2-81 マギーの意思







「――お婆さーん!お婆さーん!!」




ハルナとクリエは、荒らされた店の中を必死になって老婆の姿を探す。


食堂、二階の宿泊部屋、入浴場、そしてお婆さんの部屋。

だが、そこには探している姿は見あたらなかった。





(……誰かに襲われて、連れていかれた!?)





ハルナは焦る気持ちを必死に抑え、探していない場所や可能性を探っている。





「……あぁ、もしかして!?」




クリエは思い出したように店の外へ出て、裏側の山を登っていく。





「ちょっと、クリエさん?どうしたの、急……あ!?」




クリエのルートを見て、ハルナも思い出したように後を追うのではなく自分で目的の場所を目指して走った。

そこは、宿の裏の山を少し登った場所。

昨日綺麗になった名前の刻まれた石が並んだ場所だった。





「お婆さん!?」





老婆……マギーは墓石の前で、うつぶせになって倒れていた。


ハルナは、マギーの肩を叩き意識を確認する。






「お婆さん、大丈夫ですか!?お婆さん!!」


「う……うーん。お……おまえ……たち……」





意識はあるようだが、少し衰弱していた。


ハルナたちを追いかけて登ってくるカルディとソフィーネ。

その後ろにはニーナとボーキンも登ってきた。



ソフィーネは、持っていた水筒をマギーに差し出した。

マギーはその水筒を申し訳なさそうに受け取り、水を数口含んだ。





落ち着きを取り戻した頃、マギーは辺りを見回しボーキンの姿を確認した。





「ボーキンに会うことが出来たんだね。ハルナ、あんたが無事でよかった……」





牢屋に入れられたことが、無事かどうかはさておき、ハルナは自分たちは大丈夫だったことを告げた。


安堵するマギーの様子を見て、ボーキンは何が起きたのかを聞いた。





「昨日は一組の新規の客が泊まっていて、その客が朝店を出た後に六人くらいの男たちが店に入り込んできたのさ……」





話しによると、男たちは物を探したり盗んだりするわけでもなく、ただただ壊すだけの行動をとっていたようだ。

怖くなったマギーは調理場の窓から抜け出し、必死になって山を登りここにたどり着いたという。





「怪しいのは、最初の客ね」


「そうでしょうな、店の様子を伺って襲う算段をつけていたと考えられます」





ニーナの推測にボーキンが同意する。

カルディも、ソフィーネも同じように考えていたようだ。





「で、その男たちはどこからきて、どこに行くと?」



「こっちが話しかけても、何も話してくれんかったな。じゃが、食堂で話していたことを聞くと、”東の国”とか”救出”とか話しておったのぉ」




話しからして、既に二時間は経過している。

東側のふもとで待っている、エレーナたちが危ないという結論に達した。






「よし。警備兵の一人は、マギーさんを私の家まで、連れて行って保護してくれ。それ以外の者は……」



「ちょっと待ちな、ボーキン。私は、ここから離れないよ。もしかしたら、今日も泊まりに来てくれる人がいるかもしれないんだ」



「しかし……あんな店の様子じゃ」



「泊まるとこがあるだけで、安心するものじゃ。あんたたちも、疲れて暗い中安心して泊まれる場所があった方が助かる気持ちをわかっとるじゃろ!?」



「そ……それは」







マギーの言葉に、ボーキンも言葉を続けることが出来ない。

確かに、山越えで疲れ果てた時の宿屋は助かる。


だが、店がこの状態では……


しかも、すぐにその男たちの後を追わなければ、また新たな問題が発生してしまう。





「……警備兵さん、一人はマギーさんの片づけを手伝ってください。一人は応援と必要な物資の運搬を要請しに町へ戻って」





ニーナが、警備兵に指示を出す。


ただ、そうするとニーナの護衛はボーキンとエルメト以外にはいなくなってしまう。





「それでは、護衛の数が……」



「護衛はあなた方がいますし、同盟を組む東の国の精霊使い様もいらっしゃいますからきっと大丈夫です!」





その言葉にクリエはウンウンと頷いて見せる。




これ以上説得している時間はないし、この状態のマギーを放っておけない。

ニーナの考えが最善なのはわかっていた。





「……わかりました。では、警備兵はすぐにそのように行動せよ。我々も先を急ぎましょう!」



「「はい!」」





ハルナたちは、ボーキンの言葉に返事をした。





山を下り、店の前に集まる。

馬車から、荷物を降ろしエルメトは山に入る準備を始める。


ハルナたちも準備が整い、あとは山の中に入るだけだった。

そんなハルナにマギーが、近づいてくる。





「また、止まりに来るといい。怪我には注意するんだよ?何かあったら、いつでも戻って来ていいんだからね」





心配そうな瞳でハルナを見つめる。

そんな姿をみて、ハルナも心が痛む。


出来れば、お店の片づけを手伝ってあげたかった。


しかし、当初の目的があるためここに残るわけにはいかない。





(きっと冬美さんが守ってくれる……)





そう信じて、マギーにまたここに来ることを約束した。

そして視線を店の裏の山のある場所に向けて、ハルナは目を閉じる。





「……そろそろ、準備はいいですかな?出発しますよ」





ボーキンが、ハルナたちに準備が整ったか確認する。






「はい、大丈夫です。行きましょう!」





ハルナは、力強く答えた。





「よし!これより、ディヴァイド山脈を越え、東側のふもとを目指す。到着目標予定は、本日十七時。それでは出発!!」





山の入り口で、警備兵が敬礼して入山を見送る。

その隣で、マギーもハルナたちのことを見送っていた。

片手は胸に当てて、道中の無事を祈りながら。








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