2-128 ビルメロの作戦





最早ボーキンは、その名前を聞いても何の驚きも見せなかった。



むしろ答え合わせの時に、既に答えを知っていたような感覚だった。







「このことは、カステオ王子に何か確認をしましたか?」



「はい。何度か直接問い合わせたのですが、背を背けて”何も知らない”の一点張りでした」






そういうところまでやり方が似ているところが、浅はかでその先にいる犯人は一緒の人物と言っているようなものだとボーキンは感じた。





「他の者に、お声掛けは?」



「いろんな方に声を掛けましたが、結局は会うことすらできませんでした……そこで途方に暮れていた時、従者の一人がボーキンさんのことを教えてくれました。ただ……」



「――ただ?」



「ボーキンさんに依頼することは、誰にも知られてはいけないとのことでした。ですので信用のおける従者を通じて、ボーキンさんの元に届くように警備兵の方にご連絡していただくようお願いしました」





ボーキンは嬉しさが込み上げる。

王宮内にもまだ、自分を信頼してくれる者がいたのだ。





「いま、その従者の方は?」



「そのお方は、王宮に長く勤めになられた方と聞いております。ですが、既にお辞めになられたようです。最後に、困っている私をそっと助けてくれたのだと思います」




お礼を言いたかったが、会うことができなくて残念だった。

それでもボーキンは、嬉しかった。


王宮のために働いていた、あの頃のボーキンのことを知る人物なのだろうか。



その者の期待に応えるためにも、ニーナを王にしなければならない。

でなければ、この国がカステオによって地獄と化してしまうことになる。





ボーキンの心の中は、既に決まっていた。




――この国をあの男の精で滅びさせはしない!











そこからボーキンは、ニーナに票を入れてくれそうな味方を集めることに奔走する。

当然部下である、エルメトとアーリスに話しをすると喜んで賛同してくれた。



そんな中、エルメトがある依頼を持ってきた。



”ディヴァイド山脈の魔物討伐について”




ボーキンはこの依頼を、絶好の機会だと考えた。

ディヴァイド山脈の魔物については、以前より往来する商人たちから依頼が多かった。


独自で雇われた兵が全滅することや、国の警備兵すら損害が出ることも多々あった。


西の国としても、重要な取引には王宮警備兵が同行することもあり、それほど魔物の襲撃を問題視していた。



この問題を解決できれば国内の評判が上がり、ニーナの応援一つになると考えた。

ボーキンは早速エルメトに指示をだし、討伐の手配を整える準備をした。



だが、その思惑に当然邪魔が入ってくる。



偶然にも、アーリスが世話になっていた食堂にいた時その話は聞こえてきた。



「……だから、そんなことは簡単なことだ。出現したコボルトだけを相手にするのではなく、一網打尽にすればいいのだ!」



「し、しかしながらビルメロ様。山の中で散らばっている魔物を、どのように一気に壊滅できると言うのでしょうか?それなりの人員と時間をかけることになり、まるで戦のように……」



ビルメロはテーブルの上にある、自分のジョッキの中のアルコールを飲み干して身体を前に出した。




「お前のその首から上に在るものは、ただの重たいだけの飾りか?……ならば、切り落として軽くシテやろうか?」



そう言われた部下の兵はゾッとする。

こんな町中でやられることはないと思うが、ビルメロの自分が気に食わない者への扱いの酷さは有名だった。


「申し訳ありません……もしよろしければ、お考えをお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか?」



部下は、空になったジョッキに冷えたアルコールを注ぎながらビルメロの考えを聞いた。


ビルメロはジョッキの中が満たされたことに満足してか、目付きが緩やかになり問いかけられた兵の顔を見る。




「いいか、硬い頭を軟らかくしてよく聞けよ?……誰も出来なかったことが、俺様にはできる。なにせ俺の後ろには大きな方が付いているからな」





兵は答えがなかなか出てこないビルメロを、笑顔で見つめる。

自慢話しから入るのは、いつものことなのだった。



「……して、その方法とは?」



「火を放てばいいのよ。そうすれば、奴らは丸焦げになり二度と人間様に歯向かうこと気など起こらないだろうよ!」




部下の兵は、その話を聞いて呆れた。


東西を広く分ける山脈を焼き尽くすなどできるはずもなく、そこに生息している魔物以外の生き物がいることは全く考慮されていない。

さらには東の国にも被害が及ぶ可能性は、全く考えていないのだろう。



だが、失敗したとしてもこの作戦は、"ビルメロの作戦"なのだ。もちろん、その責任も……



様々な思いを巡らせ、兵はビルメロに対する答えを決めた。



「流石でございます、ビルメロ様。とても、わたくしには思いつかない案ですな!」



その言葉に、色々な思いを込めて告げた。




「そうだろうよ。では、早速明日からこの作戦に取り掛かれ。決して、ボーキンには手柄を渡すなよ?……そうだ、この手柄はお前にやろう。お前の名で作戦を進めるのだ、"ゴーフ"」



ゴーフは、心の中で舌打ちをした。

この流れを考えていないわけではなかったが、まさか予測していた嫌な展開になるとは。


どうせ成功した場合は、自分の手柄にするのだろう。




(やるだけやってみるか)



そう思い、ゴーフも目の前のジョッキを飲み干した。




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