2-60 コボルド討伐8





先を案内する一匹のコボルドの後を追って、ハルナたちは茂みをかき分けて進んでいく。



道なき道だが、コボルドにとってはよく使うルートなのだろうか。

迷うことなく、歩を進めていった。




足元をよく調べてみると土が踏み固められており、草や枯れ葉などの上からでも、固められた場所とそうでない場所の区別が足の裏から伝わってくる。

併せて、低い草や木々の枝によって足元が見えないため、知らないものから見れば”何もない場所”としてしか見えないだろう。


ハルナは、そのコボルドたちのその知恵に感心した。

魔物という種類の生き物さえも、生きるために必死に考えていることに。







先頭を進んでいるコボルドは、急にペースを落とし歩みを止めた。





『オ前タチ ヨク剣ヲ扱ツカウ者ヲ選バナカッタナ。 ソノ者ヲ連レテキタナラ 途中デ始末スルヨウニ言ワレテイタ……運ガイイナ』



「話し合いに行くのですから、警戒されないためにも攻撃の意思を示すものをなるべく排除するのは当然でしょ?」






ルーシーは負けじと応える。





『フン ……言ウコトハ 言ウヨウダナ』




振り向いていたコボルドは、再び前を向いて道なき道を進み始める。





ハルナたちはローブを着ているお陰で、小枝や草による擦り傷から守られている。

中には、人間の皮膚に合わない種類の草もある。

炎症を起こしてかぶれるだけならいいが、致死ではないが体内に毒として入り、高熱を出してしまう者もあるとマイヤにも聞いたことがある。

そのため森の中を進むには、なるべく肌の露出を押さえた服装にしなければならないと教わった。








このまま良い話し合いが行われ、お互いが協力しあえるようになるのではというハルナの感がそう告げた。


しかし、そこから目的の場所に到着するまで、一言も言葉が交わされることがなかった。





『ココデ 待テ』





先導していたコボルドが、立ち止まる。

そこは、ちょっとした広場になっていた。


ハルナは、少しだけ始まりの場所に似ていると感じていた。

が、エレーナにそのことを話すと、多分否定されるため黙っておいた。






コボルドは、奥の茂みに消えていく。

ハルナたちはこの場所に、取り残された状況となった。




(もし、ここで襲われたら……)




全員同じことを考えていたらしく、四人の間に緊張が伝播する。






――ガサっ







四人は、音が鳴る方を向いた。





『そんなに怯えなくても良い、弱き人間ども』





茂みの中から、先程案内してくれたコボルドとは別に二匹現れた。

先程のコボルドよりも、言葉がクリアに聞き取れる。

これが、長の知能の高さなのだろう。





「はじめまして、コボルドの長よ。今回は話し合いに応じていただき感謝します」




まず、ルーシーが挨拶する。




『少しは、礼儀がわかるようだな。それで、今回の話し合いの内容とは?』





長のとなりにいるもう一匹が、話を前に進めた。




「今まで長きに渡り、このディヴァイド山脈を越えるルートにおいて人間と衝突している件を終わらせるためにやって参りました」





長に並んだコボルドの一匹が、鼻をフンッと鳴らした。


長は、その言葉に対して返した。





『フン、終わらせる……だと? さて、どうやって終わらせると言うのだ?』



「まずは、根本的な問題を明らかにし、それに向けてお互いの誤解を解いていき、それぞれの妥協点を探っていくことになります」






長が我慢しきれずに、声を高くして笑う。

ルーシーはその笑いが途切れるまで、じっと待った。





『いやー、すまんな。余りにも面白い話を聞いてしまったのでな。 誤解?妥協点?何を眠くなるようなことをいっているのだ……人間共』



長の顔つきが急に険しくなる。




『……悪かったな。で、お前たちは何をしてくれるんだ? ”命だけは保証する”などと、上からの物言いで我らを従わせようとするのか?』





「私たちは、あなたたちとの共存を望みます。襲ってこなければ、私たちもあなた方の生活を脅かすことはしないと約束します」




もう一匹のコボルドが震えながらルーシーの言葉に返す。





『な……何を勝手なことを!?自分らが犯した罪も分からないのか!?そんな奴らに……』





前に出ていこうとするコボルドを、長は手で抑える。






『いいんだ……落ち着け。こいつらはな、やっぱり自分たちのことしか考えていないのだからな!!』






――ゴオゥ!




轟音が鳴り響き、ルーシーとコボルドの間に火柱が上がる。

その後には、地面が真っ黒く焼け焦げ、石が熱を帯びて真っ赤に燃えていた。





(精霊使い……!?)







『驚いたか?精霊様の力を貸していただけるのは、お前たちだけではないのだ!』





なぜこのコボルドは、人間に対して敵対心を抱いているのだろうか?

その疑問を、エレーナは素直にぶつけてみた。




「あなた方が、人間に対して強い不信感をお持ちであることがわかりました。何かその理由があるのであれば、差し支えない範囲で結構です……私たちに教えていただけませんでしょうか?」





長は、戸惑う。



今までは、この力を見せただけでほとんどの人間は逃げ出していた。

逃げる人間を仕留めることは、歯向かってくるよりも容易だった。



だが、この者たちは、全く動じている様子はみえない。

むしろ、対処できるという余裕さえ見受けられる。


まだ、力のすべてを見せているわけではないが、自分と同等かそれ以上の力を持った人間であると判断した。




『……わかった。そこまで言うならば、我らが人間を憎んでいる経緯を話してやろう』



『お、長よ!』




もう一匹のコボルドは止めようとするが、長はその場に座り話す体制を作った。







『この森に人間が入ってくるまで、我らは何事もなく暮らしていた……』





コボルドの長は、よくある物語の導入部のように話しを始めた。






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