3-63 誘拐
「今までのこの村に起きている異変の正体は、アンタたちか!?」
ポッドは手にした剣を構え、今まで信用していた男に裏切られた怒りを向ける。
「おっと、困りますよ。暴力で訴えられても……とはいえ、私たちも相当準備してきてますけどね?」
ゴルディックは、手を挙げて後方で隠れて待機している武装兵に合図を送った。
しかし、数秒待っても何の反応も見せない。
「……おい、どうした!早く出てこい!!」
ゴルディックは、声を荒げて隠れさせていた傭兵たちに姿を見せるように命令する。
所詮金で雇った荒くれ者、しかも村人たちの格下相手に余裕を見せているのだろうと思っていた。
「しー……お静かに、今眠りについたところですわ」
ソフィーネが口に人差し指を当てて、ゴルディックに向かって話しかける。
その後ろには、気を失っている鎧の男を引きずりながら姿を見せた。
ゴルディックの見間違いでなければ、その男は荒くれ者を寄せ集めた傭兵を束ねるリーダー的存在の男だった。
「――!?」
驚きのあまり、先ほどまで強気に出ていた男は声を失う。
知り合いの商人に引き渡せば高値が付きそうな女性が、武力面で信頼していた男を平気で引きずっているのだから。
しかし、ゴルディックは気を取り直した。
「こういう、いざという時のためにオレは準備は欠かさないのさ!」
ゴルディックは、パチンと指を鳴らした。
しかし、このタイミングでも何も起こらなかった。
またも、ゴルディックは言葉を失ってしまう。
側面から、弦の切れた弓を持ったもまま人が飛び出す。
その後ろからは、アルベルトがゆっくりと茂みをかき分けて姿を見せた。
「こういうやつらは大抵芸も考えもなく、同じ手を使うものなんだな……すぐに見つけることができたよ」
手の汚れを叩き払いながら、ゴルディックの顔を見ることなく話しかける。
「どうする、まだ何か残してあるのか?いいぞ、出してみても」
アルベルトは、挑発しながら歩を進めて近づいて行く。
ゴルディックは、後ずさりしながらいろいろと頭の中で考えを巡らせている様子が伺える。
しかし、どう見ても目の前の二人には敵いそうにはない。
(最悪、自分だけが助かればいい……)
ゴルディックは、そう結論付けた。
「おい、お前たち。一斉にこの二人を倒せ。出来たら報酬を二倍……いや、三倍にしてやる!」
後ろに残った、荷物を運んでいた男たちに命令する。
だが、その男たちの反応は鈍い。
「し、しかし……リーダーが簡単に遣られたやつらに、我々がかなうはずがないだろぉ!?」
「うるさい!!これは命令だ!!さっさといけ!!!」
しぶしぶ、男たちは腰に下げたダガーを抜いてゴルディックの前に並ぶ。
しかし、明らかに戦い慣れしていないそのフォームを前に、アルベルトは剣を抜くことすらしなかった。
男たちは両手でダガーを構え、じりじりと距離を縮めていく。
男が一人、しびれを切らしてステイビルに飛び掛かった。
ほんの一秒前にいたターゲットの姿は、既にそこはなかった。
男のダガーは、むなしく空を切り裂く。
勢い余った男は、よろけて体制を崩す。
――ドン!!
その背中に、強い衝撃が走る。
男は胸腹部を地面に叩きつけられた衝撃と、背中を襲う痛みで呼吸が止まりそのまま気を失った。
その速さを見て、残りの男たちは唖然とした。
しかも振り返ると、既にゴルディックの姿は見えない。
「う……うわぁああぁぁあ!!!」
一人の男がダガーを投げ捨て、後ろに向かって走り出した。
それを見た他の男たちも、同様に武器と荷物(ゴミ)を置いて走り去っていった。
「有難うございました、まさかあの商人が全ての元凶だったとは……」
ポッドは信じられない気持ちと目の前で起きた事実が頭の中で入り乱れ、まだ状況の整理が出来ていなかった。
しかし、最悪な状況であることは理解できていた。
「これは推測だが、他の商人たちの出入りを指せなくしたのもあの者たちかもしれんな……」
ステイビルの推測に、反論する者はいなかった。
「それでは、残って頂いた方々に聞いてみましょうか?」
ソフィーネがステイビルに確認する。
「あぁ、頼む。それとなるべく、人目の付かぬところで……な?」
ソフィーネはステイビルのその言葉の意味を汲み取り、笑顔で了承した。
集落の離れた場所の空き家に連れ込まれて、尋問が開始された。
結果、大したことは聞き出すことは出来なかんった。
「どこからかの依頼で今回この集落が狙われていたようです」
「それは、王選に関することなのか?」
今回グラキース山に向かう途中で立ち寄った集落で、この問題が発生したのは偶然なのか?
ステイビルは状況から推測するが、その依頼者が何者なのか。
結局それを確認しなければ先に進まないと、この問題は一旦は保留にした。
そして、その夜。
静かになった集落に、再び騒動が起こった。
「ステイビル様!ステイビル様!大変です!」
ブルペラの屋敷で泊まっているステイビルのドアを、カイヤムが力強く叩いて起こした。
その音に、近くの部屋を借りていたハルナたちも目を覚ます。
「どうしたのだ、カイヤム。何が起こった?」
「はい……いまポッドの者から連絡があり、夜間に集落への侵入者が。そして、警備の者を負傷させ……」
カイヤムは途中で声を詰まらせた……
「ポッドの娘……チュリ―がさらわれました!」
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