2-10 隠し玉





突然の問いに、戸惑いをみせるエレーナ。

しかも、本人を前にして答えを導き出さなければならない……


だが、嘘はつけない。





(っていうか。なんで私、悩んでるんだろう……)




「私は、ハルナのことを……」


——!


またエレーナの全身に、激痛が走る。


その様子を見て、ハルナが駆け寄る。





「だ……大丈夫!?」





そういって手を差し伸べたが




——パシッ!



(——あ)




エレーナは、ハルナの手を跳ね除けてしまった。





「ごめん、ハルナ……身体が勝手に……」





泣きそうになっているハルナの顔を見て、エレーナは謝罪する。



エレーナはもう、何に対して怒って、何に対して謝っているのかがわからなくなってきた。



その様子を見守りながら、ハイレインは思う。




(……なるほどね。それじゃあ最後のピースを埋めるか)




思考のパズルの空きスペースにピースをはめるべく、ハイレインは問い直す。






「エレーナよ。お前は、ガブリエル様をどのようにしてお呼びしたのだ?」




エレーナはハイレインの目を見つめ答える。




「聞いた話では、”ラファエル”様が、お呼びになられたと聞いております……」





——!!




信じられないといった感じで、ハイレインの片目が大きく開いた。






「ま……まさか、あの風の大精霊様が!?」





その名を聞いて、周りの従者もざわつき出した。

戸惑いもあるが、何とか落ち着きを見せようとハイレインは努力する。



「……そ……それは、本当のことなのか?」





エレーナはハルナの顔を一度みて、ハイレインに向き直し大きく頷いてみせる。

人を見る目をもつこの目を持ってしても、嘘を付いているようには見えなかった。

もしそれが嘘だとしたら、エレーナの相当なペテン師なのだろう。




「はい……それは、本当のことです」




エレーナのフォローをしたのは、ハルナだった。





「そ……その話し……詳しく……聞いてもいいか?」





ハイレインの声が震える。

エレーナは、あの日の出来事をこの場にいる全ての者に伝える。



エレーナが見たもの……

その後、マイヤに聞いた出来事……



その場にいた者全てが、呼吸をするのを忘れてエレーナの話しに耳を傾ける。

いつもの上から目線な発言も、出すことができなかった。





「し……信じられん」





ハイレインは今聞いた話を、すぐには信じることはできなかった。

一度も会ったことがない精霊使いに対して、大精霊がそこまでするものなのか?




「と、いうことは……ハルナの精霊の属性は……」



「はい、”風”です」



「そ、そうなのか……」



ハイレインは、ハルナの指にはめれられたアクセサリを見て驚く。





「お……お前も、指輪を持つ者なのか!?」



ハイレインは困惑する。

今の者たちは、全員指輪の加護を受けている者なのかと。


確かに先代から引き継ぐ場合もあるが、それでもこんな高確率で一度の王選に集まることなど今まで聞いたこともない。





ハイレインはせっかく最後のパズルのピースをそろえたが、出来上がったものがまったく予想外のものが出来上がってしまっていた。



(もう、私の中では判断がつかん……)



頭を抱え込んだハイレインは、首を横に振りある決断を下す。



「エレーナとハルナ。少し時間をもらってもいいか?私の部屋まで来てほしいのだが」





従者たちはざわめく。

滅多に入ることが出来ないハイレインの部屋に、今日来たばかりの者たちがいともたやすく部屋に招かれるとは。



一瞬にして、プライドが傷つけられた怒りから、部屋の空気が緊張する。





「やめておけ。お前たちでは多分、相手にならん。それに、メイヤもいるしな……」



そういって、メイヤに目線をやる。

ぱっと見では、ただハルナの付き添いとしているようにみえるが、今の空気を感じとり、警戒態勢に入っていたことに気付いたものはほとんどいなかった。




「というわけで、付いてきてもらえるかな?……もちろん、付き添いの者も一緒で構わない」




エレーナとハルナは、頷いた。





「では、行こうか」



ハイレインは、廊下に出て自室へ向かう。

後ろにはハルナ達だけで、従者はついてきていない。



施設の廊下の奥の突き当たった場所に、ハイレインの部屋はあった。

自身で部屋の扉を開け、中に入っていく。

そして、後ろを振り返りハルナ達にも入室を促した。

そのまま、四人に腰かける様に指示する。





「お茶も出さずに済まないが、まずは聞いてほしい」



ハイレインは四人の座ったソファーから見える、自分の机の椅子に腰かけて話しかける。





「これからお前たちに見せるものについてだが……多分初めて目にするものだろうが、決して驚かないでほしい……いいね?」




「「……はい」」




ハルナとエレーナは唾を飲み込み、返事をする。

その返事を聞き、ハイレインは決心する。





「よろしい……それではお前たちに紹介しよう。我が友であり、協力者である”ディグド”だ」



ハイレインの前に光が集まり球になった。

その光は四人のの前にで、クルクルと楽しそうに回る。

その球がはじけると、中から人型の生き物が出てきた。





「——これが、今回の王選に選ばれた精霊使い達かい? 初めまして、みなさま。私が土の妖精”ディグド”です!」




ハルナ達は、黙ってその存在を見つめる。





「……初めて見る妖精に言葉が出ないかな?」




ハイレインは、満足そうに四人に告げる。





「とってもフウカ様に似てますね……」





思わずポロっと口にしたのはオリーブだった。

その言葉にしかめっ面をして反応する。





「な……なんだと? まさか……妖精まで!?」




「妖精ではないのですが……同じような人型の精霊なら出会ったというかいるというか……フーちゃん?」




「はーい!」





フウカが胸元から姿を見せる。




ハイレインの片目は、今日一番の見開きを見せた。



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