3-214 東の王国18





先程まで来客のあった部屋には、今は母親とその娘の二人だけがその場にいる。



来客の二人を見送った後、父親は母親に娘たちに先ほどまでいた二人の”感想”を聞くように指示した。

母親はその言葉に反応し、父親の言葉の奥にある意味を読み取る。




母親は、ローテーブルの上に肘をついて前のめりの姿勢で娘たちに伺う。







「ねぇアンタたち……どうだった、さっきの人たち?」








父親はあの二人が娘を見る目が、男性が女性を見る目になっていることに気付いていた。

その目の色は明らかに、興味を持った異性に対して向けられる視線であった。




相手は他の村の村長の息子、しかも娘と一緒の双子で感性が似ていればどちらのパターンでもお互いがパートナーになる可能性もある。



そうなればどちらかがこの村を、もう一人もあちらの村を治めることになることもありうる。

それによって、お互いの村が発展することにも繋がる可能性もある。




母親の頭の中には、そういった妄想が広がる。





今回は父親から問い掛けると、まとまりそうな話もまとまらなくなりそうな気がして、母親にお願いをしていたのだった。




娘たちの返答を待つ短い間に、母親はこんな妄想を膨らませていた。



だが、肝心の自分の娘たちの答えは両親が期待しているような答えにかすりもしない内容だった。






「そうね……特に悪い感じはしなかったわね」


「だけど、すぐに信頼できるかといえば……うーん、やっぱり様子を見ることが必要ね」





「そ……そう?」






「「……?」」





何故か、力なく項垂れる母親の姿をみて、娘ふたりは顔を見合わせて不思議に思った。







(そういえば、最近この子たちの友達のサミュが妙に色っぽくなってたわね……はぁ、この子たちにもサミュのように色っぽさがあればねぇ……)




母親は、自分の娘に足りないものが余所の娘にあることを残念に思いながら、テーブルの上の食器を片付けていく。










太陽が沈み、数時間が経過した。

村での夜の時間は東の王国の時間よりも長い。



明かりに使われるオイルも、そんなに安いものではないし薪を焚くにしてもこの季節は熱が家の中にこもってしまう。

朝の仕事も、太陽が昇り始めてから活動することが当たり前となっているため就寝時間は早かった。




人々が眠りにつき始めて各家の明かりが消えていき、夜の暗闇が落ち着き出した頃。


家から離れた納屋に向かう人影が見え、手にした明かりは広がらない様に髪を巻いて足元だけ照らすようにしていた。





周囲に誰もいないことを確認し、屋内に素早く身を隠した。






「サミュか、どうした?何かわかった……ッ?」







中で藁にもたれかかった状態に、サミュはその胸の中にかr飛び込み相手の唇を奪う。

そのまま一方的に舌を絡め、相手の意識を自分の方へと興味を向けさせるために全身を使って仕向ける。




トライアはその行為を受け止め、サミュが望むままの要望に応える。

二人は顔を付けたまま、身に付けていた一枚の布をお互いに剥いでいく。





「もう……我慢できないの……お願い……ねぇ」





そのサミュの言葉に、トライアは二やッと笑い二人は身体をつなぎ合わせた。















「はぁ……はぁ……んっ……ふぅ……」






サミュは満足そうに、トライアの胸の中に抱かれて息を整える。




息を整え、頭が落ち着いたころを見計らいトライアはサミュに言葉を掛けた。







「サミュの友達のあの二人の様子はどうだ……?」







サミュは、トライアからあの二人のことに話題を持っていかれると自分が苛立つのを感じる。

だが、口答えも不満を持つことも許されない。

でなければ、その先に待っているのは一方的な”暴力”――






サミュはその力に怯えて、逆らうことはでいなかった。

しかし、知らないものは答えられない。

返答の時間が遅くなればなるほど、トライアの機嫌のメーターは下降する。




「か、変わってない……と、思う」




その答えにトライアの目が優しい目つきから冷たいものへと変わっていくのが見て取れた。


サミュに何かを”しよう”とした瞬間、サミュはトライアから離れ身体を隠すこともせず弁解をする。





「ま、待って!?あ……明日一緒に作業をする日なの、そこで必ず聞き出して見せるから!!」






その言葉にトライアは、サミュの髪の毛を掴もうとした動作を止め、そのまま優しく頭を撫でた。



「そうか……だが、もう次はないぞ?」




「え……えぇ、必ず聞き出すわ!」






実はサミュはトライアがあの二人に対し、何を気にして何を聞き出すべきなのか判らなかった。


最初のころ一度だけ、そのことを聞いて機嫌が悪くなったことがずっと頭に恐怖として残っている。

あの時は初めての自分の身体を差し出したことで、ひどい状況にならずに済んだ。







あの日の恐怖と、植え付けられた快楽を差し引いても快楽が勝っている状況だった。









翌朝、朝日が村を照らし始める頃、サミュは一晩でクタクタになった身体を無理やり起こして納屋の外に出る。



そして、いつもの水場で顔を洗って水に映る自分の姿を見る。





「あら、また”痣”が増えてるわ。このところずっと夜更かししてるからかしらね……ぶつけてもないのに、最近治りが遅いのよね」




そして細くやつれた顔を同じように奴らた腕と指で自分の頬を労わるようになでる。




そこに、またいつもの人物が登場した。





「おはよう!」


「今日も早いわね、サミュ!」







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