3-62 村の定期便





チュリ―はすっかり、ハルナたちに懐いていた。

ポッドが言うには、朝早くからハルナたちのところへ連れて行けとせがまれるという。




しかし、ハルナたちも水脈やグラキース山の調査などあるため暇ではなかった。

そのため、ハルナ、エレーナ、マーホンとソフィーネがローテーションを組みチュリ―の相手をすることになった。







「申し訳ありません、ステイビル様。うちの娘がご迷惑を……」



「いやなに、構わんさ。ハルナたちも、ああ見えて、結構楽しんでいるからな」





実はステイビルも時々時間を作り、一緒になって遊んでいるのだった。







「そういっていただけると、助かります。水の件にしても、お世話になってばかりで……」




「こちらも、貴重な食料を分けてもらっているのだ。それよりも、食料は大丈夫なのか?」







ステイビルは、この集落の食糧事情が気になっていた。


水が枯渇してしまった状態で農産物の収穫がなく、山からの収穫も同じように少なくなってしまっていると聞いた。

そんな状況の中、食料を分けもらい問題があるのではないかと心配した。





「それに関しては、大丈夫です。もう少しで商人がやってくる時期になりますので、そこで調達をします」




ステイビルはその話を聞いて、違和感を感じた。

水が出なくなって、ほとんどの商人がこの集落に来ることを止めているのに、その商人は来てくれているようだった。

その商人は水が出なくなる少し前から、この集落にやってくるようになったとのこと。





他の商人たちは早々に手を切ったのだが、その商人は今までと同じように同じ価格で取引をしてくれるという。






(……ふむ。何かあるな)





ステイビルはまだ十分な情報がそろっていないため口にこそ出さなかったが、嫌な予感をぬぐい切れなかった。

その商人が来たときは連絡してほしいとお願いをして、ステイビルはポッドと別れた。







「……アルベルト、エレーナ。後でいいから、手が空いたら皆を集めてちょっと来てくれ」



「あ、はい。了解しました」





四つん這いになり、背中にチュリ―を乗せたままアルベルトは返事をする。

近くにいるエレーナも、同じく返事をした。











その夜、ステイビルの呼びかけによって集まった。

そして、昼間に聞いたポッドの商人の嫌な予感を話して聞かせた。





「……確かに、疑わしいところもありますね」



アルベルトがその話を聞いて感想を述べるが、同じく情報が少ないためアルベルトの中でも注意レベルで収まっていた。



「私も家を出た後のことなので、詳しくは存じ上げません」



「マーホンはその商人を見て、何か知っていることがあったら教えてほしい。アルベルトとソフィーナはその商人が来たら周囲を警戒してくれ」



「「はい!」」








そして、その時は比較的早くやってきた。




その一行は、集落の入り口に集まってくる。





「やぁやぁ、ポッドさん。お元気でしたか?」




ニコニコと細長い垂れ目の商人は、親しげにポッドへ話しかける。





「ご無沙汰しております、”ゴルディック”さん。いつも、こんな遠い場所まで有難うございます」




「いやぁなに、構いませんよ。我々も商売ですし、人助けも兼ねておりますので……」





ゴルディックは、いまにも笑いそうな声を押し殺し、無理やり笑顔を作った。






集落の人が集まり、商人の周りを囲む。

速く今回の商品を見たいと、そわそわとしていた。





「それじゃあ、今回の持ってきた商品はこちらです!」





ゴルディックの後ろに並んだ男たちが、背負っていた袋を地面に置きその結びを解いた。







「え?」




その商品を見て一同は驚く。



あまりにも粗末なもの……それどころか、腐りかけているものまで置いてあった。





「ゴルディックさん……こ、これは?」




「いやぁ今回はね、これしかないんですよ。町の方は今でも品不足が続いていましてね、これでもなかなか手に入りにくい物ばかりなんですよ?……ささ、遠慮なく手に取ってお買い上げください!」





「しかも、この値段……いつもの倍以上じゃないですか!?」





「……ポッドさん。うちらもようやく苦労して手に入れた品物なんですよ。言ったでしょ?町じゃ品不足だ……ってね」





ゴルディックがポッドにそう告げると、後ろの男たちもニヤニヤと馬鹿にするように笑顔を向ける。






ポッドは、数日前のステイビルが商人のことについて聞いていたことを思い出した。

決して、その時の表情は安心した表情ではなかった。



が、ようやくその意味が理解できた。







「まさか……あんたたち……ワザと」



「……ポッドさん?失礼なこと言っちゃ困りますよ?私たちは、アンタたちのためにここまで運んでるんですからね。他の人たちが”来ない”ところまで、わざわざ……ね」








ポッドは商人が持ってくる品物が徐々に少なくなっていることを思い出した。

値段はそのままだったが、町での供給不足が理由と言っていたがそれが嘘だと気付いた。



商品を少なくし、生活を徐々に苦しめていたのだった。




そして最終的には、どんな品物でどんな価格であっても、買わないと生きていけないようにしてしまっていたのだ。







「そうだ……こういうのはどうだい。一人”若い娘”を貸してくれませんかね、そうすれば引き換えに特急便で荷物を送ってあげますよ?」






「な!?それは、関係ないだろう?」




「うちの取引先でね、ここの地域の特徴的な肌のきめ細かな女性を好む方がいらっしゃいましてね?なかなか”納品”できなくって困っているんですよ?」




「くそっ!!……人さらいの正体は!?」





「おっと、困りますよ。暴力で訴えられても……とはいえ、私たちも相当準備してきてますけどね?」







ゴルディックは、手を挙げて後方で隠れて待機している武装兵に合図を送った。











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