3-56 新たな同行者








「おはよう、ハルナ。昨日はよく眠れた?」




エレーナは昨夜、アルベルトとテントの中で過ごしていた。

途中で目が覚めたアルベルトから、ハルナから聞いていた話しをもう一度聞かせてもらった。



そこから、とにかく二人とも一晩中緊張感の中を過ごしていたことが理解できた。



その話しを聞いてエレーナは夜中ハルナのことが心配になり、何度も馬車の中のハルナの様子を見に足を運んでいた。





「もうぐっすり寝たわよ。ちょっと体のアチコチが痛いけど乗り慣れていない馬に乗せてもらったからかしらね」






そういうとハルナは、昨日までアルベルトと一緒に行動を共にしていた馬に水を汲んで運んでいく。

馬もハルナに顔を摺り寄せて、お互いの無事を喜んでいる様子だった。




「エレーナ……調子はどうだ?」




ステイビルが、二人の姿を確認して後ろから声を掛けた。






「あ、ステイビル様。おはようございます、おかげさまで、すっかり良くなりました!」



「そうか、良かった。初めはあまり無理をせぬようにな。それと既に話しを聞いていると思うが、今回ハルナとアルベルトがよくやってくれた……」





聞き捨てならぬと言わんばかりに、馬が一つ嘶いた。






「おぉ、そうであったな。この名馬もよくやってくれたのだ。礼を言ってあげてくれ」



「あの……私も頑張ったのですが……」






眼鏡をかけた髭面の男が、話しに割り込んできた。






「ど、どなた様でしょう……」







初めて見る顔にエレーナは、警戒した。

まさか、自分が目を覚まさない間に何かされたのでは!?と疑った。





ステイビルはエレーナの目つきがおかしなことに気付き、エレーナに紹介する。







「この男は、薬草師さんだ。エレーナが意識を無くしてから、高熱を薬草でエレーナの様子をずっと見てくれていたのだ。この方にもお礼を言ってくれ」




「あ。そ、そうでしたか……失礼しました。有難うございました……あの」




「ん?どうした、エレーナ」




「あ、はい。この方のお名前をお伺いしておりませんでしたので……」




ステイビルと薬草師の男は、ハッとした顔でお互い顔を見合わせる。






「そういえば、聞いておらぬな……名前」



「そういえば、名乗っておりませんでしたな」



「え?」




「ゴホン……失礼いたしました。私、”カイヤム”と申しまして、この先にある小さな集落で生まれました。今は、方々を歩いてお困りの方や定期的に薬草が必要な方にお届けしつつ旅をしながら生活をしております」




「カイヤムさんですね、ありがとうございました」



「カイヤムと申したのか、迷惑をかけてすまなかったな」



「いえ、これも商売のうちの一つです。ただ、今回に限っては、私の薬草が必要であったのかどうかは定かではありませんが……」



「いや、それでも様々な対処方法がひつようだったのだ。いまでこそ闇の力が原因とわかったが、その間エレーナに尽くしてくれたことに関してはそれなりの支払いをしなければなるまい」



「実は、そのことなのですが……」




「……どうした?」




ステイビルは、法外な金額が請求されはしないかと心配していた。

いざとなればマーホンがいる、価格交渉や適正価格については任せて欲しいと言われていたので安心はしている。

ステイビルはいろいろと頭を巡らせながら、カイヤムからの次の言葉を待った。





「今回、使った薬草のお金だけで結構です。この先に進まれるのであれば、私も一緒に連れて行ってもらえませんでしょうか?」




ステイビルは、想像以下の頼まれごとであったことにホッとする。

だが、旅の用意はこの人数分しか用意していない。




「マーホン!ちょっと来てくれ」




ステイビルは、別な用事を行っていたマーホンを呼ぶ。

すっかりマーホンもこの旅の一員となっていた。



マーホンは、ソフィーネにやりかけた用事をお願いしこちらに向かってくる。




「お呼びでしょうか、ステイビル様」



「あと何日分の食料が残っている?」






マーホンは腕を組み、この状況を察して言葉を返した。






「そうですね、あと三日といったところでしょうか。本来はその先にある集落に向かうために計算して積んでおりましたが、今回ここで足止めしたために一日足りない計算となっております」






エレーナは、自分の責任で……と申し訳なくおもったが、マーホンの目配せによってその見積もりが嘘であることが分かった。







「……だそうだ。すまないが、我々もそんなに余裕がない」



「それならば、私は自分のものを用意しておりますし、お分けすることも出来ます!」



「……う、うむ。ワカッタ。一つ聞いていいか?なぜ、私たちに同行したい?」



「はい、私も早く戻りたいのです。近年、集落で問題が起きておりますので、早くその様子を見に行きたいのです」



「問題……だと?」



「以前は緑が豊かな集落でしたが、ここ近年は荒れ地が広がりつつあるのです。しかも、その原因は……」



「分からない……と?」




カイヤムはステイビルの言葉に、目を見て頷く。



ステイビルは、マーホンやハルナ、エレーナの顔をみる。

その視線に、”ステイビル様がお決めになってください”と三人の顔にそう書いてあった。





「わ……わかった。ただ、人手が足りないからな。一緒に働いてもらうぞ?」






そういうと、男は地面に土下座をしてステイビルにお礼を告げた。









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