2-97 行方不明





『ん?どうした、人間よ。なぜそんな目で私を見るのだ?』



「コボルドさん……いま、森からきました?」




クリエが、確認をする。


その質問にコボルドの長は、鼻から呆れたように短い息を一つ吐く。





『何を当たり前なことを……それがどうかしたのか?』



「コボルドさん、お願いがあるのですが……」





クリエは、この状況説明する。

ハルナたちが、西の国の王選の期間中は王都から外出できなくなってしまったため、東の国との連絡する手段がなくなってしまった。

最悪三か月は連絡が取れなくなってしまうため、東の国のふもとで待つドイルたちに一報を入れておきたいとのことを伝えた。


この王都に問題なく出入りできるコボルドに、連絡役をお願いできないかと相談した。





『我らを足代わりに使うか……だが、お前たちの状況が理解できないわけでもない。これは”貸し”しておくぞ、人間よ』





そう言って、コボルドは西と東の国にそれぞれコボルドを待機させることを約束した。

今回に限っては、コボルドの長が同行し、ドイルにこの状況を伝えてくれることになった。

ただ、フウカがいないと会話ができないので伝えることは書簡に認めて渡すことにした。





代表して、ルーシーが現状を記した。

その手紙を紐で巻き封蝋をする、その印璽はルーシーが護身用に持つ短刀の柄に掘られた家紋で押した。





「……これでいいかしら?」



『わかった、これは預かろう。無事に届けるので、安心するがいい。それと、常駐するコボルドは後で送る』



「ありがとうございます、コボルドさん」






クリエがコボルドにお礼を告げると、コボルドは手を上げて応え茂みの中に消えていった。















城下町のメインストリートには、王選が始まったはずが、全くその賑わいを見せていない。



エルメト、アリルビート、シュクルス、アルベルトの四人で町中の状況を確認するのが目的だった。


ハルナとクリエたちは一度牢に入れられたこともあり、なるべく人目に付くことを避けようとして外れた。

精霊使いは何か起きた時に大事になり目につきやすい。

西の国は東に比べ精霊使いという人物が、そこまで一般的ではなかった。



あと、この裏通りにはガラの悪い男たちが集まる場所でもあるため女性ではない方が良いであろうという判断でもあった。





「あ。あちらに、酒屋がありそうですよ!」





シュクルスはいつの間にか、スィレンに頼まれた買い物メモを手にしながら店を探すことが目的に変わっていた。





「おいおい、シュクルス君。今回は、買い物が目的では……いや、買い物も頼まれてたんだっけか?」



「すみません、アリルビートさん。あなた方に買い物までお願いしてしまって」



「いや。今のところ私たちがやれることもないし、どうせ西の国からは出られないんだし……」





アリルビートのその言葉に、エルメトの顔が曇る。





「あ、いや。すまん、そういう意味じゃなかったんだが……」



「いえ……今回は、我々が失礼なことをしていることは承知しております。そのことに関してはただ、お詫びを申し上げるしかございません」



「それについては先ほど話し合いで全員納得しましたし、これ以上気に病むことはないかと……」





アルベルトがこの場をフォローする。





「私もクリエ様がそう決めたのであれば、私は全力でその決定に従い全力で行動します。ですが、それ以上にあなた方を助けたいいという気持ちもありますのでそこは信用していただきたい」



「皆様のお心遣い……感謝致します」



「では、早く買い物を済ませてしまいましょう!」





シュクルスが、明るくこの場をまとめた。





酒買い物の続きしようと酒屋に向かおうとしたところで、エルメトの顔なじみの商人に声を掛けられた。





「……エルメト様、丁度良いところに」



「どうした?」



「昨夜ある男がおりまして、代金ツケの支払い期限が今日なのですが……」



「おいおい、勘弁してくれ。取り立ての仕事は警備兵の仕事ではないぞ!?」



「いえ、そうではなくてですね。取り立てにそいつの家にいったのですが、いなかったのでいろいろと調べていたところ行方がわからなくなっているらしいのです」



「それは本当か?」



「はい。私が追い掛けていったところ、昨夜に飲み屋の前でケンカしていたのを見た奴がいます。その後、そのまま裏路地に入っていったのが最後らしいです。路地裏を探してみたら、こんなものが――」





男は、ちぎれた半分のネックレスを渡した。





「これは?……その男の物なのか?」



「はい。これはあの男がとても大切にしていたものです。それは、誰かが触ってしまうと怒るほどの持ち物でした。そんな物を落としたままにするとは考えられません」



「どこに落ちていたのだ?」



「こちらです……」





エルメトは男に連れられて、ネックレスを拾った路地裏に行く。

アルベルトたちもその後をついて行った。



その場所についてみると、時に変わった様子はない。

アルベルトたちも何かを見つけようと協力するが、何も見当たらなかった。





――ドクン



シュクルスの鼓動が、また今までと違う動きをする。

何か怖くなって、自分の胸に手を当てた。





「どうしたシュクルス……何かあったのか?」





アリルビートは、おかしな様子を見せるシュクルスに声を掛けた。





「い……いえ、何でもありません。大丈夫です」



「特に何も見当たらないな……おい、コレは預からせてもらうぞ、いいな?」





エレメトの問いに、男は頷いた。





「この件は一度持ち帰り、事件性があるかを判断して調査する。また、何か判ったら知らせてくれ」





そう言って、男は了承し路地裏を離れていった。





「実は、数か月前も同じような失踪事件があったのですが、この事件は未だに解決していません。一体何が起こっているのやら」





――ゴーン、ゴーン、ゴーン




街中に夕方を知らせる鐘の音が響き渡る。

ここからは夜になるため、昼間と違った夜の町に変わり賑やかになっていく。



「それでは、残りの買い物を済ませて帰りましょう!」




エルメトたちは、最後の買い物を目指して歩き始めた。

シュクルスはもう一度現場を振り返り胸に手を当て、自分の心臓の無事を確認する。





「シュクルスさん、行きましょう」






アルベルトが、声を掛ける。






「あ、はい。いま行きます!」





そうして、表通りに出て酒屋を目指して歩いて行った。











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