3-206 東の王国10
あの後変化が見られたのは、セイミの土属性の精霊が人型になり次第に言葉を話せるようになっていった。
それにつられてか、他の精霊たちも人型へと進化し言葉が交わせるようになっていた。
二人はそれぞれの精霊を束ねるもの達の名前をとり、”ウリ”、”ミカ”、”ラプ”、”ガプ”と名付けた。
「ねぇ、エイミ。今日は何をするの?」
「うーん……そうね。セイラ、何かいい案ある?」
「もう、この辺りの森は全て行ったしねぇ……」
「それじゃあ、また最初からいこう!!」
「「ま……またぁ!?」」
精霊たちは、この辺りの森を探索するのことを気に入っており、周囲の森はもう二度も回っており二人は飽きてきていた。
更に理由を告げるなら、二人はもっと前からその森で遊んでいたため何の面白みを感じていなかった。
しかし、結局はまた同じコースを回ることになる。
精霊たちは、村や屋敷の中では自由に動くことができなかった。
それはまだ、精霊たちを両親を含めて他の者に紹介してはいなかったのだった。
だから、精霊たちを満足させるためには離れた場所に行くしかなかった。
それも、毎日出かけることはできない。
二人にも村での役割があり、村長の娘とはいえ遊んでいることはできなかった。
精霊のために付き合いたい気持ちは山々だが、全ての精霊たちの要求に応えることはできない。
精霊たちは自分たちだけで出かけることもできたが、それは二人に言われて禁止されており、みんなそのことを守っていた。
今日は外出できる時間ができたため、村の外に出ることにした。
場所は精霊たちの希望通り、もう一度近くの森を巡ることになった。
二人は最近よく村の外に出ていくことを、両親に指摘されていた。
初めの頃は両親の好きなものを持ち帰ることで誤魔化していたが、その回数は”別な理由がるのではないか”と怪しまれるくらいに達している。
不信感が最高潮に達した食事を終えたある日の夜、二人は父の書斎に呼ばれた。
――コン、コン
「……入りなさい」
「何のご用でしょうか、お父様」
エイミが前を歩いていたため、ドアを開ける。
そこには父と母がいつもとは違う、真剣な表情で並んで座っていた。
「来たか、お前たち。そこに座りなさい……」
エイミとセイラは言われた通りに、父の書斎にあるローテーブルの前の背もたれの付いた木製の長椅子に腰掛けた。
母は二人と自分たちのお茶を用意し、それぞれの前に並べて自分も再び父の隣に腰を下ろした。
目の前のカップから湯気が沸き上がり、鼻の中で香りが留まる。
このお茶の芳醇な香りは本来、気持ちを落ち着かせる作用があるのだが、二人の胸の鼓動はこれからのことを考えると安らぎはしなかった。
(どうしよう……バレたのかしら)
(別に精霊と契約したからってどうってことないと思うけど……)
二人は頭の中で必死に言い訳や、自分を正当化するための思考を巡らせ準備をする。
父親の方は何度か息を深く吸い込み発言をしようとするが、いままでそれは全て空咳に変わっている。
「……ぶふぉっ!?」
五度目の深呼吸で、父は隣の母から肘打で無防備なわき腹に合図をされる。
その驚きと痛みによって、吸い込んだ五度目の息は言葉にもならない変な音に変わってしまった。
六度目の呼吸で、父はようやく言葉を発した。
「お……お前たち。親にその……私たちに話さなければいけないことはないのか?」
その言葉を聞き、二人の心臓が跳ね上がった気がする。
決して悟られない様にと、身体は力を入れて表情など反応を見せない様にしていたが少しだけ動いてしまったかもと反省をする。
「……」
質問をされてから数秒経過したが、お互い何も返答していなかったため怪しまれると判断したエイミが代表をして答える。
「……いいえ、そのようなことは何もございませんよ?お父様」
(返答が少し遅かったかしら……)
返事をしたエイミは、平然を装いつつも身体の震えを必死に堪える。
「そうか……ならば、何故何度も森の奥まで行く必要があるのだ?」
「最初は私たちのために、野草や木の実を取って来てくれているのかとも思ったけど、だいたいあなた達がそうするときは私たちに何かお願いすることがあった時にそういうことをしてたのよ。でも、今回は何もねだってこないし何のお願いもされていない。事の大きさによって私たちの機嫌の具合を伺っているときもあったけど、何も言ってこないじゃない!?」
母の言葉にドキッとする二人。
そう言えば、今までそうやって機嫌を取ったりおねだりして来ていたのは確かで両親はそのことを知っていた。
「あのぉ……」
セイラがこれ以上は隠しごとはできないと思い口を開きかけたその時。
「お前たちがあってるのは、どこの村の誰なのだ?」
「「――はぁ!?」」
二人はその言葉に、口に出して驚きを見せてしまった。
「だって、隠れてお会いするなんて……この村の者ではないのでしょ?それはお父様も私も最初はどうかと思いましたが……」
「うむ、我が子が選んだ者なのだ。間違いはないと信じたいが……どうだ、一度この村に連れて来てみては?」
エイミとセイラは両親の言葉に、なんと返せばよいか分からず口が開いてしまっていた。
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