3-164 隠された術式







「これは……術式!?」







手紙の後ろに感じた魔力、どうやら文字のような記号であることがブンデルには感じ取れた。





「術式……ですか?」






サナは、ナンブルが見つめる手紙を見ても何も感じ取れなかった。





「……サナは、これが判らないのかい?」







その質問に対して、サナは正直にただの古い紙にしか見えないことを伝えた。








サナもドワーフの町では魔法に関する知識は習得しているし、”ヒール”も習得している。




以前魔法の知識を語り合った時も、お互いの認識に差は感じられなかった。

だが今は、その術式はブンデルだけしか感じられていない。




術式をみても、さほど難解なものとは思えない……





ナンブルは自分にしか見えないという問題は一旦置いて、その術式を読み解いていく。



そして、その見えない術式をサナにもわかりやすいように、ブンデルは別の紙に書き起こしていく。





サナは書き起こされた術式を見れば、そこに書かれている内容は理解できていた。








……そして、全ての術式が書き写された。





その瞬間、ブンデルの頭の中に怒涛のように術式が流れ込んでくる。






「……うっ!」





「ブンデルさん!?」






サナは割れそうになる頭を抱え込んで、蹲り椅子から崩れ落ちそうになるブンデルを横から抱きかかえる。


そのまま少気を失ったブンデルを、近くのベットまで運んでいく。





そして部屋を出て、ハルナたちに声をかけ助けを求めた。







部屋にはハルナたちの他、ナルメルとゾンデルも様子を見に来てくれた。





ナルメルがブンデルの様子を見てくれて、命には問題がないと教えてくれた。




そして、サナはなぜこのような状況になったのかステイビルに聞かれ事の顛末を語した。






そして、そのことに一番驚いたのは、ナルメルとゾンデルだった。








「手紙に……そんなことが書いてあっただと!?」





ゾンデルは、古い手紙とブンデルが書き出した術式をみて声をあげあt。



エレーナは、破れてしまいそうな古い手紙をそっと持ち上げ裏返しにしてみたり明かりに透かして見るが、書き出したような術式は見えなかった。

それは、ナルメルたちも同じことだった。






(何か我が子にだけわかるように何か仕掛けられていたのか……)






ゾンデルはもはやブンデルがナイロンであることは疑ってはいないが、この子の将来につて考えるとどのような生き方を選択するのが良いか悩みどころだった。


しかし、それはゾンデルの杞憂だろう。



ゾンデルが心配などしなくても、ブンデルはこれまで一人で生きてこれた、

家族や人を信頼することも知っておいて欲しかったが、ドワーフの娘とも仲が良さそうだから心配することもなさそうだ。







そうは思うが、少し状況が変わってしまったのではないかとゾンデルは心配する。




この魔法は一体、あの二人が何のために残したものなのか。


そしてこの魔法は一体何の魔法なのか。


このことが、この子にとって悪い方向に進んでしまったのではないか。






ゾンデルの頭の中でで、悪い考えがぐるぐると巡っていく。


そのループを破ったのはブンデルだった。







「……う……うーん」





頭が痛いのか、ブンデルは毛布から手を出し眉間に皺をよせて、こめかみのあたりに手を当てる。








「ブンデルさん……大丈夫ですか?」




まだ目の開かないブンデルに、サナは静かに声を掛けた。


その声に反応したブンデルは、ゆっくりと意識が戻り自分の名前を呼ぶ声の主の姿を確認しようとした。

ゆっくりと開く視界の中に、安心でするサナの顔が映し出された。





「サナ……ん!?」




視界が広がるにつれ、サナ以外の情報も入ってくる。




ナルメル、ブンデル……それに顔を横に向けるとハルナやステイビルたちの姿も見えてきた。





ブンデルは急いで上半身を起こしたが、その時に一度だけ頭の中に痛みと重苦しい吐き気に襲われ必死に抑え込んだ。

その様子を見ていたサナは、ブンデルの背中に手を回しその身体を支える。






「皆さん……どうして……」



と途中まで口にしたが、自分が途中で倒れてしまったことを思い出した。

サナが、連絡をして皆を呼んできたのだろうと理解した。










「ブンデルさん、大丈夫ですか?」



「はい、ご心配おかけしました……もう大丈夫そうです」






ナルメルからの問いに答えたブンデルは、テーブルの上に置いてあった紙がゾンデルの手の中にあることを確認した。

そして、ブンデルからその話題をゾンデルに振った。





「ゾンデルさん……その手紙は一体何なのですか?」







「これは、見ての通り私の家族だった者たちからの手紙だ。私たちもそれ以外の認識はない……逆に何か判ったことがあれば教えて欲しいのだが?」




ゾンデルがこの手紙をブンデルに渡したのは、何か思い出してくれないか期待していた。

その期待も、ほんのわずかな奇跡のような確率だと思っていた。


なにしろ、赤子は生まれたばかりの状態だった。

何かを覚えているはずもない。







『――だが、あの優秀な二人の子供なら何か奇跡が起こるのでは?』






ゾンデルの自分勝手な思い込みから、現状に変化が見え始めている。

今まで藁を無掴む思いで探していた二人とその子供の情報、それに何らかの糸口となる可能性が目の前にある。




諦めかけていた期待感から、ゾンデルの心拍数は急激に早くなっていく。




「私からもお願いします……何か判ったことがあれば教えて頂けないでしょうか?」




ナルメルも弱っているブンデルに申し訳ないと思いつつも、頭を下げてお願いする。





そんな二人の気持ちに、ブンデルは目を閉じて気持ちを落ち着かされる。

そして何度かゆっくりと息を吸って、吐き出していた息を言葉に変えた。






「……今、夢を見てたんです」






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