3-66 ギルド




男は、縛られ身動きが取れなくなっていた。

念のため目隠しと口をふさぎ、舌を噛み切らない様にした。





そのまま、離れた場所に連行し”事情”を聞くことにした。






「モガモガ……ぷはぁっ!?」






口が自由になり、男は急に命乞いを始めた。






「た、助けて下さい!!どうか、お願いします!!!」







必死になって命乞いを懇願する、姿を見てエレーナは呆れながら返した。







「何も、命まで取るつもりはないわよ。ただ、こちらからの質問に正直に答えてさえくれれば……」



「ち、違う。そいうことじゃないんだ!!知られたら……いや、今は詳しいことは言えないが殺されてしまうんだよ!!」



「――?……わかった、できる限りのことはしよう。だから、お前も我々の質問に正直に答えるんだ」






ステイビルは、男を落ち着かせるように語り掛け、交渉に持ち込もうとする。








「アンタたちも、強いのは分かった。だがな、”アイツ”らはもっと強い。だから、安心できる場所まで俺を連れて行ってくれ!でなければ答えないぞ!?頼む……いや、お願いします!!」




「わかった、善処しよう。移動させる前に一つだけ教えてくれ、あの”穴の開いた金貨”は何なのだ?」







男は一度話しかけた言葉を飲み込んだが、ここから助かる道はステイビルたちに託すしかないと腹を決めた。






「あ、あれはな。ギルドに所属している者の証だ。だが、お互いは知ることがない。迂闊に関係のないものに見せたとしたら、消されてしまうからな」




「ギルド……だと?聞いたことがないぞ?どこの町のギルドだというのだ?」





「ギルドとは言っても、正式に認められたギルドじゃないんだ。ある目的を持った仲間が集まった集団……俺たちの仲間の一部は”闇のギルド”、勝手にそう呼んでいる」





「ある目的だと?それは一体どういう目的なんだ?」





「……なぁ、もういいだろ!?早く安全な場所に移動させてくれよ!!無事について安全だとわかったら、俺の知っていることを何でも話してやる!だから、もう移動させてくれぇ!!!」






「わかった。だが、我々もここから引き返すことはできん。一度モレドーネに護送を依頼し、そこから……」






「い、今からモレドーネに要請だって?あそこまで馬でも何日かかると思ってんだ!?なぁ、アンタたち強いんだからさぁ、アンタたちが連れてってくれよ!?」






そんなことはできるはずもなかった。

さらにこの男は、ステイビルが王子であることは判っていない様子だった。


情報は聞き出したいが、王選の当初の目的として一刻も早くグラキース山に向かいたい。



そこでステイビルは、もう一度男に話してもらえないか交渉に挑んだ。






「我々も用事があり、この先を急いでいる。だが、お前が感じている脅威がどれくらいのモノかもわからぬ。さらにどのくらい重要な情報を持っている者なのかもな。そんな状況で、人員を割くことはできない。通常通りの対応となってしまうが……何か、言いたいことはあるか?」




「くっ……!?」




男は焦りをみせる。

自分を助けるにしても、重要人物ではないと保護できないと言っているのがわかった。


話したとしてもその内容によっては、助けてもらえない可能性が十分ある。






様々な思いを巡らせ、なんとか助けてもらうための方法を探る。

しかも時間を掛ければかける程、その発言は嘘のようにとらえられてしまうだろう。



男は、生まれて初めて決断をする。

真実を話すことを――



生まれてこの方、全てを正直に話したことはない。

全ての内容にどこか嘘や空想を混ぜ、話しを作っていた。


今まではそれでよかったし、それによって不利益を得たことはないと自分では思っていた。




だが、ここで初めて飾らずにすべてを話そうと決意した。

自分の身に、危険が迫っているのだから。



”嘘を言ってもこの者たちには通用しない”と、今までの経験から肌で感じている。





(命が助かるにはこれしかない!)






「もう一度聞こう、そのギルドの目的とはなんだ?」







男は決断し、ゆっくりと息を吸い込んだ。

そして、肺に溜まった空気が声に変わろうとした瞬間、男は喉に違和感を感じ咳こんだ。



咳も収まりかけた頃、男はステイビルたちを見る。

自分を見るその顔は、悲痛な表情をしていた。






(――どうしたんですか?)




その言葉は、男の頭の中でしか響かなかった。


実際には、空気が抜ける”ヒューヒュー”とした音しかなっていない。







(あれ?声が出ない)





下に俯くと、腹部に血が流れているのが見える。




男の喉には、穴が開いていた。

それにより声帯が潰れ、声がでなくなっていた。








「危ないわね、おしゃべりな男は嫌われるのよ?」





ステイビルは、声の方を向く。

そこには今までいなかった女性が一人、簡単な防具を身に付けた姿で立っている。


その手には、先の尖った鞭を手にしておりその直径は、丁度男の喉に開いた穴と同じ大きさだった。




一同は凍り付く、今までいなかった場所に現れた女性はどうやってこの中に入ってきたのか。

それに、男の喉を鞭で声帯だけ潰すということを誰にも気付かれずにやってのけていた。






「だ、誰だ。お前は?」




ステイビルは、驚きの中ようやく言葉を発した。






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