3-36 私一人で
「そんなこと、させないわ!」
ハルナは見えない空気の塊の球を無数に出現させ警戒する。
マーホンを自分の後ろに下げて、フウカ呼び出しマーホンを守らせた。
「あらあら、その子。消したはずなのに復活してるじゃない?ラファエルって奴はなんでもアリなの!?」
そんな言葉に揺さぶられず、ハルナは相手の一挙一動を見逃さないように気を配る。
ここには、エレーナもステイビルもいない。
自分しかいない不安が、心の中を支配しようとするが必死でその感情を抑え込む。
"――マーホンさんを守れるのは私しかいない"
その一念だけで、悪い感情を堪えていた。
ほんの数間だが、対峙するハルナもヴェスティーユも数分にも感じられていた。
しびれを切らしたヴェスティーユが、なんらかの行動に出ようとした瞬間――
「ヴェスティーユ、待ちなさい。この子何か、仕掛けているわよ。落ち着いて周りを見なさい」
ヴェスティーユと少し距離を置いて二人の様子を見ていた姉のヴァスティーユが忠告する。
「くっ!」
ハルナは、千載一遇のファーストアタックのチャンスを摘まれてしまい悔しがる。
「はっ!その様子だと、ヴァスティーユの言ったことは当たりなんだね」
こういう時にハルナは、エレーナのように言葉で相手を動揺させることができなかった。
「……あなた達、ハルナ様の知り合いのようだけど。いい知り合いではなさそうね?」
その言葉は、ハルナの後ろからきこえてきた。
「おや?あんたもう、落ち着いたのかい?さっきまで、足が震えていたんだけどねぇ」
マーホンは、すぐに悟った。
このもの達は、相手の感情を知る事ができると。
(ふー……)
マーホンはゆっくり深呼吸をして、ハルナの肩に手を置いた。
「……大丈夫ですよ、ハルナ様。私が後ろについています。私もハルナ様がいてくださっています。これだけで、わたくしとても心強いです」
「あははははは!アンタ何言ってんだい?見たところアンタは何もできそうにないじゃないか。それにね、弱いものが二人いても、こっちは全く問題にならないんだよ!それにそいつは一回私に負けてるんだからね!?」
ヴェスティーユは、二人を煽って不安にさせようとした。
この場の頼りになるハルナも、一度は負けているということを流し希望の芽を摘もうとした。
が、ハルナには全く効果がなかった。
ハルナはマーホンが自分を信じてくれていることをとても力強く感じ、先ほどまで支配されかかった恐怖がすっと心の中から消えていくのを感じた。
すると、指輪から温かな力が体に流れ込んで巡っていくのを感じる。
ハルナには自分が仕掛けた、空気の弾が見えている。
そこに光の力が加わっていった。
「うぉっ!なんなのこれ!?か、身体が蒸発していく!せっかく馴染んできたのに……させるか!」
ヴェスティーユは掌に浮かべた高濃度の黒い塊を、そのままハルナに向かって投げつけた。
空中に浮かべてた数個の弾が、その塊を追従し破壊する。
「な……なにぃ!?」
ヴェスティーユは、ハルナの力がモイスティアと違い成長していることに驚愕した。
明らかにその力は、自分達にとって脅威になる力だった。
「あの時は、よくもやってくれたわね。ずっと、お返したいと思っていたんだけど、いなくなったって聞いてたから残念だったわ。……でも、ようやくここで!」
ハルナが立てた人差し指の先には、高速で回転する風の円盤が見える。
そこにも光の力が加わり、綺麗な光の粒を纏っていた。
「ヴェスティーユ、逃げるよ!あれは、危ないヤツだ!!」
ヴァスティーユの声に、我を取り戻しその場から後ろに飛び跳ねた。
だが、その軌道を狙いハルナの仕掛けたホーミング弾が必死になって逃げるヴェスティーユを追いかける。
いくつか被弾して、光の力によってヴェスティーユの服は焦げ肌が黒くなっているのが見えた。
一歩、二歩とバックステップで逃げる。
タイミングを測ったハルナが二歩目の着地する足を狙い、円盤を飛ばした。
「当れ!!」
「ちぃ!?」
円盤もホーミング機能があり、指示された狙った足を斬り落とすために獲物を追いかける。
ヴェスティーユは、“足の一本くらい……”諦めかけたその時。
――ガシッ!
ヴァスティーユが着弾する直前で、踏み潰した。
自分の足の裏に黒い気を纏わせて、自分には影響が少ないようにしていた。
「ヴァスティーユ!助かったわ……」
「ようやくアンタが帰ってきたんだ。もう、消させはしないよ。例えそれが、ラファエル相手でもね!?」
ヴァスティーユは小さな姿のヴェスティーユを抱えて、逃げる準備にかかる。
「ハルナっていったけ?あんた、覚えておきなよ。母様がなんて言おうが、次は痛い目に合わせるからね!」
「それじゃね。これ、お土産だから」
ヴェスティーユは、抱えられたまま掌に黒い塊を作る。
それは、はじまりの森の中でみた森を侵食していったものだった。
ヴェスティーユは、それをなんの躊躇いもなく池の中に投げ込んだ。
「大切な水が!?」
ハルナのホーミング弾が黒い塊を狙って追いかける。
そして命中した。
「あぁ!?」
当たった黒い塊は、細かく散らばって池の中に広がっていった。
既にこの場から離れたヴェスティーユの顔は、満面な笑みを浮かべていた。
「フーちゃん、あれ消せる!?」
「やってみる!」
だが、フウカの照射する浄化の光では広範囲に広がった闇を一気に消すことは出来なかった。
「ああ、どうしよう!?マーホンさん、エレーナたちを呼んできて!」
「は、はい!」
マーホンは慌てて、ヴェーランの屋敷まで戻っていった。
その間、ハルナも光の力を含むホーミング弾を池の中に打ち込んだ。
その威力でいくつもの水柱が、池のあちらこちらで上がっていく。
しかし、当たった場所は消せるが侵食する速度の方が上回り、根本的な解決にはなっていなかった。
「どうしよう……わたしのせいで、わたしのせいで」
その時、聞き覚えのある声がハルナの頭の中に響いた。
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