3-28 エフェドーラ一族
ハルナたちを乗せた馬車の進むリズムは、いつも通り。
早くもなく、遅くもなく。
モイスティアを出て五日目にして、ようやく今回の目的地に到着することができた。
「ようやくだわ……。来たわね、はじめましてモレドーネ!」
馬車を操るエレーナは、町の様子が見えた時に嬉しさのあまり思わず声をあげた。
すっかり仲が良くなっていた、マーホンとノーラン。
最初はマーホンを憎んでいたため、バレてはいないがノーランと少し距離を置いていた。
しかし今では、隣に座って二人だけの話題で盛り上がっていることもあった。
そんな姿をハルナは安心して、二人の様子を眺めていた。
そこからさらに時間が経過し、馬車が進むにつれ徐々に町のその姿は大きくなっていく。
この町は東の国の管轄の街ではあるが、火、水、風、土のそれぞれの町とは異なり、町の出入りはそんなにも厳しくはなかった。
町の周りには木の板で作った柵があり、それが町の内外を分ける境界線となっている。
近くには警備兵が常駐しているが、出入りする人のチェックはほとんど行われていない様子だった。
馬車の操縦はモレドーネに入る前に、エレーナの横に座っていたアルベルトとその操縦を交代していた。
関所にいる警備兵は通過する際に徐行するようにと指示をしただけで、様々なチェックは行なわなかった。
警備兵は馬車を操り通過するアルベルトと後ろのソフィーネにそれぞれ敬礼し、二人も片手を上げてそれに応じてゆっくりと関所を通過した。
「ここが、モレドーネ……」
「そうです。ハルナさん、ようこそモレドーネへ!」
町はモイスティアやラヴィーネのように、様々な建物が並んでいるのではなく落ち着いた集落と言ったイメージだった。
町の中心には地下水が湧き上がる大きな池があり、そこから外に向かって川が流れ田畑に流れる仕組みが作られていた。
建ち並ぶ家もレンガで造られたものは少なく、木材を使ったものが多く見られた。
その池の近くに、他の家よりも大きめな建物が見えた。
ノーランに聞くと、あれが今回の目的地の#祖母様#の家だった。
アルベルトは、ノーランの誘導に従いその場所まで馬車を走らせて行った。
「ここです、ここが祖母様の家です」
アルベルトとソフィーネは、家の横にある馬休めの場所に馬車を停めた。
まずノーランが馬車を降りて、ハルナ、マーホン、最後にエレーナが御者席から飛び降りた。
その場所にソフィーネ、ステイビルが続いて集まり、全員が揃った。
「どうぞ、こちらに」
ノーランはハルナたちを案内し、家に向かって歩き始めた。
「では、どうぞ中にお入りください」
ノーランはドアのノブに手を掛けて回そうとしたその時、ソフィーネがその手を掴んで停めた。
「そ、ソフィーネさん!?」
ノーランは驚き、反射的にドアノブから手を離した。
それと同時にドアが勢いよく開き、人が弾き飛ばされたように飛び出してきた。
家の中からその弾き飛ばされた人の後を追って、一人の人物が姿を見せる。
「お前のような奴には、祖母様とお会いさせることはできん。もう二度と顔を見せるではないぞ!」
その言葉を投げかけられた男は、腕を組んで自分をにらみつける眼光の鋭さに怯え、尻尾を巻くように一目散にこの場から離れていった。
「お、お父様!?」
ノーランはその強面の男を見て、そう叫んだ。
その声に気付いた男は、自分のことを呼ぶ娘の顔を見て今までよりも優しい表情に変わり話しかけた。
「おぉ。ノーランか、お帰り。無事に帰ってきたのだな」
父と呼ばれた男は、ノーランの顔を見るとデレデレとした態度に変わり、先ほどまで発していた殺気はまるで感じなかった。
そして、ノーランの後ろに並ぶ面子を一通り確認し、満足げに頷き出した。
「そうか、そうか。お前も仕事ができるようになったな。今回の指令を見事果たしてくるとはな!」
「え?」
ノーランは、不思議な顔で父親の顔を見つめる。
いま言われた言葉の意味が、全く理解できておらず口がポカーんと開いたままだった。
「どうした、ノーラン。そんな間抜けた顔をして、かわいい顔が台無しだぞ?」
「え?だって……今回の仕事は……本家の……マーホン様を探し」
「何を言っているのだ、マーホンは、そこにいるじゃないか。」
実は、ノーランも考えていないわけではなかった。
ここにいる誰かが、マーホンであったとしたら……そうすればきっと仲良く一緒にエフェドーラ家をさらに盛り上げていってくれるはず。
この数日間、そういう妄想をしながら楽しんでいたこともあった。
目の前の父親の言葉は、信用できる。口は少し悪いが、ノーランに対して、嘘を言ったことは一度もない。
自分の妄想の世界に侵入してきたのかと思う程、自分の理想が現実となっている可能性があることにノーランは戸惑う。
事実を確かめるべく、ノーランはゆっくりと後ろを振り返る。
ゆっくりと後ろに並ぶ女性陣を見渡し、迷うことなく視線がその人物で止まる。
「やっぱり……あなたが”マーホン”さんだったんですね」
ノーランは、メイルと呼んでいた女性の顔を見てそう告げた。
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