起こしていた。





「確かに……そうね。初めて見た”あの”竜巻も、普通じゃ……それも初めて契約した者には使えない力よ」





その言葉を引き継いでアルベルトが、さらにハルナに考えを伝える。





「ただ、ハルナさんが自分は”そこまでの力がない”と思われているのであれば、それはまた別の要因だと思うのです」



「別の……要因?」



「そうです……これは剣技の話なのですが、いくら腕力があって一撃だけが強烈でも、それはその者の剣の強さとは言えないのです。力と技術、それに経験が備わった者こそ、よい剣士であると考えています」



「ちょっと!?アルは、ハルナが”そう”だってこと言いたいの?」







ハルナが”力”だけの精霊使いではないことを、一緒に旅をしてきたエレーナは知っている。

そんなハルナがそういう精霊使いだと言われている気がして、エレーナはアルベルトに突っかかっていった。





「……待ってください、エレーナさん。多分彼が言いたいことは、ハルナさんの技術が劣っていると言いたいのではないのではないですか?」





荒ぶるエレーナに対し、落ち着くように声を掛けくれたて人物はナンブルだった。





「ナンブルさん……」





エレーナはナンブルに声を掛けられたことによって、冷静さを取り戻しアルベルトが伝えたかったことが頭の中で理解し始めた。




「あの……なんだかすみません、私が変なこと……言わなければ……こんなことには」





ブンデルの後ろでは、サナが申し訳なさそうにエレーナに謝罪をした。




「いえ……私が悪いんですね……こんなことで落ち込んでちゃいけないんです。……エレーナも、ごめんね。変な心配かけさせちゃって」



「ハルナ……」



「――ぐっ!?」





エレーナは、少し元気を取り戻したハルナに飛びついて強く抱き締めた。

それは、アルベルトの勘違いを誤魔化しているようにも見えたが、エレーナが自分のことを心配してくれているからこそと我慢した。





「それで、ハルナさんはモイス様の加護は受けることができないってことですか?」


「そう、ブンデルさんの言う通り……ハルナはモイス様の加護を受けることはできないのでしょうか!?」



『うーん……そのことなんだが、正直判らんのだ。なにせ初めてのことだからな、ワシがこの世界に誕生してから初めての現象だ。もしも、そこのドワーフの娘の想定した通りならば、これは世界の摂理なのじゃろう……ワシにもどうすることもできんわい』



モイスの絶望的な返答に、ステイビルは足の力が抜けて倒れ込みそうになるのを必死に堪える。

だが、その絶望を乗り越えたとしても、その先にこの絶望を打開する案は何も思いつかない。



そもそも、王選のルールがそういうことを想定していなかった時点で、問題があるような気がした。

しかし、それに対して文句をつけることは神々に対して文句をつけるという行為で不遜な態度と取られてしまうだろう。

ステイビルには決して、そんなことを口にすることはできなかった。


そんな息が詰まりそうになる中、ハルナの声が響き渡る。





「モイスさん。他の大竜神様たちの加護は、モイスさんと異なる加護が得られるんですか?」



『う……うむ。詳しいことは教えられぬが……そいうことじゃのぉ』



「だとすれば、これって他の大精霊様とかでも起きる可能性ってあるんですか?」



『む!?それは……わからんな』






実はモイスも、サナの考えが一番可能性が高いと感じている。

そういう者が現れた場合、与える加護がない……それはすなわち、モイスと近い能力を持っている人物であるとも言える。




(ハルナ……この者は確かラファエルと)




モイスの思考を、ハルナの声が妨げた。





「そこで、お願いがあるのですが……」



『ん……な、なんだ?』





モイスはハルナの”お願い”に嫌なものを感じ、背中の羽を一度だけ羽ばたかせた。




「モイスさんが、このことを王に説明していただけませんか?」









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