3-76 自然の掟







「どうして突然襲ってきたのか?それと、どうしてソフィーネが捕まっていたのか?……話しを聞かせてもらえるか?」








ステイビルは腰をかがめ、ドワーフの目を見ながら話す。


言葉の真実を見極めるためもあるが、この状況でどちらが優位な立場であるかを示すためでもあった。






「我々の町は、この山の地下にある。そこには、町の生活に必要な水を貯めている施設もあった。先ほども話したが、突然その施設が爆発した様な現象が起きた。水は町に流れ込んでくることはなかったが、貯めていた水が全て消えてしまったのだ。周囲を捜索していたところ、個々の場所に穴が開いており、そこから吹き出したと判断していた……」






そう告げたドワーフは、ハルナが落ちてしまった穴に目線を移す。






「そして、我々がそこを通りかかったため犯人と思い襲撃した……?」



「その通りだ」






これについては、まだ言いたいことがあったがソフィーネの件についても確認した。


すると、ドワーフの町の入り口の近くで怪しい人物を見かけ補足しようとしたら抵抗されたので捕まえたとのことだった。



とはいえ、あのソフィーネを捕まえたのだから相当の実力者がいるということだろうとステイビルは判断し、今後の展開によっては注意するようにした。







「では、次にこちらの話しを聞いてもらえるか?我々がここに来た理由なのだが……」







ステイビルはこの山のふもとにある集落で起きていることを話した。

以前は豊かに湧き出ていた水が、数年前から枯れてしまい困っていること、それにより生活が苦しくなり問題が生じていることを伝えた。


東の国の王子としてこの問題を解決すべく、調査していたところ以前流れていたと思われる水脈が見つかり、水が流れなくなっている原因を探るべく、水の精霊の力を使い逆流させて問題の場所を特定しようとしたことも伝えた。





それに便乗して、ブンデルもエルフの村でも同様の問題が起きていることを話した。






「そうでしたか。下の人間の町ではそんなことが。エルフのことはどうでも……いや、我々にとっては良い気味ですが」






隊長はブンデルの顔をちらっと見て、勝ち誇ったような意地悪な笑顔を浮かべた。

ここからも、ドワーフとエルフは仲が悪いという説が正しいことが見て取れる。




だが、今は種族間の喧嘩よりも大切な問題を解決しなければならないため、ステイビルは冷静に話しを進めていく。







「そうなのだ。今までの話しを総合して考えると、お主たちドワーフが水を停めている可能性が高いと思うのだ……」






ブンデルもその意見に対して頷いていた。





そして、ドワーフは腕を組んで考え込む。

十数秒間の沈黙の後、目を開けれて自分の考えを口にした。







「恐らく、アナタの推測の通り我々が行った工事により、水脈を塞いでしまっている可能性が高いでしょう」







ステイビルはその話を聞いて、案外この問題が早く解決しそうだと内心ホッとした。

ドワーフが理解してくれたと思い、ステイビルは早速その行為を止めてもらうようにドワーフに告げた。






「そうか、判ってくれたか。であれば今すぐ、その水を解放してもらいたいのだが……」



「……残念ですが、それはできません」



「――なに?」






ステイビルは、自分の耳を疑った。







「できない……いま、そう言ったのか?」







座っていたドワーフは立ち上がり、ステイビルと対峙するよう改めて向かい合った。

その表情には、何か強い意志を感じる。






「それはできませんよ、東の国の王子」







その嫌味を含んだような言い方に少し、イラっとするステイビル。

だが感情的になって行動しては、良くない結果になるのはよくある物語の結末。

気持ちをコントロールし、少し落ち着いたことを確認して勝者の威厳を活用しつつドワーフに再び問いかける。








「できない……と?その理由を聞かせてもらっても?」



「まず、我々ドワーフもここで生活をしているのです。現在、この水を利用して生活の動力を賄っています。それに……」



「……それに?」



「我々も様々なことが起きて、この場所に来たんだ。そして、ゼロから今の生活を我々は作り上げた。今の話は、我々の今の生活を捨てろということか?ここまで作り上げたものを!!!」







目の前のドワーフは、急に声を荒げる。

しかしステイビルは、その勢いを受け流す。


さらに、その怒りには何かの”理由”があるのだとも推測した。






「だがな、その前に人が暮らしていたのだ。その水でエルフも生活をしていた。その水源を、一つの種族が占有してよいとはならないのではないか?」



「甘い……甘いよ、人間の王子。この世の中では、弱者は淘汰されていく運命なのだ。だから我々ば戦ってきた、力をつけてきた、技術を開発してきた!人間だってそうしてきたのだろう?そうやって国というものを創り上げ、一つの思想をもとに統一させた……そうじゃないのか?」





ドワーフはステイビルに、そういって敵意をむき出しに答える。

エレーナとハルナは、その言葉が悲痛な叫びに聞こえていた。






ステイビルはドワーフの目を見つめたまま、腰の鞘に仕舞った剣を再び抜く。


そしてそのまま剣の刃をドワーフの首筋に当てた。





「ならば、その自然の掟に従ってもらうとするか……」










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