3-35 夜の散策
「……そうなのか。ここは、そういう役目があったのだな」
ハルナたちがいる部屋にノーランとマーホンが合流し、今回の主要な人物が全員集まった。
「マーホンさんが聴いた詩は、ヴェーランさんのお母様が作った歌の詩だったのね」
「はい。その様でした、ハルナ様。勘違い、大変失礼しました……」
「いいじゃないの。そのおかげで、この地から大竜神様の手がかりも掴めたんだしね」
「もしかして、こうやってすべての神々の加護はこのように探していかなければならないのでしょうか」
「アルベルト、それはいま心配しても仕方がないな。まずは、一つ一つたどっていこうではないか。例え途中で引き返し、やり直すことになったとしても。それしか今の我々には方法がないのだからな」
「やり直せるのなら……いいんですけどね」
「そ、ソフィーネさん。お願いですから、そんな不吉なことを言わないでくださいよ!?」
ソフィーネはハルナの言葉に「ふふふ」と笑いながら、冷めてしまったお茶を交換するためにその場を立った。
「とにかく、明日は一度その池に案内してくれないか?水脈といっても、地面の下まで探ることはできないし潜ることも出来ないだろうからな」
マーホンとノーランはステイビルの言葉に頷き、その場所まで案内することを約束した。
「それでは、今日はこの話はここまでにしよう。……なんだか、エレーナが酒を飲みたそうにソワソワしているのようでな」
「エレン……」
「ちょっと、何言ってるんですか!?……アルもそんな目で人をみないでよ!!」
一同に笑いが巻き起こり、そこから酒盛りが始まる。
そして、そこから宴が一段落したころ。
「ハルナ様、少し夜の風にあ当たりませんか?」
「えぇ、いきましょうか!」
ソフィーネも、にっこりとハルナを見つめ承諾する。
エレーナは二人の仲の良い姿を見て、手を振って送り出した。
二人は、静かな夜の街の中をならんで歩く。
城下町や大きな町と違って夜の明かりは少なく、この世界にもある星と月の明かりだけが唯一の足元を照らす明かりだった。
しかも、町の明かりが無いため夜空がとてもはっきりと見える。
ハルナの住んでいた世界では、見られなかった景色だ。
「あの……ハルナ様?」
「は、はい!?」
今まで静かに歩いていたため、急に話しかけられ驚いてしまった。
「今回は、いろいろと申し訳ございませんでした。私の迂闊な発言からこんなことになってしまい……」
「何を言ってるんですか、おかげでここまでこれたのですよ。それに、施設にしたってあの男……から、変わってもらえましたし」
前を歩いていたハルナは振り返り、すぐ後ろにいたマーホンと向き合う。
「それに、この王選が始まってハイレインさんのところから随分と助けていただきました。見ず知らずの私たちを、迎え入れてくれるように話してくれたのはマーホンさんなんでしょ?」
いろんな貴族の出身の従者がいる中、プライドとハイレインへの忠誠度の高さからハルナたちは毛嫌いされていた。
そんな中、自分の影響力で助けてくれたのがマーホンだった。
その恩は、ハルナとしても忘れることが出来なかった。
「そんな風に……思って頂いて……私、嬉しいです……」
普段は力強い存在のマーホンが、おしとやかに恥ずかしそうに下に俯いている。
いつもと違うマーホンの雰囲気に、ハルナは少しドキドキしている。
(ちょっ……わたし、そんな趣味ないんだけど!!)
ハルナは一瞬、情に流されそうになった自分にブレーキを掛けた。
そんなハルナの心の中を余所に、マーホンが声を掛けた。
「あら、例の池まで来てしまいましたね。ここが、あの池です」
ハルナは助かったと思い、急いで池の淵まで寄った。
「へー。これが……なんだか普通の池じゃないの」
「この町の水は、全てここから供給されています。家も、田畑もすべて。ここに住んでいる以上、無くてはならないものですわ」
「へー……じゃあ。ここに毒でも流せば、この町は全滅って言うことになるね」
「――誰!?」
この場にいる二人以外の声が、どこからか聞こえてきた。
その内容はとても、常識ある人間にはできそうにない恐ろしい内容だった。
「あら。あなたどこかで見たことあるわね……」
「え?私、アナタなんて知りませんけど?」
話しかけらたハルナは、その少女に対して応える。
「あー、そうかもね。この姿じゃ”はじめまして”かな?。モイスティアでは、散々遊んでくれたわね」
「モイスティア?」
「まだわからないの?あ、そうそう。カルローナとアイリスは元気?」
「ま……まさか」
「やっと気付いてくれたみたいね。あんたと契約しているラファエルにやられた、ヴェスティーユだよ!」
「まったく、鈍い人ね。なんであんたみたいな人を母様は気にされているのか……」
「あなたはヴァスティーユ!?」
「こんな夜に二人で歩いてるなんて、デキてるのかしら?」
「なら、その娘……殺しちゃったらこの娘にダメージが与えられるかしらね?」
ヴェスティーユは、目の奥深くで気味の悪い輝きを見せながら唇を舌で濡らした。
マーホンは、必死に未知なる恐怖を抑え込んでいる。
しかも、自分が狙われることになりそうな予感もしていた。
(は……ハルナさま)
声にならない声で、マーホンはハルナのことを呼んだ。
「そんなこと……そんなこと、させないわ!!!」
ハルナは二人の周囲に見えない弾を作り、相手の出方を待った。
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