3-149 ナンブルとナイール3
「ナンブルよ、それでは……!?」
「はい。お互い……ナイールが納得してくれればですが……一緒になりたいと思います」
「そうか……そうか!」
村長は一度だけ手を叩き、満足いく結果に喜びを表した。
サイロンもホッとした様子で、近くにあった椅子に腰かける。
(これからが大変なんだけどな……)
ナンブルはこれからのことを思うと、胃の辺りがキリキリと締め付けられ痛む。
――コン、コン
静かな廊下に、乾いた木の扉をノックする音が響く。
部屋の中からは何の応答もないが、それを待っていてはずっと入室はできない。
カギはかかっていないと事前に聞いていたので、それをたしかめてドアノブを回し部屋の扉を開く。
「ナイール……具合はどうだ?」
ナンブルは、少し緊張しながら窓際に座って外を見つめるナイールに声を掛けた。
サイロンからナイールのことを頼まれたこともあり幼馴染みで今まで気軽に話しかけていたものが、変に意識してしまい少しギクシャクした感じの言葉になった。
しかし、ナイールはナンブルの言葉にも反応せずこちらを見ることもなかった。
そんなに仲が悪いわけでもなく、お互い助け合ってきたはず。
ナンブルは無視をされたと思い、ナイールに近付いて行く。
「なぁ、どうしたんだよ。ナイールらしくないな……」
ナンブルは、人間の話題とエルフの村を襲ってきた理由がナイールが目的であることは、本人には黙っていてほしいと村長から言われていた。
もちろんナンブル自身も同じ考えで、これ以上ナイールの気持ちを乱すようなことはしたくないと考えていた。
「何かあるんなら、俺に話してみなよ……早く元気になって、やり残してる研究に取り掛かろうぜ」
今までに一番緊張しながら、ナンブルはナイールの肩に手を置いた。
「――!?」
一瞬にして、先ほどまでの照れが吹き飛び恐怖に変わる。
ナイールの身体からは、体温が抜けており冷たくなっていた。
「ナイール!!!!」
ナンブルはナイールの正面に回り、その表情をみる。
健康的で美しいあの顔にからは血の気が失せ青白くなり、薄く開いた虚ろな目は何も映していなかった。
ナンブルは急いで、首に手を当てて拍動を探す。
(……トクン……)
かすかに指腹に触れた拍動に安堵し、ナンブルはナイールの細くなった冷たい身体を抱きかかえ近くのベットに運んで横にした。
そして、大声で助けを呼んだ。
幸いなことに、ナイールの命には問題はなかった。
自動的に生命活動を低下させ、自分を守っていたようだ。
ヒールで体力を回復させ、浴室で身体を温めた。
そこから数時間後、ナイールの意識は戻った。
世話をしていたエルフは、ナイールの無事を泣いて喜んだ。
それと同時に、そのような状態になったナイールに気付かなかった自分たちを責めた。
中には自らの命を絶とうとしたものまでいたが、周りの者がそれを止めた。
”村長から受けた命令を守れなかった……”それが理由だった。
「ご……めん……な……さい」
弱った身体で、ナイールは世話をしてくれていた者たちに詫びた。
自分のわがままが原因だったと、ナイールは気付いた。
そこからナイールは用意された食事も採り、自分の身体の回復に努めた。
そうすることによって、世話をしてくれている人たちに自分のせいで迷惑を掛けないために……
ナンブルも、ナイールの体調が回復してから何度か訪れた。
「ナンブル……あなたが助けてくれたのね」
ナンブルは、ナイールの退屈な時間を紛らわせることと早期の現場復帰を促すため、やりかけていた研究資料の束をテーブルの上に置いた。
「余計なことを……とか言うなよ?お前がいなくなったらコレ全部、俺一人で片付けなきゃいけなくなるんだからな!」
ナンブルはいつものように、ナイールと話すことができた。
テーブルの上に乗せた資料の束を、何度か叩きその量をアピールする。
「うん……わかってる。ありがとう、ナンブル」
「……あ」
ナンブルは、その返答に驚いた。
今までのナイールならば、
『なに、ほとんど私に押し付けようとしてるのよ!?』
という返答を予測してしていた。
だがその言葉の裏には、ふざけた様子も嘘を言っている様子も感じられなかった。
その時に少しだけ弱々しく微笑みながら告げた表情が、ナンブルの心の中にナイールに対する感情の変化が生じさせた。
「どうしたの……ナンブル?」
ナイールからの問いかけに、ナンブルはハッとする。
どうやらずっとナイールの顔から、視線を外すことができなかったようだった。
「え!?……あ、あぁ。なんでもない、何でもないさ」
ナイールはいつもと違い慌てるナンブルに、キョトンとした表情で見つめる。
その眩しい表情がまた、ナンブルの心拍数を高くしてしまっていた。
「な……何かあれば、何でも言ってくれ。俺が手伝ってやる、どんなことだって」
ナンブルはようやく目線を逸らし、重ねてあった資料をやる必要もないが整理していた。
そして、高ぶる気持ちを必死に抑えようとしていた。
「……ナンブル。こっちにきて」
ナイールが、鈴の音のような声でナンブルを近くに呼んだ。
相手に聞こえそうな胸の鼓動を、止めることも出来ずに緊張してナイールのベットの傍に近付いた。
「……ありがとう。その時は頼りにするから」
そう言ってナイールは、ナンブルの手を取った。
ナンブルの手に、優しい暖かい熱が伝わってきた。
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