問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

序章

プロローグ



いらっしゃいませ。スナック『白金の扉』へようこそ。

私の名前は陽菜(はるな)と申します。現在、女子大生です。



お店の場所は銀座の中でも少し外側にある小さなビルの三階にあるお店です。



そもそも、こんな若い私がどうして夜の店で働いているのか……



小さい頃からひきこもり気味だったわたしが唯一進んで交流していた世界。

剣と魔法の世界にあこがれてずっとMMORPGにハマってました。

ある時ゲーム中で、ストーリー進行上に有意だという理由で、偶然誘われたパーティー参加の申請を受けました。

そこから主にゲーム内ですが、他の方達と関わるようになってきたのです。

その時、パーティーに誘ってくれた人がギルドマスターだったようで、そこからギルドに勧誘され流れで加入することになったんです。


次第にギルド内のメンバーと仲良くなり、いつの間にかギルド内のサブマスまで任されるほどに。結果的に社交性は、ゲームで身に付けることができたようなものでした。(かなり偏ってますが……)



では、なぜ夜のバイトをすることになったかというと、当初は何も知らずにゲームを始めたので、低スペックのノートPCで適当に遊んでいたんです。


段々ハマっていくうちにスペック不足に悩み、最終的には自作PCを用意するまでに。ゲーム内では無課金だったんですけどね……


そして次々と新しいパーツを交換し続けた結果、今までバイトやお年玉で貯めてきた貯蓄が底をつき、HP/MPがカラカラになって途方に暮れてたところを、祖母の提案によって週一日ほんの数時間だけの約束で夜のアルバイトをすることになったんです。




お店は元々祖母が始めたみたいですが、今は私の母の姉がお店を引き継いでいます。


そして、このお店の客層が凄いんですよ。

テレビや雑誌でお名前が出てくるような方々によく利用していただいているのです。でも、私がそういう方面に疎かったので「なにそれ?美味しいの?」状態なんですけど。


ですから、当店のお値段はそれ相応に。かといって”暴利を貪る”という程ではないんですけど、皆様が落ち着いて楽しんで頂けるように価格が顧客の線引きの役割りを果たしているのだとか。

ちなみに当店は、完全予約制でご紹介の方のみお受けしております。



そういうわけで、最初「夜のバイトは怖いなぁ……」なんて思っていたんですけど、みなさん良い人ばかりで本当に何事もなくお仕事させていただいております。



現在の従業員は、黒服の方が1名、女性は交代でお手伝いに来ていているベテランのお姉様方が3名。

本当はもうひとり伯母さまの娘がいたんですけどね。


私と同じ年のいとこの小夜(さよ)ちゃんとは、小さい頃はよく一緒に遊んでました。中学生くらいになると小夜ちゃんは向こうの友達とよく遊ぶようになって、そこから長い間疎遠に。その間、両親が話していたんですけど、悪い噂もちらほらと。


次に再会したのは、ここでバイトを始めた2年前。

最初は私に優しく教えてくれていたんですけど、段々と小夜さんの評判が悪くなってきて、お店に出てくることがなくなりました。


あるお姉様の話だと、私よりほんの数ヶ月前から入ったみたいで、最初はママの娘ってことでもてはやされてたみたいです。

しかし時間が経つにつれ、お客様におねだりしたり、自分のことしか話さないなどで評判が悪くなっていき、結局半年程でお店にこなくなってしまいました。

今は行方不明の状態ですが、他のお店を転々としていると、この界隈の噂です。



では、ご説明はこのくらいにして。

今日もほどほどにがんばっていきましょう!



お店のドアを開けると、すでに黒服のユウタさんが仕込みなど開店準備を始めてるのはいつもの光景。



「ユウタさん、おはようございます、今日もよろしくお願いします!」



「陽菜さん、おはようございます。今日もよろしくお願いしますね。で、今日はボス装備揃ったの?」



「う……、今日も出てこなかったんです(涙)。イベントボスは一日に昼と夜の2回しか沸かないし、夜はバイトでクエ参加できないですし。しかもイベントも明日で最後なんですよ!もう今日のバイト、本気で休もうかと思いましたよ」



「それはマズいよ、今日は陽菜さん目当ての予約が入ってるからね。予約すっぽかしちゃうと、銀座にいられなくなるかもよ」



「え、それは困る……グラボと電源を新しく交換しようと思ってるのに」



ユウタさんは数少ないゲーム仲間の一人。とはいっても、同じゲームをやっているのではなく、彼はコンシューマー機専門なのです。RPGの有名どころは全て抑えているらしく、そういった世界の話の内容はむしろユウタさんの方が濃いくらい。

