3-131 村の入り口







「ブンデルさん、あなたの”本当”のお名前は?」





「――はぁ?」






思わずブンデルは、間の抜けた声を出してしまう。




先ほどから向こうも何度も自分の名前を呼んでいるはずだった。

なのに目の前のエルフは、改めて名前を確認してくる。

まだ、生命活動を落としていた影響が残っているのではとブンデルは思った。



がしかし、その目は真剣でそういった妄想はすぐに打ち消された。









「何を言っているんですか?あなたも今わたしの名前を呼んでいたじゃないですか……ブンデルですよ、”ブ・ン・デ・ル”」









「そうでしたか……いや、可笑しなことを聞いてすみませんでした。今の話は忘れてください」



「いえ、大丈夫ですよ。ナルメルさんもお疲れのようですので、早くお休みになってください。ノイエルちゃんが寂しがってますよ」






やはりナルメルが疲れているのだと思い、気を使って早く休んでもらうように伝える。






「あぁ、お気遣いありがとうございます。サナさんも突然の訪問、申し訳ありませんでした。それでは、また明日……」



「いいえ、大丈夫です。お休みなさいませ、ナルメルさん」






そういって、ナルメルは二人にお辞儀をして部屋を後にした。













翌朝準備が整い、再びグラキース山の反対側を目指して出発する。


同時に東の国の代表もドワーフの町へ交渉のために出発した。






「それでは出発!!」





「「お気をつけて!」」




「「いってらっしゃーい!!」」









ステイビルの掛け声と共に歩き始めたハルナたち。


ノイエルが心配そうに手を振るが、必ず帰ってくるとナルメルと約束していた。

それに、ハルナたちも絶対に連れて帰ると再び約束を交わした。







今回は、ナルメルが道案内を示してくれるため探しながら歩く必要がなくなるため移動に係る時間が前回よりも短縮されそうだった。




今日のグラキース山は機嫌がよく、最初に受けたあの強風もなく順調に進んで行く。


そして、一度だけ食事休憩を挟んだ。

ナルメルは緊張のせいか、食事が喉を通らない。








「昨夜もあまり眠れなかったんでしょう?せめて飲み物だけでも……」



「有難うございます、ハルナさん。ありがたく頂きます」







ねルメルは、暖かいお茶の入ったカップをハルナから受け取った。

その手の暖かさを感じながら、気になっていたことをハルナたちに聞いた。






「ハルナさん……あなたたちは、どうして私たちを助けてくれるのですか?」






ハルナは自分のカップを口に付けたまま、エレーナの顔を見る。

エレーナもその視線をアルベルトに渡し、アルベルトはその後ステイビルに渡した。







「何故……か?うーん」






ステイビルは腕を組み目を閉じて、このチームのトップとしてナルメルからの答えを探す。

そして、目を開きナルメルに目線を送る。





「ナルメル殿が……その……困っていたから……これでは理由にならないか?」







ハルナもエレーナも理由を考えていたが、同じ答えに辿りついていたためナルメルからの答えが気になっている。






「ステイビル様、東の国の王子とお聞きました。そのような方が、こうも初めて会う者をそこまで信用されるのですか?もし私が悪者であった場合は、どのように……」








言葉の途中でステイビルは、ナルメルの言葉を手で制する。







「万が一ナルメル殿が”悪者”であった場合は、それは手助けをした私の責任だろう。もちろんそうなれば、私自身が何らかの手段で責任を取るつもりだ。……だが、私の周りには優秀な者がたくさんいる」





そう言ってステイビルは、ブンデルとサナを含めたここにいる全ての者たちを見回した。





「悪い結果となる前に、その者たちが私に知らせてくれるだろうよ」





エレーナはナルメルの顔を見て、うんうんと頷く。






「……幸いなことに、今までの旅の中でまだ悪い状況になったことは一度もないがな」







ハルナは目線だけ空をみて、今までのことを思い返す。

何か思い当たる節はあるが、ここは黙っておくことにした。







「こんなところでどうだ?……まだ、納得できないか?もし余計なお世話というならば、手を引く……いや、出来ないな。是非とも納得して協力してもらいたいものなのだが」





ナルメルの手に持っているカップの中身は、すっかりぬるくなってしまっていた。

だが、胸の奥からじんわりと暖かくなっていくのを感じている。







「わかりました……その好意ありがたく頂戴いたします。そして、わたしも出来る限りのことはご協力させて頂きましょう」







その言葉に、ハルナとエレーナは顔を見合わせて喜んだ。







「その言葉、大変ありがたく思う……ご協力感謝する」










休憩は終わり、ハルナたちは再びナルメルの案内でエルフの村を目指して歩き始めた。





山を挟んで丁度、村の反対側に辿り着いた。、



ナルメルは森の奥深い場所に道なき身を迷うことなく進んで行く。







「……入り口に到着しました。ここからはこの蔦を身体に縛ってください」






ナルメルは魔法で出した蔦を各人の腰に巻くように指示した。




「エルフの村は入り口をわからなくするために、周囲を幻覚の魔法で囲っています。この蔦で引っ張っていきますのでそれに付いてきてください」







そうして、ナルメルは森の茂みの中に入っていった。









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