2-96 気づかれた事実
キン、キン!……ガン!
「うわぁぁぁ!」
芝生の敷き詰められた地面に、四つん這いになり息を切らすシュクルス。
時間があれば、いつもアリルビートかアルベルトに剣の指導を受けていた。
併せて今日は、ビルメロという男から預かった剣の効果を試していた。
が、軽い以外は何の効果もなかった。
剣術にや体力に関しては、元のシュクルスのままだった。
「どうだ?何か変わった感じとかないのか?新しい力が宿ったとか……」
「全くありませんね、剣の軽さ以外は今までと変わりありません。それより、アリルビートさんの方はどうですか?……その、剣を重ねるたびに体力が削られて疲労感が増したりとか?」
アリルビートは二、三度軽く剣を振り回して、身体の状態を確かめる。
「うむ。これといって特に変わったところは見当たらないな……遅効性なのかもしれないが、今の調子だと朝までこの訓練は続けられそうではあるな」
「そうですか……」
シュクルスは、全く相手にしてもらえない実力差に落ち込んでしまった。
武器が変わったとしても、個人の技量が伴わなければその成果は発揮できないのだろうか。
「アリルビートさーん、食事の用意が出来ましたので朝食にしましょう!」
窓から、アーリスが声を掛ける。
「……お二人とも、今朝はこれまでにしましょう」
アルベルトがそう告げて、シュクルスとアルベルトは互いに礼をして朝の訓練を終えた。
シュクルスは、浴室を借りて汗を流した。
身支度を終え、朝食が用意されている場所へ向かった。
途中の廊下で出会ったのは、姉のソルベティだった。
「どう?何かあの剣の加護に付いて、何かわかったの?」
シュクルスは汗を流したばかりの頭を掻きながら、ソルベティに答える。
「あんまり、ね。わかったことといえば、自分の技量の低さだけだよ。お姉ちゃん……」
ソルベティは、下を向いて歩いているシュクルスの頬をつまんだ。
「もぅ!いい加減、その呼び方はやめてって言ってるでしょ!?いつまでも小さな子供じゃないんだから」
「ひゃ……ひゃい。おねぇひゃま……」
シュクルスは赤くなった頬をさすりながら、ソルベティの後をついて食堂へ向かった。
「ねぇ、アーリスさん。警備兵なんてやめて、食堂を出した方がいいんじゃないの!?」
「お前は何を言っているんだ!?大事なアーリスも立派な警備兵の一員なんだ、変なことを言うでないわ!」
アーリスの食事を口にしてスィレンの本音の申し出を、困り顔のアーリスの代わりにボーキンは一蹴した。
「でも、本当に美味しいのよね。アーリスの食事は!」
ニーナが嬉しそうに話すと、スィレンも”そうでしょう、そうでしょう”と満足そうに頷き、自分の味覚が確かなものであるとホッとした。
ニーナの言葉に、ステイビルも納得した。
「そうだな。この味なら、うちの調理見習いとしてお願いしたい味だ」
「ニーナ様……もう王選も始まったのですし、気を引き締めませんと……」
「ん?ちょっと待ってください。……”王選が始まった”って聞こえたんですけど?」
ハルナは、さらっと重要なことを流そうとしたボーキンに尋ねた。
すると、ボーキンは”しまった”という顔をした。
「ボーキン様……どういうことでしょうか?」
ルーシーが少し怖い口調で、再度問い直した。
「申し訳ございません、本日より王選が開催されます」
「ということは……ニーナ様は、今日がお誕生日なのですね!」
クリエがニーナの誕生日を確認する。
ニーナはクリエに笑顔で返すが、その目は笑っていなかった。
「どうして、我々に黙っていたのですか?」
「先日もお話ししました通り、我々には仲間が少ないのです。そのため、ぜひ皆様方にも力をお貸しいただきたく……」
「それは承知しておりますし、できる限りのご協力はさせていただくつもりです。……が、何故お黙りになっていたのかの理由にはなっておりません」
先程まで明るかったスィレンの顔も、事情が呑み込めてきたのか神妙な顔つきになる。
「私からご説明しましょう」
ニーナがフォークとナイフを置き食事を止め、前に掛けたナプキンを外してハルナたちの顔を見る。
「王選の期間は三か月です。その後に投票が行われ、次期王が決定します」
「国の大切なことを決定するのに、随分と期間が短いわね。その期間に何の関係があるのでしょう?」
エレーナは、その期間が今回黙っていたことに関係があるのだと勘づいた。
「……王選期間中は、王都内の出入りが制限されてしまうのです」
「そ……それって」
「王選期間中は、東に帰れないってこと!?」
ハルナとエレーナは、ここではまるで意味のない息の合ったところを見せた。
「申し訳ございません……こんな騙すような形になってしまい」
多分、この作戦を立てたのはボーキンであるが、ニーナ、エルメトとアーリスも承諾していたのだろう。
それほどニーナが不利な状況であるのは、今までの話しから想像に難くない
援助してあげたい気持ちは十分にあるのだが、長期に離れることに対しての問題が生じるだろう。
特に、東の国の王子が二人もいるのだから。
そのことについて話し合うも、なかなか良い案がでない。
情報漏洩や他国からの侵略など、王選という不安定な時期には起こって欲しくない。
そのためにもこの期間、王都の往来を禁止しているのだった。
途方に暮れ始めた時、クリエのポケットに硬いものが当たった。
「あ。もしかしたら……」
――?
皆の視線が一斉に、クリエに集まる。
そして、ポケットから音の鳴らない鈴を出して振る。
『――どうした?何か用か?』
ほどなくして、一匹のコボルトが現れた。
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