ちなみユウタさんは現在この店で修行中ですが、ワインのソムリエの資格をもっていたり、カクテルの世界大会で表彰されたのだとか。

とにかく、そうは見えないですけど、すごい方なのです。

年齢は教えてくれませんが30前後と予測。独身で料理上手、さらに背が高くてイケメンなのはいうまでもありません。





「あ、冬美(ふゆみ)さん。おはようございます!」



次にスーツ姿で出勤して来たのは、お姉さまのうちの一人で冬美さん。女性としての憧れの存在です。

字も綺麗で、お店のお花も生けて、英語も話せて会話も知的で話題の守備範囲も広くなんでもあり。


嫁をもらうなら……いや、一緒に冒険するならリーダーはこういう方だと心に決めてます。



「今日は陽菜ちゃんと一緒なのね、がんばろうねー」


「はい!よろしくお願いします!!」


(う~ん…… 冬美さん、今日もいい匂いで綺麗だ……)


っと、意識が飛ぶところだった。危ない危ない。






お店用の服装に着替えて、冬美さんに髪のセットと簡単なお化粧をしてもらって準備完了。

おっと、祖母との約束でお店に出るときはもらった指輪をつけることになってるんだった。箱から指輪を取り出し指につけてっと。

指輪の表面は模様で象形文字のような神秘的なデザイン、裏側にはどこかの国のような不規則な記号が刻まれた指輪。

今度、どこの国の文字でどんな意味が書かれてるのか、おばあちゃんに聞いてみよっと。





さて、開店時間まであと10分。



……?


(スンスン)


何か臭いません?



「ねぇ、ユウタさん。なんか臭いません?ガソリンスタンドとか初めてつけたストーブのような」


「ん? ……(スンスン)なんだろ?外から臭うね。ちょっと見てこようか」



ガチャ。



「あ、小夜さ……!?」



ドアの外には小夜ちゃんの姿があり、その様子がおかしいことは一目で見てわかりました。

目が虚で、長い髪もボサボサ。時間の経った化粧顔。服も黒いワンピースが汚れて灰色でクシャクシャ。

片方は素足のままで、その手には何かの液体によって満たされた2リットルのペットボトルと、その足元には既に空となったペットボトルが転がっている。



「さ、小夜ちゃん!? どうしたの? 何があったの?」


私が声をかけて駆け寄ろうとしたその時、小夜ちゃんはユウタさんを腕で押し退けて店の中に入ってきた。そして



バタン……ガチャ。



小夜ちゃんはドアを閉めて鍵を掛けた。もう、これで誰も出入りできない。店の中は有線放送のピアノ音だけが流れていました。


様子見からの数十秒間言葉がなく、そろそろ誰かが言葉を掛けようとしたその時、小夜ちゃんはゆっくりと口を開いたんです。



「――ロス……私をバカにしたヤツはみんな殺してやる!

アタシはこんなに凄いのに、なんで誰もアタシのことを認めてくれない!

有名人だってうちの親に頼るくらい凄いなのに!

どいつもこいつもアタシをバカにした目で見やがって!!

死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ!

みんな死ねぇぇぇぇ!

全部燃えて消えてなくなれぇぇぇぇ!!」




そう叫びながら、残ったペットボトルの液体(この匂いからガソリンかも)を不規則な動きで周囲に撒き散らし始めました。

離れたカウンター内にいた私と冬美さんは液体がかかることはなかったが、ユウタさんと小夜ちゃんはびしょ濡れになるくらい浴びてしまっていました。


小夜ちゃんは空になったペットボトルをカウンターに向かって投げつけ、ポケットから電子ライターを出したんです。

呼吸が荒く目が血走り、これ以上は目が飛び出そうなくらいに開き、着火用のボタンに親指をかけようとしたその時。

ユウタさんが後ろからその手を掴んで、ライターを奪おうとした。必死に抵抗する小夜ちゃんとライターを上に掲げるような体勢で取っ組み合いとなりました。


なんとかライターを奪われないようにとユウタさんの下腿を何度も蹴ると意識が逸れたのか、ライターを握る手の力が抜け始めるのを感じ、ユウタさんはその隙にライターを奪うことができたんです。


そしてユウタさんは距離を取ろうとし、小夜ちゃんを後ろから突き飛ばしました。

すると、小夜ちゃんはちょうどカウンターから出てきた私の方に倒れかかって……




『パチッ』




小夜ちゃんの伸ばした手が私の身体に触れた瞬間、静電気が発生。




――ドンッ






気化したガソリンに引火し、スローモーションで青白い炎が私たちを中心に広がっていき目の前が真っ白になって何も見えなくなった。




叫ぼうとしても声を出す時間もない。

何が起こったのか考える暇などなかった。




熱さや痛みはないが、ほんの一瞬髪の毛が焼ける独特の匂いがした。

それが意識が途絶える直前に感じた、現世での最後の感覚だった。




翌朝、各社の新聞の一面にはビルの爆発の記事が載っていた。



そこに書かれていたものは





『生存者なし』




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