6話:おっぱいを揉みたいと叫ぶ30分前の話 PART5

「えー。マクド行こや。どうせ暇やん、お前」

「どうせ言うな! 暇だけどさ!」

「ナツのそういう素直なとこ、ウチは結構好きやで」


「勿論、友達としてやけど」と釘どころかくさびを打ち付けた琥珀は、読み終えたマガジンをベンチ隅に置くと、夏彦のほうへと身体を向ける。


「まーまー。そんな悲観的にならんでも。ナツに彼女がいつできるかは知らんけど、それまではウチがガッツリ遊んだるやん。一肌も二肌も脱いだるやん」


『一肌も二肌を脱ぐ』を表現するためか。琥珀はシャツの襟部分を掴むと、ぐい、とインナーごとスペースを拡げる。


 ぞくに言うチラ見せ。


「!!!」


 そこは男のさが。夏彦の視線は、琥珀のはだけた首元にいってしまう。瞬きを忘れてしまう。脳が8K録画モードに切り替わってしまう。


 男勝りであれど、琥珀は顔もスタイルも特級品。普段拝むことのできない鎖骨などのデコルテライン、さらには、制服からでも隠しきれない豊満な胸のふくらみが、煩悩の世界へと歓迎会を開催。

 おもてなしは底知れず。ブラ紐だ。ブラ紐まで見えている。紺色で細紐タイプのがくっきり見えている。


 デコルテライン、胸のふくらみ、ブラ紐。

 究極3連コンボだドン。


 さすがの夏彦でさえ、ガン見するのは危険すぎる。このままでは、リトル夏彦が反抗期を迎えてしまう。童貞の性。

『目の前の奴は、女の形をしたオッサン』と胸中で唱えつつ、夏彦は指摘する。


「琥珀、見えてる」

「んん?」


 指差されれば、ようやくブラ紐が見えていることに琥珀が気付く。

 普通の女子ならば、「キャー、のび太さんのエッチ」的な感覚で赤面するのだろう。

 けれど、女の形をしたオッサンは、チャック開いてますと指摘された感覚なのか。


「ほんまやね」


 何食わぬ顔で襟を正すだけ。


「お前、本当に女なのか……?」

「ブラ紐如きでヤイヤイ言いなや。所詮、乳支えるだけのもんやん」

「……。発想が女子じゃねえ……」

「そんな男らしいウチのおっぱいガン見しとったのは、どこのどいつカナ?」

「!?!?!?」


 立派な胸の持主は、他人が胸に注目しているのが分かる。

 そんな話は、都市伝説だと思っていた夏彦は、身を持って体感する。

 本当の話だったと。


 琥珀は、新しい玩具を見つけたかのように、イヒッと笑う。

 そして、羞恥心無い系女子は、セクハラ大魔神と化す。


「お、おまっ……!?」

「ほら夏彦ちゃーん、オッパイでちゅよー♪」


 推定EかFはあるであろう豊満なバストを、下からすくい上げるかのように持ち上げ、夏彦へと距離を詰めるわ詰めるわ。

 右手に右乳、左手に左乳。まるで、「メロンやスイカいかがですか?」の如し。


 しかし、目の前にある代物は、メロンやスイカではない。おっぱいだ。

 童貞なつひこが耐えられるわけがない。


「か、かかかかからかうなぁ! 胸を見せびらかすな! 寄せるな! 近づけるな! 俺の純情を汚すなぁ!」


 胸を押し付ける寸でのところで、琥珀が吹き出して大爆笑。


「ひゃはははは! ナツ、反応可愛すぎ! ウチの胸で興奮しすぎ~~~!」

「最低だ! 最低の女だ! 下品にも程がある!」

「ほんま。童貞言うたら怒るくせに、純情が汚れるとか言いなや。キャラぶれぶれやで」

「うるさい! うるさい! てか、16歳で童貞は普通だからな!? 多分! いいや絶対! JISでも規格されてるに違いない!」


「そんなこと言う奴に限って、一生童貞のままなんやで?」

「ぐっ……!」

「そんなこと言う奴に限って、30歳近づく頃には、『30まで童貞貫くと魔法使えっから』とか開き直るんやろなぁ」

「ぐぐっ……! ……本当に魔法が使えるなら、お前を消し炭にしてやりたい……!」


「アホか。本当に魔法使えるなら、ウチかて一生処女でおるわ」

「くぅぅぅぅ~~~~! 何でコイツは、俺と対等な立場のくせに堂々としてるんだ……!」

「価値観って人それぞれやからちゃうかな」

「今更、良いこと言っても無駄だからな!?」


 彼女がいないことをからかわれ、童貞だとからかわれ、おっぱいを使ってからかわれ。

 全てにおいて夏彦、大敗。

 戦略撤退というか、メンタル的に撤退せざる得ないというか。

 リュックの中にマガジンをぶち込んだ夏彦は、勢いよく立ち上がる。


 そして、


「今に見てろよ! 超絶に可愛い彼女を絶対作ってやるからな!」


 その宣言は、奴隷解放宣言のように革命的なものではない。

 三下ヨロシクな、バイバイキーンのような、敗者が去り際に吐く悲しきセリフに近い。


「お前の、おっぱ――、胸なんかに目移りしないくらい、可愛い子とイチャイチャするから! お前に自慢してやるから覚悟しとけ! 分かったか!?」

「あ。妄想話長くなりそう? やったらマクドで話さへん?」



「チクショォォォォォォォ―――~~~~!」



 夏彦は琥珀を捨てて走り出す。

 ただガムシャラに。

 己の矮小わいしょうさを噛み締めつつ。





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-お知らせ-

次回、壊れた夏彦が走ります。


バカ同士の会話が好きという方は、ブックマーク&評価お願いします(笑)

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