3-58 旧友




「何か想像していたものと違うわよ……ね?」





エレーナがその景色を見て、素直な感想を告げる。




「そうですね。確かこの時期ですと寒くなる季節とはいえ、山の土までは枯れることもなく、山には落ち葉がきれいな景色が広がっているはずだと思います」





マーホンは、エレーナの言葉に対して自信が知っているこの時期の山と気象の知識に基づいて返答した。


この時期の山は気温差が昼夜の気温差が激しく、木々の葉が紅く変色していく現象がみられるはずだった。

そうなったとしても、木の状態は今まで蓄えてきた水分などでしっかりしている。

がしかし、見渡す木々は日照りなどで随分と長い間、水にさらされておらず、それにより枯れている状態に見えた。










馬車は、人気の少ない村の中を進んで行く。

全体的なイメージとして、”乾燥”が良く当てはまる景観だった。



草は枯れ土は湿気がなく砂埃が舞い、畑も枯れて水気のない集落だった。








――ガタン!




衝撃と共に、馬が驚いて嘶く声が響き渡る。

ゆっくりと村の中の道を進んでいた馬車は、何者かに停められたように急に停車した。




「な、何なの?どうしたの、アルベルト!?」






馬車の前方の窓から、エレーナはアルベルトに声を掛けた。

アルベルトはエレーナの声に返答せず、その視線の先に、馬の前に立つ一人の人物に視線を集中させていた。






「おい、あんたたち。大層な馬車に乗ってやがるな、こんな場所まで何しに来た?」





斧を手にした男と木の枝で作った槍を持った男が二人、馬車の前に立ちはだかりアルベルトに向かって声を掛けた。







「私たちは、旅の途中でこの集落に立ち寄ったのです。あなた方を攻撃する意思はありません、武器を収めて頂きたい」







その言葉を聞いたリーダー格の男は、疑りながらアルベルトの言葉に返す。






「……旅の途中だと?ここには宿泊する場所も、物資を供給する商店もない!そんなところに、来るやつは大抵強盗か人さらいだ!!痛い目に合わないうちに、さっさと立ち去れ!」







その言葉をきっかけに、馬車は四方を囲まれた。

槍、棍棒、弓、それらは全て手製の武器で、それ以外は斧や鎌など農工具と併用と思われる錆び朽ちた武器ばかりだった。







「おい、ポッド……やめてくれ、頼む」




主犯格の男に声を掛けたのは、後ろの馬車に並ぶカイヤムだった。





「誰だ……お前。……まさか、カイヤムか?」





そう告げると、馬車を囲っていた者たちは狙い定めていた武器を下げた。






カイヤムは馬車を降り、ポッドと呼んだ男の傍に寄っていく。





「そうだ……カイヤムだ。いま着いたところだ。周りの者たちも、武器を収めて欲しい、私たちは怪しいものではない!」





そういうとポッドは、手を挙げて周りに合図し警戒を解いた。






「カイヤム……いつもと帰りが違うな?と言っても、お前の馬車ではなさそうだが?」




「あぁ、いろいろと事情があってね。とにかく怪しい方々ではないことは私が保証しよう。だから、道を開けてくれないか?」







ポッドは顎に手をやり、髭を触る動作で考え事をする。


そして、顎から手を離し周りに声を掛けた。





「よし、この場は問題ない。警戒は解除だ、”風”の者たちもご苦労だった。……今日の見張り役の当番は、そのまま継続して任務に就いてくれ!」





その号令と共に、男たちは自分の家や持ち場に散っていった。





「また、一層警戒するようになったんだな。何かあったのか?」




「あぁ。山から下りてくる獣や旅人と称した人さらいとかここ数年立て続けに起きているからな……うちの娘も狙われた。無事だったが、それ以来外に出て遊ばなくなったよ」






「そうか……こんな辺鄙な場所まで狙われるのだな」






「あぁ。それより、早く行け。家に戻るんだろ?気軽に話しているところを見られたら、うるさいからな」




「すまんな、また後で今回の薬草と調味料を持っていこう」





ポッドは、後ろ向きに手を挙げてカイヤムの言葉に応えた。







「申し訳ございません、アルベルト様。もう大丈夫です、これから私の家にご案内します。先を走って誘導しますので、後ろをついてきてください」






後ろにいたカイヤムたちの乗る馬車は前に行き、アルベルトはその後ろをついて馬車を走らせた。






道なりに走っていくと、その景色は当初ハルナたちが想像していたものと全く異なり、”何の問題が起きてこんな状態になってしまったのか”という方が心配になってきた。






そして点在していた家の間隔が離れてきたころ、目的地と思われる建物が見えてきた。

そこは遠くから見えていた、煙突の煙が上がっている家だった。


この辺りでは、集落に入った辺りに見えたもう一軒と同じくらい大きな構えをした家だった。






カイヤムは馬車を停め、後ろを付いてきたアルベルトの馬車に停車する場所を誘導した。





「それでは、うちにご案内します。どうぞ中へ」






カイヤムは家に向かって歩いて行き、後ろにステイビルたちがついてくるのを確認しながら進んでいく。



そして動きの悪い扉を開き、擦れる音が辺りに鳴り響く。








「……イヤム、カイヤムなのか?」




年老いた男性の声が、久しぶりに戻ってきた息子の名前を呼ぶ。





「はい、只今戻りました。お父様……」







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