2話:最高の夏休み。……のはずが? PART2

「……こんなの、あまりに残酷すぎるじゃないか……!」

「ナツ君っ……」


 絞り出したかのような彼氏の声音に、未仔は何を想うのだろうか。

 夏彦と同じく、怒り? 悔しさ? 悲しさ?

 答えは分かり切っている。


 めっちゃ恥ずかしい。


「あ、あのねナツ君……。嬉しいよ? けど、ちょっと私のこと、大切に扱いすぎじゃないかな……?」


 体操服姿の未仔が、顔を赤らめつつモジモジすれば、周囲の皆さんも我慢の限界。



「「「「「早く投げろよ!!!」」」」」



 グラウンド中央から響き渡る、ツッコミと言う名のシュプレヒコール。他の競技者たちも「何事!?」と注目してしまうくらいの残念っぷり。


 ドッジボールなう。

 一学期のラスボス的存在、期末テストも終わった7月中旬。全校生徒はボーナスステージさながらに、球技大会で汗を流しているというオチ。


 テストの結果が良かった者は、まったりのんびりと楽しむ。テストの結果が悪かった者は、「親の仇ですか?」と聞きたくなるくらいボールに怨念や憤怒の念を込める。

 前者でも後者でもない夏彦バカレシは、対戦相手である最愛の彼女にボールを当てることなどできないと嘆いているというわけだ。


 一回戦から夏彦と未仔のクラスが当たるのは、運が悪いのかもしれない。しかし、運営である実行委員からすれば知ったこっちゃない。


 おめでたい男の背後から、猛ダッシュで駆け寄ってくる人物が約一名。


「アホナツハゲコラァァァ―――! このクソ暑い中、いつまで茶番劇しとんねん!」


 集団ツッコミよりも切れ味抜群のツッコミ――、というか罵詈雑言を浴びせるのは夏彦の悪友、冴木琥珀。


 半袖シャツをタンクトップ風に捲り上げ、首にはスポーツタオルを巻いたラフスタイル。

 オシャレを意識しているというより、シンプルに暑いのだろう。にも拘わらず、体操服を少し着崩しただけで、様になったコーデに変わってしまうのは、ボンキュッボンなナイスバディのおかげであったり、夏の太陽に負けないくらい華やかな容姿のおかげ。


 黙っていれば美少女の琥珀が、激しい剣幕でエキサイトするのは、夏彦のせい。


「何を物語終盤、主人公とヒロインが殺し合いを余儀なくされるシーンみたいな雰囲気醸し出してますのん!? これデスゲームやなくて、ドッジボールやから!」

「俺だって分かってるさ! けど仕方ないじゃないか! いくらドッジボールとはいえ、幼気いたいけな未仔ちゃんにボールを当てることなんかできるわけないだろ! 繰り返す! あんな健気で可愛い天使にボールを当てることなんか――、」

「できるわボケ! スポンジボールにそんな殺傷能力あるわけないやろ!」


 身を持って体感しろと、ボールを分捕ぶんどった琥珀が、夏彦の顔面へとボールをグリグリ押し付ける。案の定、ダメージはゼロ。夏彦の顔がブサイクになるだけ。


「そもそもの話やで? 未仔ちゃんがヒロインポジションなのは分かるけど、アンタのポジションが主人公なのは違和感しかないわ」

「なっ……!」

「アンタ、モブキャラやん。主人公たちよりも前にデスゲームに挑戦して、呆気なく瞬殺しゅんころされるモブキャラやん」

「に、二回もモブキャラって言うなぁ!」


 夏彦は思う。我が友は、なんて的確なたとえをしてくるのだろうと。


「琥珀だってメインキャラと思いきや、途中で悲惨な死に方するキャラじゃないか!」

「はんっ。記憶に残らない死に方するくらいなら、ギロチンで首チョンパされたり、オークに凌辱されて息絶えるほうがマシやで」

「なんて達観した奴なんだ……。というか、漫画脳すぎる……」

「やかましい。打ち切り顔が」

「!? 打ち切――……っ! うわぁぁぁぁん! どうせ俺は、10週持たねえよチクショウ!」


 大爆笑する琥珀を背に、メッタメッタされた夏彦は、内野にいるもう1人の友へと涙目で救援要請。毎度のテンプレである。


「草次! あの関西女が、俺のこと打ち切り顔って言ってくる! 『ご愛読ありがとうございました』って!」

「どうでもいいから、早く投げろよ……」

「素っ気ない!」


 ドライかつ塩対応を見せる男の名を伊豆見草次。

 クールなナイスガイも夏の太陽には参るばかり。早いとこ試合を切り上げて、木陰のベンチでアイスコーヒー片手に涼みたいようだ。


 ちなみに、草次をデスゲーム系漫画の登場人物にたとえるならば、頭の切れる主人公。もしくは、超重要な役どころで主人公たちのために命を落とす名脇役。


 草次が素っ気ない性格なのもあるが、今回ばかりは夏彦に問題アリ。

 この炎天下の中、バカップルの茶番劇を見たい物好きなどいるわけがない。

 外野にいるクラスメイトの塩屋圭や逆瀬大地など、


「お前はTPOって言葉を知らんのか! 汗と涙で脱水症状になるわ!」

「傘井っちパスパース! 顔面セーフらしいから、30発くらい殴らせ――、投げさせろ!」


 愛に飢えた野郎共が、夏彦へ中指を立てて大ブーイング。羨ましいを通り越して殺意しか芽生えないようだ。


「ナツ兄……。一家の恥さらしだよ……」


 敵チームの外野にいる妹からも冷ややかな言葉が呟かれる始末。兄の威厳皆無。


「投げへんのやったら、ウチが投げたるわ」

「あっ!」


 挙句の果てには、琥珀にボールを投げる権利を奪われてしまう。

 最悪な展開かもしれない。


「なーなー、未仔ちゃん」

「は、はいです?」

「ウチはナツみたいに甘くない。――その意味、分かるやんね?」

「ひっ……!」






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デスゲームと見せかけて球技大会 ʅ(◔౪◔ ) ʃ



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