2-11 精霊と妖精
「な……何なのだ、お前たちは!」
次から次へと、ハイレインの想像を上回る事態が起きている。
ディグドはそんなハイレインの様子を、ケタケタと笑う。
「ハイレインってば、案外”頭でっかち”なんだよね。この子たちみたいに、起きたこと素直に受け止めれるだけで楽になるのにさ!」
「そうは言っても、こんなにも常識の範疇から外れた事案などそうそう無いものだよ……」
そういってハイレインは肩をすくめる。
「そうだね……僕はこの”精霊”が気になるね。君は、契約しているのかい?」
ディグドは、フウカに向かって聞いた。
「うん……ハル姉ちゃんとは、繋がっているよ」
「そうか、では、この契約者は精霊使いなんだね」
「普通、人型の精霊なんていないんだ。何十年に一度見かけるけど、それは精霊ではなくて人に懐いた妖精の場合が多い」
ハイレインが、話しを付け加える。
「それで、君も……」
「フウカだよ」
「……失礼、名前があるんだね。じゃあ、フウカも精霊の力は使えるのかな?」
「使えるよ!」
そういうと、軽く部屋の中に風を通した。
ハイレインの机の上にある書類が、散らばってしまった。
「ほう!これはかなり優位だね。精霊自身も力を扱えるなんて!」
ハイレインは飛びそうになる書類を手で押さえながら、フウカの力に驚く。
「その反面、精霊自身に何か起きると契約者自身も危なくなるから、そういう場面は少ないかも……ね」
ディグドは落ち着いて、その問題を指摘する。
それは実際にモイスティアで起きていた。
ヴェスティーユの攻撃からフウカが守ってくれた時、フウカの消滅で感じた、二度と体験したくないあの痛み。
ディグドはきっと、そのことを言っていた。
「あの、妖精様も力を使えるのですか?」
そう質問したのは、新たな存在への遭遇に興味津々なオリーブだった。
「あ。もしかして、精霊と妖精の違いを知りたいのかな?……いいよ、ほら」
ディグドはそういうと、片手を前に出し石の粒を作り出した。
「——こんな感じでいいかな?」
「有難うございます、精霊様」
「ディグドでいいよ……その呼ばれ方は、なんだかむず痒いし」
「ところで、精霊と妖精の違いってあるんですか?」
今まで、黙って話しを聞いていたエレーナが問いかける。
「そうだな……その説明はこの私からしよう」
ハイレインが机の席から立ち上がり、ゆっくりとこちらに向かって歩き出す。
ディグドはハイレインの肩の上に乗った。
「精霊は自然界に存在する四元素から自然発生した意識だけの生命体のような存在なのだ。その”存在”は、気に入った人物と契約をしその者に元素を元に自然の力を具現化する能力を与えてくれる……これは、精霊使いになるための講習で初期に習う内容だ」
ハルナだけはそんな話しは知らなかったが、ここは知っている振りをすることにした。
「契約者はその力を使うに辺り、精霊と”チャネル”と呼ばれる管のようなもので繋がれる。それにより精霊から得た元素を契約者に渡し、その力を具現化している。精霊自体は自然界では不安定な存在のため、存在感の強い生き物に頼りながら生きていく必要がある。……これは私の主観だが、精霊なりの共存共栄の手段なのかもな」
その肩の上で、ディグドはそれで問題ないと頷いている。
「ということで、精霊にも自我があることは理解してもらったと思う。それ以前に、自分の契約精霊と一緒に居ると薄々感じていたことだろう?……ここには例外が一名いるがな……」
ハイレインはハルナのことを、いたずらにちらっと横目で見る。
「精霊は契約者と一緒に居る時間が長いほど、経験や実績を蓄積していく。そんな中、稀にだが契約者と話せたり、人型を形成したりするものが出てくる。……それが、進化なのか、突然変異なのかはわかっていない」
オリーブもエレーナも所々で聞きたいことはあるが、今はそのタイミングではないと黙って続きを聞くことにしている。
「普段何もない場合は、生き物には寿命がある。もしくは、精霊使いとして活動できなくなり、精霊との契約を事前に解除する場合がある。精霊には意識体の存在のため寿命という縛りはない。通常は、始まりの森の時のように、契約が不成立と同じく元素となり消えていく……一部の存在を除いてな」
「もしかして……それが」
エレーナが、言葉を挟む。
「そう……。その存在が稀に精霊となり、この世界に残ることがある」
「それじゃあ、ディグドさん……いや、ディグド様も誰かの精霊だったんですか?」
間髪入れずに、この質問をしたのはハルナだった。
自分がいなくなったときに、フウカはそういう存在になってしまうのか。
一人ぼっちにさせてしまう可能性があることに、不安になった。
「そうだよ。僕の契約者は、……えっと、確かいまはお妃だっけ?」
「間違っていませんよ、ディグド。”彼”は、今のお妃の契約していた精霊でした。私たちのパートナーでもあり……アーテリアたちのライバル的な存在でもあったはず。こちらが勝手に思っているだけかもしれませんがね」
アーテリアとオリーブは、ここで初めて理解した。
ハイレインは、前回の王選に選ばれた精霊使いであることを。
「ということは、お二人はお母様をご存じ……?」
「あぁ、知っているよ。とても、聡明で責任感の強い御方だった。……その責任感に押しつぶされていた時期もあったようだが、今では随分と良くなったようだと聞いているよ」
そういって、アーテリアからもらった書状を、ヒラヒラと見せた。
「……と、そろそろこの場も慣れた頃かな?」
とディグドは、ハイレインの肩から飛び降りた。
そして、ハイレインとハルナ達が向かい合う丁度真ん中なの位置で浮遊した。
「それでは、聞こうか。どうして僕がこの場に呼ばれか、その理由をさ」
「そうだったな。……実はこのエレーナの精霊のことなのだ」
ハイレインは、今までの流れと思いついた疑問点とその確認した結果をディグドに伝えた。
「……なるほどね。ということは、エレーナの精霊と話してみる必要があるね」
「——え?そんなこと、できるんですか?」
「エレーナ、ディグドは出来なければこういうことを言わないんだよ」
ハイレインはまたも、妖しい悪戯な片目でエレーナに微笑む。
「……さてと。じゃあ、その奥に引っ込んでいる君を引っ張り出すか!」
そういうと、ディグドはエレーナの中に入っていった。
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