3-77 お願い
「ならば、その自然の掟に従ってもらうとするか……」
ステイビルは再び抜いた剣を、そのままドワーフの後ろの首筋に当てた。
ドワーフの隊長が放り投げた武器は、すでに手に届かない場所にある。
よって、このドワーフの生殺与奪の権利は、ステイビルが握っているのだった。
「た、隊長!?」
「ま、待ってください!隊長の代わりに、こ、この私を!?」
焦りを見せる他のドワーフたちは、ステイビルになんとか隊長だけ助けてもらえるように懇願する。
だが、ステイビルはその言葉には一切反応しなかった。
隊長の危機を感じた他のドワーフは、身を乗り出して自分たちの隊長を庇おうとした。
だが、隊長は手を挙げてそれを制する。
「俺のことはいい。敗者として、無礼を働いたのだ。だが、まだドワーフの誇りまでは捨ててはいない!後のことは頼んだぞ、お前たち。ドワーフの血を絶やさぬようにな!?」
そういうとドワーフは目をつぶって、頭を下げ自ら首を差し出した。
ステイビルは剣の柄を握り直し、一度その首から剣を外してドワーフに話しかけた。
「お前を処分する前に一つ聞きたいことがあるのだが……いいか?」
「……?」
ドワーフの隊長は、目を開けて頭を上げ再びステイビルの顔を見上げる。
「一度、ドワーフの町を見てみたいのだが……可能か?」
「な、何故だ?」
隊長は少しだけ自分の寿命が延びたと感じながら、ステイビルの質問に対して質問を返す。
「いや……な。単純に、興味があるだけだ。ドワーフの技術力は高いことは有名だからな。実際にこの目で、その力がどのようなものか確かめてみたい」
「……」
ドワーフは、ステイビルの返答に困っていた。
過去にあった話しでは、自分の町に入ってくる者は”侵略者”だけだった。
多くは撃退し、侵入を防いでいた。
負けた場合は、勝者はよその町を自分たちの者のように入っていく。
そこでドワーフは”小さな”抵抗として、その町を破壊して放棄していた。
だが、人間の言うことは今までと少し異なったパターンだった。
『――ドワーフの町を見てみたい』
その言葉から推測しても、侵略や接収といった類の話ではなさそうだった。
ただ単に、この男の好奇心を満たすためだけの発言のように思えてならなかった。
周りのドワーフたちも、隊長の言動を見守っている。
ここでのドワーフ側の判断は、全てこの隊長と呼ばれるドワーフに預けられていた。
「どうだ?……一度でいい。その、見せては貰えないだろうか?」
ステイビルは再度、先ほどまで剣を突き付けていたドワーフにお願いする。
この場の照射ではなく、ただの興味を持った一人の人間として。
実は、ハルナもエレーナもドワーフの町に興味があった。
人間ではない種族が、どのような暮らしをしているのか、どんな技術を持っているのか。
ドワーフが、良い返事をしてくれることを期待していた。
隊長はそんな視線を背中に感じ、どのような返事をして良いか。
ますます、今の状況に混乱していた。
ステイビルは、そんな様子を見て背中を押そうと提案をする。
「もし、お主が一人で決められぬというのであれば、戻って他の者に確認してもらっても構わん。だから……な。聞いてもらえないか?」
ドワーフの隊長はその一言に納得し、一度戻って聴いてくるのでここで待っててほしいと言った。
そう告げると、隊長はその場を立ちあがり山の坂を上っていた。
「楽しみね!ドワーフの町ってどんなところかしらね!?」
真っ先に堪えられずに、希望を口にしたのはエレーナだった。
すでにエレーナの頭の中では、ドワーフの町を見学することが決定されていた。
「ドワーフはかなり技術力も高く、武器や防具も精巧で丈夫だと聞いている。我が国の名匠と呼ばれる鍛冶職人クラスが、そこら中にいるという話も聞いたこともあるな」
そこから、ハルナ、エレーナとステイビルは、自分が知るドワーフの情報を口にし合い希望に胸を膨らませていった。
「ステイビル様、ですがあの者が援軍を呼んでくることも考えられます。まだ、気を緩めない方が良いかと……」
「「――あ」」
ステイビルは、そのことについては考えていなかった。
ただ、町の中が見たいというだけで、そういうリスクは考えていなかった。
「……でも。もし、そうなったらまた力で説き伏せればいいだけですわ」
片足を引きずって歩いてくるソフィーネだった。
ドワーフには油断して負けたのだが、その借りを返したいという思いが強く、今の発言も冗談でも何でもなかった。
「そ、そうだな。そうなれば、交渉は決裂……そうだ決裂となるのだ!」
何とか、取り繕うとするステイビルを余所に、先ほどとは違うドワーフが姿を見せた。
「――!!」
アルベルトは警戒し、エレーナたちの横に付いた。
「先程の方は、どうされましたか?」
アルベルトは警戒しつつ、新しく現れたドワーフに質問した。
そこから、数秒程の無音の時間が過ぎた。
その無音がさらに、この場の空気が緊張で張り詰めていく。
「……我が町に入る許可が下りた。私が案内させてもらおう、着いてきてください」
ハルナは、自分の呼吸が止まっていたことに気付き、胸の中に溜まっていた息を吐いた。
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