3-13 我慢の限界










「聞きましたよ?ハルナ様は、ジェフリー様がお気に入りなんですって?」



「え!?」






次の日からハルナの周りの世話をしてくれる従者は、ハルナの顔を見るたびに”奇妙”なことを口にし始めた。


事前に知らされていたが、実際に言われてみると嬉しくもないし嫌なものだった。





そして一日中言われた次の日の朝食のテーブルに、ジェフリーは自信満々の顔をしてハルナたちに近寄ってきた。



「どうも、皆様。おはようございます、もうこちらには慣れましたか?何かあれば、遠慮なくおっしゃってくださいねぇ。……あ、それとハルナ様。従者どもが変な噂を立てているようですね。どうか、お気になさらずに」




いやらしい笑みを作りながら、ジェフリーは流し目でハルナを見てこの場を去っていく。






「もーう、イヤッ!我慢できないわ!?」



「ハルナ、ちょっと落ち着いて……これもソフィーネさんの作戦なんでしょう!?」



「そ……そうだけど、あのネットリとした視線がね……もう嫌なのよ、エレーナ代わってよ!?」





そう言いながら、逃げるエレーナを追いかけるハルナ。

一旦、四人はハルナの部屋に戻った。





「ハルナ様、よろしいですか?今回の作戦は、ハルナ様が”気はあるが、接近し過ぎない距離感を保つ”ことが重要なのです」





(そんなことが出来ていたなら、元の世界では告白され放題だったんじゃ……)


ハルナは、その言葉を喉の奥にグッと飲み込んだ。




「そして、あのジェフリーという男は今までの話しから思うに我慢ができない性格だと思われます。いつかその”距離感”に我慢が出来ずに何かを仕掛けてくる……」



「その時を待って証拠を掴み、追いつめるということよね?」




エレーナは自分に被害が及ばないためか、全くの他人事のような言い方だった。

ただ、その分ハルナとジェフリーの距離感を近い位置から見ていられた。





「ハルナ様、アナタしかいないのです。この状況で、ジェフリーに対し交渉できそうなのは。物や金では、あの男に対して交渉の材料にはなりえないのです」



「だから、ワタシが……ってことなんでしょ?……嫌だけど」



「聞き分けの良い娘は、好きですよ」





ソフィーネはハルナに向かって、にっこりと笑った。









その日から、ジェフリーの行動はエスカレートしていった。



ハルナを見かけては、話し掛けはしないが近くまで寄ってきたり、ハルナたちの部屋の外でわざと大きな声で取引の話しをしたりと自己アピールが火を追うごとにその行動が面倒臭くなっていく。



そんな状況に、ジェフリーも進展がないためイラつき始めたが、ハルナも相当ストレスが溜まっていた。




ここまでくると、ハルナも意地になっていた。

自分が爆発してしまっては、今までの我慢が無駄になってしまう。


自身にそう言い聞かせて、この作戦の最終局面を勝利で乗り越えようと努力した。




そして、我慢比べは終わりを迎える。







――ドンドンドンドン!



夜、ハルナの部屋の扉を力強く叩く音がする。


その音に紛れて、狂ったように叫ぶ声も聞こえてくる。





ソフィーネはゆっくりとドアに向かい、ドアの先の人物に声を掛けた。





「こんな夜に、どなた様でしょうか?」





叩きつける音とハルナの名前を叫び続けているため、その問いは聞こえていなかったようだ。



仕方なくソフィーネは、ドアを開けた。




「おぉ、ソフィーナ殿!ハルナを……私のハルナを!?」



「ハルナ様は、ただ今湯浴みをされておりますが?」



「ハルナ様はお疲れです、面会をご希望の場合はまた明日、……」



ソフィーネが言いかけた途中で、ジェフリーは部屋の中へ強引に入ろうとする。

それをソフィーネが身体を入れて塞ぐ。



その行動を不快に思ったジェフリーは一旦下がり、手を挙げて合図をすると背後から強靭な男が現れた。

男の一人はソフィーネの腕をつかみ、ジェフリーが中に入れるようにとソフィーネを通路側に引き出そうとする。

そのイメージ通りいくはずだった……

その瞬間その男に肘は、普段なら靭帯と関節の構造によって行かないはずの角度で曲がっていた。





――うごぉっ!?





男は思わず埋めぎ声をあげ、反対の手で腕を抱えてその場に座り込む。




「女性に対しての扱いが全くなっておりませんね。これまで何をして生きてこられたのですか?」




ソフィーネは、凍り付きそうな冷たい視線で男をにらむ。

男は痛みhを堪えるために、その言葉は耳には届いていなかった。




「ジェフリー様?あなたは今、何をしたのかわかってらっしゃいますか?」





ジェフリーはソフィーネの問いかけで、その一連の信じられない光景から目を覚ました。





「ヒィっ!!」




ジェフリーは床を這うようにして、ソフィーネから距離を取る。




「本当に、失礼ですわね。化け物を見るような怯えた目で……まぁ、嫌いじゃないですけどね」





そういうと、ソフィーネは腰に腕を前で組んでジェフリーに歩み寄っていく。





「た、助けてくれぇーーー!?金はいくらでも払うから、助けてくれ!!!」



そう言って、頭を抱えて床にしゃがみこんだ。






「やっと、自分の立場が理解できたようですわね」






ソフィーネは、ジェフリーの髪の毛を掴んで頭を無理やり引っ張り上げる。






「小さな世界で、おとなしくしていればこんな目に会うこともなかったでしょうに……ねぇ」





ジェフリーは、恐怖で既に自分の身体のコントロールが効かない。





「とにかく、アナタのことは明日ステイビル様からお話しがあるようです…今回のこと”も”ご報告しておきますわね」







ソフィーネは、手を離しジェフリーの身体を開放する。


そして身動きが取れなくなったジェフリーを連れて帰るように、片腕が使えなくなった男に伝えた。










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