3-207 東の王国11








エイミとセイラは両親の言葉に、なんと返せばよいか分からず口が開いてしまっていた。





「あー。判っている……つもりだなんだがな。いや、しかし、でも、お前たちが思う時期が来てからでいい……から」





なんだか踏ん切りの付かない父親の言葉に続き、しっかりとした嬉しそうな態度で母親がその言葉を引き継ぐ。




「そうですよ、エイミ、セイラ。せっかくの出会い、無駄にしてはなりません。ゆっくりと関係を深めておいきなさい。賢いあなた達が選んだお方ならまず大丈夫でしょう、お父様の立場にあった方にせよそうでないにせよ、これからを過ごしていくあなた達の気持ちが大切なのですから」







セイラの目が開きっぱなしになり、ありもしない恋愛話しに耳が赤くなってしまう。





「ちょ……ちょっと何を言って!?」





セイラがそう言いかけたところを、エイミが更に言葉をかぶせて止めた。





「あの……まだ知り合ったばっかりだから、この先どうなるか分からないの。とにかく、その時が来たらお父様にもお話しさせて頂きます」






その言葉を聞き、父親は一瞬目を見開いた。

父親としては娘が幸せになるのは嬉しいことだが、誰かに取られてしまうのはいつの時代でも嫌なものだった。




落ち込む父を横目に、母親が代わりに言葉を告げる。




「そうですか……わかりました、まだ詳しくはお聞きしません。私たちはあなた方二人を信用していますからね、いいですね?」





二人は、その言葉にうんうんと頷き母親の気持ちに応える。




そこから家族は、普通の話題に戻っていく。

普通の家族の、何も起きない安らかな時間が過ぎていった。




















「ねぇ、大丈夫なの?あんな気を持たせること言って」








部屋に戻るとセイラはエイミに先ほどの話しの意味を聞こうとする。








「よく考えて頂戴、私はだれも”人間のパートナー”とは言ってないのよ。それを精霊に置き換えただけなんだから」




「確かにそうだけどさ、なんだか嘘を言っている気がして……それにその指だって」










セイラはエイミの右手の薬指にはめている、ウリエルから渡された指輪をみる。



あの日付けてから外れなくなってしまい、親には怪我ということで包帯を巻いて隠してある。

心配して見せるように言ってきたが、エイミは頑なに断っていたのだった。










「……早いうちに本当のことを言った方がいいんじゃないの?」







セイラは心配そうに説得するが、エイミはそれを拒む。







「大丈夫だって……さぁ、今日はもう寝ましょ?明日は精霊を連れて”また”森を探索よ」







そういうと、エイミはベットの上寝転んで目をつぶった。

セイラもベットの上に上がり、近くのテーブルに置いていたランプの明かりを拭き消した。


部屋の中には夜の闇がおとずれて、窓の外の月明りだけが唯一の明りとなった。



セイラは心配していた。




今までは、エイミと同じように行動し同じように判断で来ていた。

だが、最近では少しずつ考え方に差が生まれてきている。






(私たちに差が……)







セイラは嫌な考えを振り切るように頭を振り、エイミに背を向けるようにして毛布に包まり身体を丸めた。

















「ら……ねぇ、セイラ!!起きて!!」




揺さぶられながら、セイラはまだ閉じていたい瞼をゆっくりと開く。


そこには焦った顔をしたエイミがいた。





「……ん?なぁに」





意識がはっきりしていない状況でセイラは何とか言葉を口にした。







「火事よ……隣の家から火が!!」





――ガバッ!!





セイラは、その言葉に反応して飛び起きた。



この村はそんなに近接した距離で家は建っていないが、全てが木造のため炎が燃え移る可能性が十分にあった。

この時代に消火設備など無く、各家が用意している水を使って消火するか、火が収まるまで燃え尽きるのを待つかしかなかった。



そのため火事が起きた場合は、村長が判断し消火活動をするか被害の拡大を防ぐかの判断をしなければならなかった。






エイミもセイラも椅子に掛けていたワンピースの服を裾からかぶり、人前に出ることができる支度を整えて部屋を飛び出した。






火事が起きている家の周りには、近所の村人が様子をうかがっている。

火の手は勢いを増し、よもやこの時代の人の手で消火できる状態ではなかった。





エイミは、腕を組みその様子を見守る村長である父の姿を見つけた。






「お父様!!」




「おぉ……エイミ、セイラ」




「……火は消さないのですか?」






セイラはわかってはいたが、念のため聞いてみた。





「うむ、これだともう間に合わないんだよ……」






父親は、言葉の最後に無念の気持ちがこもっていた。

そのことに気付いたエイミが、辺りを見回し気付く。



この家の夫婦が、泣きながら我が子の名を叫んでいる姿を……







「ま、まさか!?」






「その通りだ……中にまだ、子供が一人取り残されている……」





悔しそうに父親が、セイラにそう告げた。






その事実を知ったとき、エイミもセイラも下肢の力が抜けその場にへたり込みそうになる。





『……中の様子見てこようか?』





セイラの耳元で、声がする。





「「――あ」」





セイラたちは思い出した、自分たちには精霊が付いていることを。






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