3-130 名前






ハルナたちは、再会を終えたノイエルとナルメルを連れて屋敷の中に戻った。


テーブルには、お茶とお菓子が並べられていた。





ほんの数週間前には、何も品物がない状態からこんな贅沢ができる程の物資が運び込まれるようになった。

これも、エフェドーラ家の力によるものが大きい。



マーホンもこれから先はギルドを通じ、エフェドーラ家が独占するのではなく他の者たちもここに来て欲しいと考えていた。

勿論、ギルド内で選別した信用のおける商店だけに。




確かに輸送費や人件費を考えると、小さな商店では利益が出ないため難しい拠点となるだろう。

マーホンはこの村が他種族との交流拠点になると判断し、その利点を生かしていきたいとも考えていた。










ノイエルは、母親の膝の上に座っていた。

ノイエル用の椅子も用意してあったのだが、母親と再会してからべったりとくっついて離れない。

ナルメルも、そのことについて叱ったり嫌がったりすることもなく膝の上でお菓子をつまむノイエルの頭を優しく撫でている。





そんな姿を見てほっこりとするエレーナとハルナに、ステイビルの発言が落ち着いた空気を変えた。








「それで、ナルメルさんはこれからどうされるのですか?我々はエルフの村に行き、この状況を説明しなければなりません。できれば、ナルメルさんに案内をお願いしたいのですが……」








「……はい、助けて頂いたステイビル王子様に従います」




「お母さん!?」







ノイエルはその言葉に青褪め驚き、振り向いて母親の顔を見上げた。






「……いいのか?村に戻れば、牢獄にとらえられる可能性が高いんだぞ!?」



「そうですよ、せっかくノイエルちゃんの傍に居られるのに!」





ナルメルの決断に、反発したのはブンデルとサナだった。

せっかく再会でき、食料の問題もこの村に居れば何の問題もない。


だから場所だけ教えて、戻ってきた方がいいというのがブンデルとサナの考えだった。





「ご心配頂き、ありがとうございます。ですが、あの村にはいろんな仲間や家族が住んでいるのです。それに規則は規則です、護らなければなりません」




「それじゃあ、私も一緒に行く!ね、いいでしょ?……ね?ね?」









ノイエルはもう、せっかく出会えた母親と離れたくないと必死に懇願する。



だが、ナルメルは自分の子供の命や将来のためには、今のあの村に残ってはいけないと考えていた。

それにナルメルはある覚悟を決めていたため、村に案内することはステイビルたちから話しを聞いていた時から決めていた。





「ノイエル……今回はお母さん、必ず帰ってくる。ほら、ハルナさんやステイビルさんもいらっしゃるし、アナタを一人にさせないって約束したじゃない。だから安心して……ね?」





ノイエルは母親の言葉に対し、一度だけ頷いてナルメルの胸に顔をうずめた。

ナルメルも、そんなノイエルを優しく抱きしめた。







「よし、それではナルメル殿に道案内をお願いする。明日用意が整い次第、エルフの村を目指すこととする……よいな?」




「「はい!」」







ステイビルの決定により、それぞれは明日の準備に取り掛かった。










日が暮れて食事も終わり、明日のためそれぞれの部屋で身体を休めていた。







――コンコン





静かな空間の中に、ノック音が響く。





「はい……」





ブンデルはドアを開けると、そこにはナルメルの姿があった。





「ナ……ナルメルさん……」




「中に入ってもいいかしら?少しお話ししたいんですけど」




「ブンデルさん、どなたですか?……あ」








部屋の奥からサナが様子を見にきて、ナルメルの姿を見て驚く。




「ど、どうぞ。中へ」






部屋数の関係上、ブンデルとサナは同じ部屋を割り当てられていた。







ブンデルは自分でお茶を淹れようとしたが、サナがブンデルに用事があるのでは?とその役目を交代した。




何故か照れながらブンデルはナルメルの前に座り、照れ隠しのような咳ばらいを一つする。










「えーと……一体何のご用でしょうか?」




「あなたにお聞きしたいことがあったので……」







サナは二人の前にお茶を置いて別な部屋に行こうとしたが、ナルメルがその行動を止めた。










「サナさん、あなたもここにいていいのよ?」



「え?でも……」



「サナ、ここにいてくれ」








ブンデルからもそう言われ、サナはブンデルの隣の椅子に座った。






「ずいぶんと前にあなたも村を出ていったんですってね?」




「え?えぇ……まぁ」







ブンデルはこの質問からして、ナルメルも村を出ていった後のことをこの場で聞きたいのだろうと推測した。







「そう……それっていつ頃のお話しなの?」






「確か……百から百五十年くらい前でしたかねぇ。はっきりとは覚えてないんですけど」





ナルメルはその言葉を聞き、記憶の中を探っている様子が見て取れた。








「ナルメルさん、それが何かあるのですか?」







気になったサナが、無言の時間に割って入っていった。







「え?えぇ……少し気になることがあって。ブンデルさん、もう少しだけお聞かせください。あなたは魔法を習得されていましたよね?」





「はい……”ログホルム”と”エルライツ”が使えますけど」






「そう……」






ナルメルはため息混じりの言葉で、返答してくれたブンデルに返事をする。

そして目を閉じて、また少しの間無言の時間が過ぎていく。


その間、蝋燭が空気の名揺らぎによる明かりの揺れが、時間が流れていることを示していた。






「ブンデルさん、最後にお聞きします……」





静寂の中に響く、ナルメルの言葉にブンデルもサナも聴覚を集中させた。







「ブンデルさん、あなたの”本当”のお名前は?」











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