7話:草次はいつでもクールな男

 興がめたのか。フンッ! とわざとらしく鼻を鳴らした琥珀は、夏彦の席に座ると、そのままマガジンを読み始める。

 好きな作品から読むタイプ故、もっぱら最初に目を通すのは目次である。


 巻頭から読む派の夏彦、マガジンだけでなく自分の席まで奪われてしまったものの、命を天秤に掛ければ安い。何よりも、乳で溺死できしするとすれば未仔の乳で死にたい。


 愛する彼女の胸で死ぬためには、相応しい男になることが絶対条件。

 頼れるイケメン草次に質疑応答したいところだが、今この話をすれば琥珀神こはくしんの機嫌を再び損ねる可能性大。そもそも、面倒くさがりな草次が答えてくれる見込みが薄いのも重々分かりきっている。


 要するに、自分で模索していくほか、手立てはないのだ。

 世の中、切り替えが大事。


「あっ。そうだ草次」

「ん?」

「今日の放課後って空いてる?」


 草次としては、意外な質問だったようだ。


「水曜日の放課後って、未仔ちゃんと一緒に帰る日じゃないのか?」

「そうなんだけどさ。今日の放課後は、琥珀の家でゲームして遊ぶんだよ。勿論、未仔ちゃんと一緒に」


 未仔がゲーム。

 何ら不思議なことではない。夏彦LOVEな未仔なのだから、彼氏と趣味を共有したいのは当然のことだろう。

 初の休日デート、未仔宅でゲーム実況動画を観たことがキッカケで、未仔は夏彦とちょくちょくゲームをするようになっていた。

 初めのうちは操作もおぼつかず、小さな手でアタフタとコントローラーを動かしたり、キャラの動きにつられて身体が傾いたり。


 某ゾンビゲーを一緒にプレイすれば、


「未仔ちゃん! ゾンビに囲まれたのでサポートお願いします!」

「うんっ! 閃光手榴弾投げるね!」

「あ、熱っ!? 未仔ちゃん、それ焼夷手榴弾!」

「へっ!? ひーん! ナツ君燃やしちゃったよう!」

 と、トドメと火葬を同時にしちゃったり。


 某バトロワゲーを一緒にプレイすれば、


「未仔ちゃん! 敵と交戦中なのでサポートお願いします!」

「了解ですっ! えっと……、相手に照準を合わせたら、思い切ってトリガーを引くんだよね……? え、えいっ。 !? や、やった! 初めてダウンとれました♪」

「未仔ちゃん、それ俺!」

「へっ!? ひーん 初めてがナツ君だよう!」

 と、一瞬で朗報が悲報に代わってしまったり。


 とまぁ、初心者なりの紆余曲折があったが、夏彦指導のもと、ひたむきに一生懸命プレイし続けた結果、脱ビギナーにまで昇格した経緯である。

 夏彦としては、おぼつかないプレイの未仔を隣で眺めるのも、至福な時間ではあるのだが。


 兎にも角にも、ビギナーを脱したことから、琥珀宅で色々なゲームを楽しむのが、ここ最近の恒例イベントの1つになっているというわけだ。

 さすが生粋のゲーマー。マガジンを読んでいた琥珀も、「お! その話題ですか」と、意気揚々と顔を上げる。


「せやせや。コイツらバカップルが、いっちょ前に勝負挑んでくるから、毎回返り討ちにしてんねん」

「強く出れるのもコレっきりだ! 今日こそ俺と未仔ちゃんが勝つ!」

「寝言は寝て言わんかい、ボケカスアホ彦」

「腹立つ――っ! 中指立てんなチクショウ!」


「じゃあ、親指を下~♪」と琥珀がケラケラ笑えば、「絶対、負かして泣かす!」と夏彦がメラメラ闘志を燃やす。いつもの光景である。

 とはいえ、血を血で洗うような物騒なガチバトルでは勿論ない。町内会主催のゲートボール大会くらい和気あいあいしている恒例イベントといえよう。

 何故ならば、琥珀に勝つことはメインの目的ではないから。


 夏彦にとって1番の目的は、彼女である未仔と、悪友である琥珀が親交を深めることである。どちらも大切な存在だからこそ、どちらも良好な関係を結んでほしいのだ。

 草次も例外ではない。

 だからこそ、


「というわけで、草次も――、」

「あー。俺はパスな」

「…………」


 夏彦は思う。

「せめて、最後まで聞いてくれません……?」


 このクールというか素っ気ない感じが、草次という男なわけだが。

 草次を今まで何度か遊びに誘ったことがある夏彦だが、どれも結果は失敗続き。

 というわけで、今回も一蹴されることを覚悟していた。それでも一縷いちるの望みくらいは持っていただけに、やはり残念という気持ちは芽生える。

 それは琥珀も同じ気持ちのようで、


「草次は今日もデートなん?」

「まぁ、そんなとこかな」

「全く! 彼女ばっかし優先してたら、将来出世できへんで!」

「出世云々うんぬんは社会人になってから考えるさ。てか、そんなこと言ったら、未仔ちゃん最優先な夏彦の方のほうがヤバいんじゃね?」

「ああ。ナツは出世とは無縁の人生やからエエねん」

「無縁じゃねーよ!?」


 特大ブーメランというか特大フリスビー。夏彦の脳天へと直撃すれば、琥珀と草次は大笑い。

 むくれる夏彦へと、草次は笑みを残しつつ謝罪する。


「というわけだから悪いな。琥珀退治は俺抜きで頑張ってくれ」


「ウチを妖怪みたいに言うな」と琥珀にツッコませることにも成功した草次は、朝のコミュニケーションは終了と言わんばかり。窓際にある自分の席へと向かってしまう。

 離れていく草次の背を眺めつつ、夏彦と琥珀は呟いてしまう。


「相変わらずクールだなぁ……」

「相変わらずドライな奴やなー」






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趣味がゲームの女の子って強い。

弱くても可愛いし、強くても可愛い。

反則(☝ ՞ਊ ՞)☝



次回は久々の未仔視点でお届け!



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