2-41 パレード3
街中の人々が、王子の名を呼んで。
その中に紛れて、選ばれた四人の精霊使い達の名も聞こえてくる。
その声が、ハルナ達をさらに驚かせる。
それは圧倒的な音量、先頭にいる音楽隊よりも大きな音が耳を揺らす。
「どう?これが王選のパレードよ?」
アーテリアは呆気にとられている二人を、現実の世界に呼び戻した。
「もう、これは緊張……どころじゃないですね」
「ねぇ、お母様……パレードっていつもこんな感じなの?」
「いつもっていうより、今回が二回目だから。前は、こんなにも騒がしくなかったと思うけど……」
「「えぇ!!まだ二回目なの(ですか)!?」」
ハルナとエレーナは同時に驚く。
「そうよ、これで二回目。そして、お披露目パレードを行ったのは、私たちが初めてってことね」
「な……なぜ、このようなパレードが行われるようになったのでしょうか?」
オリーブが質問する。
「実はこの発案者……カメリアなのよ?」
その発言にも驚く、二人だった。
今回はティアドも驚いていた。
「もぅ、姉さんったら……」
と嬉しそうにティアドはつぶやく。
「それ以前は、王選はお城の中で全て行事が行われていたの。だから、町の住民の方たちは通達程度でしか王選を理解していなかったのよ」
「それが、なぜこんな大ごとに?」
ハルナは問う。
「カメリアは、疑問を持ったのよ。”王選ってなに?”って……普通そんな疑問浮かばないし、口にも出さないわよ」
「で、その疑問の答えが……パレードなの?」
「当たってる気もするし、ちょっと違う気もするわね……彼女は”王選は国のものであり、国民のものでもある”って言い出したの。で、みんなに知ってもらうためにはどうすればいいか……って考えて、カメリアから出てきた答えがみんなで楽しめる”お祭り”なのよ!」
「へー、面白いこと考えますね!」
「でしょ!?でも、その案が採用されて、王子と私たちでどうすれば面白く見てもらえるか考えたの……それがこのお披露目パレード」
「でも、ただ手を振ってるだけじゃ、そんなに面白くないんじゃないでしょか?」
「……そこよ。ハルナさん。私たちはそこで考えたのよ”人気投票”を導入しようって!」
「――人気投票??」
「そう、人気投票。パレードが終わったら、住民全員にどの精霊使いが気に入ったか投票をしてもらうの。それを王国が発表することになっているのよ」
「その順位で、何か変わるの?この後に優劣が生じるとか?」
「そんなのないわ。言ったでしょ?”お祭り”なのよ、そうやって国と住民が一体になることが目的だからね」
「それで、お母様の順位は何番だったの?」
「(フン)私は三位だったわよ……」
「……その結果覚えていますわ、アーテリアさん。一位が姉(カメリア)で、二位がハイレイン様で、三位がアーテリアさん、四位がローリエン様でしたわね?」
「そ……そうね。そのとおりよ」
「あのハイレインさんを押さえての一位だったって……カメリアさんは、とてもお綺麗な方だったのでしょうね!?」
ハルナは、周りの音に負けないくらいに大きな声で告げる。
それと同時に、町の人々に手を振って応えても見せる。
「うーん……素敵ではあったけど、ハイレインさんの方が容姿での人気は高かったわ。カメリアの魅力はね、人を楽しませるのが上手だったのよ」
「で、結局どうすればいいの?」
エレーナは、聞いてみた。
「そうね、それはまた後で教えてあげるわ。今は、町の方の声援に応えてあげなさい」
「エレーナさまー!!」
「ハルナ様ー!」
ハルナは呼ばれた声の方を向き、ぎこちない笑顔で手を振った。
馬車の列は正門を出て、大通りをかなり進んできた。
いよいよ、北門と南門へと別れる十字路に到着した。
縦一列に並んで走行していた馬車は、王子の馬車の後ろに付くように二手に分かれた。
前の方に座っていた、ハイレインが後ろの列に告げた。
「これより、二手に分かれて北門、南門をそれぞれ目指し進んでもらう。それぞれの通りでは精一杯、観衆の声に応えてあげて欲しい!」
ハイレインは、ここからステイビルの馬車に乗ることにした。
「それでは、出発!!!」
号令と共に音楽隊も含め、二つの馬車の列は左右に分かれ進んで行く。
ある程度進んで行くと、エレーナはちょっとした変化に気付いた。
「ねぇ、ハルナ。さっきの大通りより人が少なくない?こんなものなの?」
「そういえば……も、もしかして反対側の方に人が流れてるのかな!?」
「そうかもね……さて、どうするのお二人さん?」
アーテリアは笑って、問いかける。
「――あ。とりあえず、精霊の力使ってみるとか?」
ハルナはそういうと、馬車の上で立ち上がり軽く風を作って見せた。
――ビュッ!
手加減したつもりだったが、見ている群衆が驚くくらいの風が走り抜ける。
すると、その中から誰かの麦わら帽子が一つ、風に飛ばされて宙に舞った。
「あ、しまった!?」
その様子を見ていたハルナが、自分のせいだと気付く。
ハルナは器用に帽子の周りに少しずつ風を起こしながら、上手に元の持ち主へ落下するようにコントロールしていく。
そして、持ち主が両手を伸ばしてその帽子を掴んだ。
観衆から、喜びとその技術のすばらしさを称賛する声が鳴り響く。
その間、パレードは止まり全員でその様子を見守っていた。
先頭の音楽隊も、帽子をキャッチしたときはとても明るい音楽でその場を盛り上げてくれていた。
実はハルナのせいなのだが、帽子を受けとった女性はハルナに対して感謝の言葉を何度も告げていた。
「なに?ハルナ……自分だけ?」
「いや、たまたまなのよ!?あんなことになるとは思ってなかったし!」
「それも、ハルナさんの”運”の良さね。御覧なさい、今のでハルナさんの株がぐんと上がったわよ」
確かに先程から、ハルナの名を呼ぶ人が増えている。
「それじゃあ、次はエレーナさんの番ですね?」
「「「キャスメル王子!」」」
キャスメルは護衛が乗っていた馬を借りて、ハルナ達の乗っている馬車まで一人でやってきた。
「ハルナさん、先ほどの風裁きは”あの時”よりもお見事でした。本当に素晴らしい力を習得されましたね!」
照れるハルナだが、褒められてまんざらでもなかった。
「それでは、少しお手伝いしましょうか……エレーナ、ちょっと耳をお貸しなさいな」
「ふーん……ちょっとやってみる!」
エレーナはまず、近場で確認した。
掌のうえで、雨粒よりも小さく、霧よりも大きな粒を作り出して見せた。
「お母様、このくらいの大きさで大丈夫かしら?」
「そうね、それを空いっぱいにバラ巻いてみなさい!」
エレーナはその霧状の水を頭上に創って見せた。
すると、そこには丸く大きな虹が現れた。
人々はただ、空に描かれたカラフルな光の橋に酔いしれていた。
吹き出した水の粒は小さいため、下から見ている人々が濡れたりすることもない。
パレードを見守る人たちが大興奮のなか、ハルナ達はゴールである北門に到着した。
その時には、観衆の数も随分と増えてきており、門が閉じられるまでハルナ達に声援を送っていた。
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