3-148 ナンブルとナイール2







「なんと!?ナイールが目的だとっ?」





サイロン、ブンデルとナンブルは、二代目の村長の前に跪いて今までの報告を行った。




現在ナイールは部屋に軟禁されており、人間への熱が冷めるまで待っている状態だった。


手伝いの者が日に何度か、ナイールの身の回りの世話や食事の運搬のため様子を見ている。

その様子は、開くとができない窓の外をただただ眺めているだけという。




あの日から食事には全く手つかずでベットのシーツも乱れておらず、窓際の席にずっと座ったままだという。

エルフは寿命が長い生き物であるため、食事はさほど小まめに採らなくてもいいようだ。

だが、いくらそんなエルフでも心配になるくらいの期間、ナイールは何も口にしていなかった。






村長も、サイロンもそんなナイールの対応に頭を悩ませていた。




そして、ふと今までも冗談で言っていたことを本気で考えてもいいように思えてきた。







――ナイールをナンブルと一緒にしよう








「えぇ!?あの……わ、私が……ですか?」







サイロンの口からそのことを聞き、驚きを隠せないナンブル。

その後ろには二代目が、その隣には父親のゾンデルもいた。






どうやら既に話が通されており、ナンブル自身から断ることはできない雰囲気を感じ取った。






「どうだ?もらってくれるか?」






”もう、これしかない!”という目をして、再度確認してくる。






ナンブルもナイールに対し、全く興味がなかったわけではない。

幼いころから一緒に過ごし、妹のナルメルとも仲が良く家族のような存在だった。




魔法の実力もあり、ナンブルとも違ったジャンルの好奇心も旺盛だった。

施設内でもナンブルと一緒に行った研究では、今までにない程の成果をあげていた。







(これからも二人でやっていけたら……)







そんな気持ちが、ナンブルの頭の中に浮かんだ数は少なくはない。





だが、我に返りもっと根本的な問題を村長たちに提示する。






「し……しかし、ナイールの気持ちはどうなのでしょうか?もしも……」







その先を言おうとしたところで、村長が手を出してナンブルの言葉を制した。





「それは、お主の力量次第だ。我々も、あの娘……ナイールの性格は知っているつもりだ。父親のサイロンから言ったとしても、簡単には言うことを聞かないだろうよ。それに今、ナイールの気持ちはここにはない。それを助けてこそ……相手を救ってこそ、伴侶としてふさわしい人物になるのではないのか?……ナンブルよ」




当たり前のことだが、確かにナイールの気持ちを変えない限りこの状況は改善しないのは確かだった。






「こんな形になって申し訳ないと思っている。だが、このような状態になる前から考えていたことも事実だ。頼む……ナイールを救えるのはお主しかいないのだ、ナンブル」






「……」







父親のゾンデルは、優しい目つきでナンブルのことを見つめる。

多分、”お前にその気がなければ断ってもいい”と言っているのだろう。


その行動こそが、ある意味プレッシャーに感じられた。





ナンブルの頭の中で、自問自答が繰り返される。






――ここで断った場合、今後の自分の一族への処遇が悪くならないか?


――ナイールとの関係が、悪化したりはしないか?


――他の男性と一緒になった場合、ナイールを祝福してあげられるだろうか?


――急ぎ過ぎてはいないか?






――実はこれが、最初で最後のチャンスなのではないか?






ほんの十秒程度の沈黙だったが、ナンブルの中では数分にも感じられた。






そして、村長は腰かけていた椅子から立ち上がり、ナンブルに告げた。





「さぁ、これが最後の質問だ。ナンブルよ、一緒になってナイールを助けてやってくれまいか?……頼む、この通りだ」






村長は深々と頭を下げ、今までに誰にも見せたことのない態度をとった。


二代目も年を重ね身体が弱ってきており、孫娘の将来が心配なのだろうと感じた。




しかし、この問題は自分だけではなく相手がいる話なのだ。

自分の努力次第で解決できる問題ならば、とうにこの”命令”を快諾していただろう……







ナンブルは深呼吸をして、この辺りに漂っていると思われる森のエナジーを胸いっぱいに満たし自分の気持ちを落ち着かせた。







「お顔をあげてください、村長様……」






ナンブルからの呼びかけに応じ、頭をゆっくとあげてナンブルの顔をみる。

その表情は真剣で、腹を決めた顔つきだった。

村長はそのまま、相手からの言葉を待った。







「……このようなお話しを頂戴し、ありがたく思います」






サイロンは、語り始めたナンブルの言葉に静かに耳を傾けている。


この部分はまだ”挨拶”の段台で、本当に知りたい部分ではない。

その部分が来るまで、じっと長い耳をナンブルの本心に向ける。






「この問題の本質は、ナイールと私のお互いの気持ちによるものです。ですから、まずそれを確かめ確認し合わなければなりません。それにナイールは……」





更に言葉をつづけようとしたナンブルに、しびれを切らした村長が話しを中断させた。





「えぇーい、ナンブルよ。そんな話はどうでも良い!……答えはどうなんだ!?ナイールと一緒になるのか、ならないのか!?はっきりせい!!」





その言葉を皿に止めたのは、村長の息子でナイールの父であるサイロンだった。






「村長、落ち着いてください。ナンブルもナイールも一生をかける決断なのです、焦ってはなりません!!」





息子にそう諭された村長は、中断させたことをナンブルに詫びて続きを待った。






「……いま、ナイールも正常じゃない状態です。なので、ゆっくりとなるべく早急にナイールの気持ちをせいじょうにして確かめたいと思います」






「それでは……!?」






サイロンが、再度ナンブルに確認した。






「はい、お互いが納得すればですが……ナイールと一緒になりたいと思います」









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