3-39 池の探索







翌日、ハルナたちは池の周りに集まった。

大竜神”モイス”の居場所を探るため、この水がいったいどこから流れてきているのかを調べる必要があった。





前々日の騒ぎを感じさせない程、池の水面は時折吹く風で穏やかな水紋が広がっていた。

水をのぞき込むと、底がはっきりと見えるくらいの透明度の高い水が湧き出ていた。







「さて、これからどうするか」



「池の中を潜って調べてみますか?」






アルベルトが、いざとなったら自分が潜るつもりで提案した。



だが、これだけきれいな水でこの町の家庭でも使用している水。

迂闊に入ってしまっても良いものなのかと、ステイビルは疑問を感じた。。






「……ノーラン。ここでこの池の中に入るものはいるのか?」



「いえ、一応ここは生活で使用する水でもあります。この中に入って泳いだりするものはおりません」





”やはりか……”とステイビルは唸った。

王選のためとはいえ、普段の生活で使用している水を汚すことは許されないと感じたからだ。





「となると、どこから水が出ているか調べるのは難しいな……ところで、ハルナ。なぜお前たちはそんなに近くにいるのだ?」







ステイビルがそう指摘するのは、間違いではない。




先程から、皆の視線がハルナの方へちらちらと向けられていた。

ハルナの横には、マーホンとそれに対抗してノーランがハルナの横にピッタリと付き添っていた。





「いえ、私もよくわかりません。マーホンさん、ノーランさん。少し離れましょ……ね?」






そういわれて、マーホンもノーランも少しだけハルナから距離を置いた。

だが、二人の目は突き刺さるようにお互いをけん制し合っていた。



今朝からそんな様子に、ハルナも困ってしまっていたのだった。






「ハルナ……モテモテじゃないの!」



「ちょっと、エレーナ。何笑ってんのよ!?」






確か夜遅くまでソフィーネと三人で話した時、ノーランはアルベルトのことを気に入っていたはずだった。


何故だか今は、ノーランはハルナの傍を離れようとはしなかった。

その理由は、何となくわかっていた。



ノーランは、明らかにマーホンに対抗していた。

何故マーホンに対抗しているかはわからないが、一族間の確執のようなものがそうさせているのだろうとハルナは自分を納得させた。




「エレーナ!それにハルナ様も、今はお戯れになられている場合ではございません。……マーホンさん、ノーランさん。少しの間、ハルナ様からお離れ下さい」




ハルナたちは普段注意されないアルベルトから怒られ、おとなしくその言葉に従った。






「やれやれ……それで、誰か何かいい案がある者はいないのか?」




ステイビルは、呆れた顔をして見回した。





「あ……」





ハルナが一つ声をあげた。






「どうしたハルナ?何かいい案でも?」



「いい案かどうかは判りませんが、フーちゃんにお願いしたらどうかと思って」





フウカは自分が呼ばれたのだと思って、その姿を見せる。






「それは……その、できるのか?」





ステイビルは、自分のことではないため期待はしたいがうまく判断がつかず自身なくハルナに確認する。





「ねぇ、フーちゃん。この池の水がどこから流れているか調べたいんだけど……調べに行けるかなぁ」




「アタシは精霊だから水の中でもハル姉たちみたいに息をしなくても平気だけど、水の気の流れまではわからないよ……」



「それじゃ、水の精霊だとわかるってこと?」







フウカはその質問に対し、ウンウンと頷いて見せた。




この場の視線が一斉に、エレーナに集まった。








「ヴィーネ、いるんでしょ?出てらっしゃい」







エレーナは、自分の契約精霊の名前を呼んだ。







「……はーい」




明らかに嫌々な感じで、エレーナの精霊はその場に姿を見せた。







「なんで、嫌々なの?同じ水だしずっと潜っていられるんでしょ?」







エレーナは少し子供を叱るように、ヴィーネに話しかける。






「た……確かにそうだけど……嫌なんだよ。この先に”怖い”のがいるんだもん……」




「怖い……何が?」



「それは判らないけど……できれば近寄りたくないなぁ」



「ちょっと見てきなさい。危なくなったら戻ってきていいから」



「えー!やだよぉ。怖いよぉ」







維持でも拒否をするヴィーネに、ステイビルが話しかけた。








「エレーナの契約精霊、ヴィーネ様。どうか、我々のためにあなたの力をお貸しいただけないだろうか?」







ヴィーネはあまり知らないステイビルに話しかけられ、困惑している。

その上、やりたくないことを頼まれたのだ。


よく知っているエレーナなら、我が儘を言ってしまうところだが、ここは何とか断りたい理由を必死になって探す。






「なら、フーちゃんも一緒に行くから……ね。どう?」



「えー……」



「あたしも行くよ!」



「……」




「精霊様、どうか。お願いを聞き届けて頂けませんか?このマーホン、出来ることならなんでも致します」








ヴィーネは最後のマーホンの頼みに、心が動く。






「ほら、こんなに期待されているのよ。ここで、やらなかったら男が廃るわよ」







止めを刺したのは、契約主のエレーナだった。







「わかった、わかったよ!僕が、やるしかないんでしょ!?……行くけど、危なくなったらすぐ逃げるからね!?」






「もう……かっこ良いんだか、悪いんだか。頼りにしてるからね!?」







そういって、エレーナは自分の精霊に発破をかけた。









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